1耳目:お姉ちゃん
十年ぶりに数合わせで合コンに呼ばれました。大人しくオーダー係を務め、相槌をうち、2次会を断って直帰を勝ち取りました。その中で、
どうしても頭から離れず気になったお話があったのでまとめました。
後ろの席から聞こえてきた、誰かの幼少期のお話。
●便宜上「私」が体験したこととして記述しています。
●特定されない程度に情報がぼかされている場合があります。
今はもう霊感なんてないんだけど、小さいときは何もない空間をじっと見つめたり、話しかけたりしていたらしい。
あまりにも頻繁で不気味だったこともあり、とうとう母はビデオカメラを設置することにしたんだと。
とはいえ、まだ8ミリビデオカメラの時代なので120分が限界。
私がお話しし始めたらビデオカメラを回し、「ばいばい」と言ったところでビデオを切るというのを7日分撮っていた。
母は父と一緒にビデオテープを見てみたが、私の視線の先には何も映っていなかったそうだ。
「ストレスか脳の異常かもしれない」
という父の勧めで知り合いの臨床心理士さんのお部屋に行った。
箱庭で家を作ったり、絵の具のシミみたいなものがどんな生き物に似ているかお話ししたり、たくさん遊んでもらって楽しかった記憶がある。
お絵描きをしているときだった。
「これはお母さんかな?」
「ううん、ちゃんちゃん」
「ちゃんちゃんはどんな子?」
「お姉ちゃん。いつも遊んでくれて優しいの。」
箱庭のジオラマに連れてこられて家の中を見せられた。
「お姉ちゃんはどこにいるの?」
「うーん、お家の中はどこでも?でもお外に行けないんだって。」
「なんで?」
「お外に出るとお空に飛ばされちゃうんだって。」
最後に、母が記録してたビデオテープを一緒に見ることになった。
臨床心理士さん、相当怖かったと思う。
何も映ってない虚空に向かって手を振る私。
会話を楽しんでいる私。私はつまらなくて途中で寝たんだと思う。
いつの間にかテープはケースにしまわれ、血の気が引いた両親と一緒に神社へお祓いに行った。
約15年後、先日帰省した際に母に聞いたら、あのビデオテープは神社で供養の後そのまま神社保管になったとのこと。
「何が映っていたのか分からないんだけど、あなたの会話の内容がね…」
と口ごもって父とアイコンタクトをした後で父が教えてくれた。
「確かに死産だったけど、お前には『お姉ちゃん』がいた。名前は」
「○○ちゃん、だよね。ちっちゃい時よく遊んでくれてたんだけど、途中で見えなくなっちゃった。」
「…お姉ちゃんは、真澄だよ。死産届にもますみって…」
「ますみ?あれ、一緒に遊んでいたのって?」
急に名前が思い出せず、発音もできず困惑していた。
私はどこの誰と遊んでいたんだろう。
「じゃあ、座敷童だったのかな?」
「それはない、あれはね…。何を言わされそうになってたのか分かっても文章にしないでね」
もともと文字も音読も4才からスラスラできるような子だったそうな。
簡単に言えるはずの文章が口ごもって言えなかったのは本当に不思議。
聞こえてきたものを書いたお母さんの手記を、「たしかこんな感じ」とお友達と話してるようだった。
私も聞き取れたものを絵しりとりのどさくさで書いたメモを読み直してみた。
「あ姉ちゃん、とぅくお、ちゃい、しう、まとぅあしぬ、きゃら?ら、わげ?ない!」
二重母音だとしたら、「お姉ちゃんと、こうたい、する、わたしの、からだ、あげ…ない!」
彼女の場合、本物のお姉ちゃんが守ってくれてたんじゃないかな。
と思うことにしてる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?