【エッセイ】猛犬注意
となり町の狭い路地に、「猛犬注意」のステッカーが貼られた檻がある。檻には屋根がついていて、中は犬が遊べるくらいに広い。
私が高校生のころは黒い犬がいて、いかにも噛みつくぞといった様子で時おり通行人に吠えていた。
その檻に、今は白い中型犬が入っている。
車で前を通りかかるとき、必ずスピードを落として(なんなら停車して)その犬を観察する。
白い犬は、ほとんどいつも寝ている。冬は小屋の中で、夏は小屋の外で、それ以外のときは半分小屋から飛び出て寝ている。
車に気付くと時々顔を上げる。たまにエンジン音に驚いてビクッとなる。座っていたり、立っておもむろに伸びをすることもある。
おっとりした表情で、およそ猛犬とは思えないふぜいである。
生成色に近い白の身体はいくぶんムチムチとしている。それが毛が密生しているためなのか、肉付きが良いせいなのかはわかからない。鼻はピンクとオレンジの間みたいな色をしている。
このごろ愛玩動物に飢えている私たち(姉と私)は、その犬にムッチと名付けた。ムッチはひどくおとなしそうで、噛みつくどころか吠える素振りも見せない。よその犬ながら、かわいくて仕方ないのである。
とはいえ油断は禁物だ。「猛犬注意」のステッカーとて、伊達ではあるまい。(明らかな軽自動車に「競走馬輸送中」とのステッカーが貼ってあることもままあるが)
ムッチが猛犬かどうか、確かめるにはまだ時間がかかりそうだ。当方は今後も観察を続ける。
(飼い主に不審者と思われぬよう気をつけねばならない)
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