息子の宿題・算数②
結論から言えば、付き合えるはずがない。
しかし私は最後まで付き合ったのだ。
テキストを広げた瞬間「多いよー!」と嘆く息子。日常である。
「おかあさん教えるの下手じゃん!」
「下手かもしれないけど教えるよ。」
「絶対下手だよ!」
「……じゃおとうさん帰ってきたらやろうよ。」
「いやだ!今やるって言ってるじゃん!」
私はもうすでに7割のエネルギーを失っている。
ちなみに内容は、面積と体積である。縦3.5、横7.2の面積を求めよう的な奴だ。つまり少数をかければ出るやつだ。夫のおかげで少数同士のかけ算は息子は理解している。最後にどこに小数点をつけるかもわかっている。
しかし嫌がるのだ。
何がそんなに嫌なのかまったくわからない。(わかったらおしまいなのだが)
ただ「多いように感じられて最悪な気持ち」に翻弄されているのだ。
私はこれを個性とは絶対に捉えない。障害以外の何物でもない。クソ以下である。かんしゃくを浴びるのは、他人(しかも大嫌いな相手)のゲロを飲まされるような気分だと思っていただきたい。憎しみが湧くというより、自分という自己の尊厳を蹂躙されるのだ。
ひとつひとつ、丁寧に、ゆっくりと、息子が理解できるよう寄り添って、宿題に取り組む。
なのに音量と熱量が増すばかりのかんしゃく。
「もうやめようよ……おとうさん帰ってきたらやろう?」と声をかけても頑なに拒否する。
私の防衛機制が発動する。思考を遠ざけることだ。目を見開いて遠くを見るのだ。
閉じると「おかあさんこっち見てって言ってるじゃん!!!!」とかんしゃくが増すからだ。
まだ明るい窓の外の遠く遠くを見る。焦点は合わない。私が見ているのは遥か彼方だから。そこに意識を飛ばす。
それをもってしてもかき消されるほどにかんしゃくはヒートアップしていく。発狂である。
私は怒ると怒りが発動しないようにできている。怒りを表出したところでかんしゃくが増すだけということを知っているから、無為だ。
私は今夜外出するということだけを支えに、自分を保ち、守った。
宿題はなんとか終わった。1時間近くかかった。
息子はけろっとして「ぎゅーして」と甘えてきた。
私の心は無である。
今すぐに息子から離れたい。この異星人から。
(つづく)