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【エッセイ】独り言

 自分だけが知る場所に足あとを残すような密やかな気分だ。
 誰に見せるでもなく書いている。誰も見ないものとして書いている。いつもひとりで書いている。

 私からこぼれた言葉を、私が綴った文章を、誰かが見てくれている。
 しかし私にはそれがどこの誰だかわからない。読んでくれたひとにも、私がどこの誰だかわからないはずだ。
 それなら同じだろう。
 ここは自分しか知らない場所で、私は足あとのように言葉を置いてゆく。少し進んで振り返るとエッセイが横たわっている。

 誰にも見つからずに消えてゆく足あともあるだろう。誰かが見つけ、眺めるものもあるだろう。
 どちらにしても、ひっそりとそこに存在することは確かだ。

 すべて独り言なのだ。
 人生とて、壮大な独り言なのだ。

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朝日 ね子
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