口伝と記録
古代の日本には、特定の職を担当した一族である部民の一種として、有記部(あーきべ)という人々がいたという。有記部は、物事の記録を担当し、物事の記憶と語りを担当する語部とその職掌を争った。
有記部は100名ごとに車座に座る。長(おさ)は南面して真北に座り、その後ろに添人(そえびと)が座る。添人が、記録するべきことの最初の一文を長に耳打ちする。長は、自身の右隣りの者に今聞いたことを耳打ちする。そして、順々に右に右に耳打ちしていく。続いて、長が右隣りに一言目を耳打ちし終えると、添人が第二の物事を耳打ちする。長は、再び右隣にそれを耳打ちする。
やがて、一周してきたささやきは、左隣から長に耳打ちされる。長は再び右の者に耳打ちし、かくて記録の輪は完成する。このようにして、有記部は50の物事を決して誤ることなく記憶できたという。
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