やること6、仕事を任せる方法を考える
「おはよう」
机の上に書類を置いた微風で小さな赤べこがコクンと頷く。
赤べこの前には「至急」だの「月曜朝イチで」の付箋がおひねりのように撒かれている。
隣の席の森田あんずがチラチラ何か言いたげに様子をうかがっている。
用事があるくせに「声をかけられるのを待ってます」というのが面倒臭い。ここは会社だぞ。
癪なので無視してパソコンを立ち上げ、付箋の内容をひとつひとつ確認していく。
・至急:月曜日朝イチの会議で使う資料6部用意して 解良
・月曜朝イチで:解良課長から、資料6部お願いします!
・月15時:水曜日の商談まとまりました!今後について月15時から30分、MTGお時間いただけますか 林
解良さんにプリントした資料を6部渡して、林さんにメールで返答して、商品売り上げ実績のチェックと購買ページまでの動線で滞っている箇所を洗い出す。3連休明けでデータが重いのか抽出に時間がかかる。
今日のToDoをチェックしていると痺れを切らした森田あんずがやっと話しかけてきた。
「あの、朝田さん。メモなんですけど」
「ん?メモ?赤べこの前に置いてあったやつ?」
「あ、はい月曜朝イチでお願いしますって」
「解良さんと林さんの分はもう済んだよ。名前書いてないやつは内容被ってたから捨てたけど。」
森田あんずの顔がどんどん赤くなっていく。どうしろというのだ?
「森田さん、木曜日に渡した『社会人一年目が身に着ける仕事術』読んだ?160ページくらいだったから連休中に読めると思ったんだけど。」
「あ、読んでないです。」
バツが悪そうに今度は目を合わせなくなった。
「あれは世の中の一般的な社会人の基本ルールをまとめた本なんだ。森田さんは人の様子を見て『時間ありそうだったら声かけよう』ってしてると思うけど、急ぎのことを話しかけられなかったら困るよね?そういうときの声のかけ方だったり、お願いを聞いてもらいやすくするための質問の仕方とか載ってるから。始業までに見出しだけでも読んでおいて。」
直接ガミガミいうとパワハラ扱いされかねないし、
かといってチヤホヤできるほど私の器は広くない。
社会人1年目は恥をかいてなんぼ。それが嫌なら本読んで基礎を磨いとけ。
「あの、本自宅に忘れてきてしまって…」
救いようがないな。明日までの宿題にするか。
まだ抽出は終わらない。
とりあえず話を聞くと、木曜日に私が定時退社した後、解良課長から『月曜朝イチでシステム課に出す販促資料を作ってほしい』と、たまたま忘れ物を取りに来た森田がお願いされたとのことだった。
「朝田さんの担当なので私分かりませんとお伝えして帰ったんですけど」
解良さんから「仕事教えてやれ」って言われたわけだ。
「そういうときは『担当の朝田さんはすでに退勤されていますが、月曜朝イチにどういった資料が必要かお伺いしてよろしいですか。本人にメールで確認します。』って言えばいいんだよ。」
森田はまじめにメモを取る。
ついでに伝わりやすいメモについて教えて、ふと思いついた。
この子ができるレベルで仕事のマニュアル作ったら、私の負担減るんじゃない?
「森田さんさ、私の仕事奪ってみたくない?」
「無理です」
「だよねー。でもマニュアルがあって、その通りにやったら失敗せずにできる仕事だったらどう?例えば、資料の名前を入力してボタンを押したら資料の印刷までできちゃうようなやつ。」
「それなら、できます。」
「そしたら、10時半くらいに30分だけお時間ください。」
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