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誕生日、人間ドックへ行くことに

「最近、イカロス…鳥人間コンテストしながら島から脱出するみたいな夢見るのよね。」
「なんだかICO(昔の孤島脱出ゲーム)みたいだね。」
ユナのくちびるが桜色に塗り変わる。春色のリップいいな。

「毎回流れは一緒なんだけど、駅員さんから返される切符の有効期限だけ、どんどんカウントダウンしてくの」
「えー、余命宣告みたい」
「でも健康診断でどこも異常ないんだよ?」
「いうて、今までバリウムとか血液検査なかったじゃん?まさかのがん見つかったりして」
ユナのまつ毛が2倍の長さになっていた。

まさかね。
私たち35歳未満の従業員の健康診断は、身長と体重、血圧と問診で終わりだった。
『自分へのご褒美に、誕生日に人間ドック行ってきます!』って有給取ってこいよ。福利厚生で補助出るし。」
ユナの顔はヨハネ=クラウザーⅡ世並みの骨格へと変貌し、キツめの美女に変身を遂げた。
化粧で中身まで切り替えができるとは、なんとも器用だなと毎度思う。

彼女の勧めもあって、人間ドックに行ってきた。
人生初のバリウム体験はなかなかのハードコアだった。
まずい試験薬飲んで、お腹がガスで圧迫されて苦しいけど、ゲップしちゃいけないのだと。
何が悲しゅうて誕生日にこんな苦行をしてるんだろうと惨めな気持ちになりつつあった。もはや罰ゲームである。

「お疲れ様でした。結果は2週間後に郵送します。
便に白いものが混ざらなくなるまでお水飲み続けてくださいね。」

ふー。辛かった。お水も大量に飲み続けるのか。
トイレとお友だちになるのか、、、だが、慣れる。
むしろこんなにお水飲んでるんだったらお酒飲んでも悪酔いしないんじゃないか?
いつもの居酒屋で、誕生日祝いソロ部門を決行した。
もちろん、トイレ側の席で。

ほろ酔いで良い気分で帰宅。
明日は土曜日。3連休になっていた。
便はもう白い物も混じることなく、腸内の諸々も流し切ったような。
とても清々しい気持ちになった。
宿便も出し切ったのか、体重は朝と比べて2キロほど落ちていた。

翌朝、スマホの通知画面に病院とサトシから着信が何件か入っていた。
病院からの留守電には健康保険証と診察券の返却洩れがあったとのことだった。火曜日、仕事上がりに取りに行くことにした。

サトシは中学生以来の連絡だった。
おそらく誤作動でかけてしまったんじゃなかろうか。放置しよう。
と着信履歴を消すつもりがうっかり折り返し電話をしてしまった。


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