言葉の備忘録 2
チビタンコ
大正生まれの祖父は軽トラのことをチビタンとかチビタンコとか言っていた。わたしたちも小さいころはそう呼んでいたが、祖父がいなくなってから、すっかりその言葉を忘れていた。
祖父が運転するチビタンコの荷台に乗って、山に行く。沢を下りてみたり、木立の中に分け入ってみたり、祖父がスコップや鎌を使ってやる作業を眺めたりした。
姉は植物や動物に詳しく、クワの実やコクワの実やマタタビをとって遊んだ。ザリガニもヤゴもいた。今よりも熊が怖いとは思わなかった気がする。昔は、うちの山には熊はいないと思っていた。
静かにしていると、エゾリスが栗の木を駆け回った。
シャッポ
祖父は仕事のとき、帽子をかぶった。その帽子のことをシャッポと呼んでいた。キャップのかたちの帽子だけをそう呼ぶものか、帽子すべてを呼ぶものかはわからない。
てっきり方言だと思っていたのだが、シャッポというのはどうやらフランス語だということがわかった。
昔はみんながシャッポという言葉を使っていたのだろうか。純和風の顔だち祖父がフランス語を操っていたとは考えにくい。
このことを母に話したところ、早くに亡くなった母の父もシャッポという言葉を使っていたという。母方の祖父もまた、純和風の顔立ちである。
高村光太郎の詩にもシャッポが出てくる。昭和の流行語、なんだろうか。
うるかす
燕麦うるかす
という使い方に一番なじみがある。水に浸しとくとか、ふやかすという意味だ。食べ終えた食器はどうするか。もちろん、流しのボウルでうるかすのだ。
かます
混ぜることをかますと言う。おそらく、混ぜるという行為や動きのことを言うのだと思う。
もっとよく混ぜることをかまかす、と言う。かっちゃ混ぜる(という言葉がどれほど浸透しているかわからないが、)に似ていると思う。
「ぐちゃぐちゃにまぜる」ときより、「上と下をよく混ぜる」ときに使いたい言葉だ。酢飯を作るときとか、お菓子の生地をさっくり混ぜるときとか。
わや
関西で使われる「わや」とわたしたちが使う「わや」が同じものであるかはわからないが、わやという言葉は北海道弁の真骨頂であるとわたしはひそかに思っている。
意味を問われて正確に答えるのは大変にむずかしい。おそらく「ヤバい」に近い。
気軽な会話ではたいへんによく使う。たくさんの意味を含んでいるので、わやだけで相づちが済んでしまうほどだ。
①なしたの? 手、ドアにはさめた。 わや。
②カレー食べたっけ、わや辛かったさ。
③部屋が散らかってわやだ。
という具合に使う。強調するときは「わぃや」とか「わんや」と発音する。でも、これだけの情報ではわやの魅力を伝えきることはなかなかできない。
考えれば考えるほど、沼に沈んでいくようだ。わやの本当の力は、底知れない。