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【エッセイ】ねこ

 ねこが居つくようになった。
 やっと暖かくなり、冬のはじめに死んだ飼い犬のお骨を家の裏に埋めた頃からだ。
 以前から、うちや隣近所をうろついている3匹のなかの1匹で、白い毛に少しブチが入っている。前は何日かに一度やってきては、愛想もふらずに居眠りをして、知らないうちに居なくなっていたのに、この頃は玄関先で待っていて、外に出るとすぐに駆け寄ってくる。
 歩くと、後ろを鳴きながらついてくる。時おり、走って人間を追い抜かす。そして、振り返ってまたにゃあと鳴く。ガラスの引き戸にぴったりとくっついて開けるのを催促するくせに、家の中には入らない。
 最近では、日当たりのよい数カ所を自分の場所と定めたらしく、のぞくとたいていそのどこかで寝ていたり、座っていたりする。顔にも背中にも足先にもふくふくとした丸みがあり、犬とはまた違ったフォルムが愛らしい。何日かに一度、姿を消すことがあるが、またすぐに戻ってくる。
 まだいるとか、にゃあにゃあうるさいとか言いながら、うちの家族もうれしそうだ。
 犬を看取ってから、もうペットは飼わないと言っていたけど、居ついてしまったものは仕方ない。いる以上は声をかける、かまいもする。やわらかい毛並みが手や足に触れると、愛着がわく。
 それにしても、動物が身の回りにいると、なんだかそわそわする。いつも見ていたくなるし、用事もないのに外に出てみたり、窓からのぞいてみたりする。そして姿を見つけて、しばらく観察して、満足する。その対象が、これまでは犬だったが、今は完全にねこに代わった。
 呼び名は決まっていない。だから、アレとかソレとかアイツとか呼ぶこともあるしニャーとかお前とか、適当に呼びかける。なんと声をかけても寄ってくる。
 うちのペットには、名前の最後に「こ」をつける決まりがある。でも、こいつはペットじゃない。いつまでいるかもわからない。今のところ、正式な名前はないから、便宜上「ねこ」ということにしておく。
 「こ」がついているから、誰も文句はないだろう。

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朝日 ね子
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