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big_buddha
【エッセイ】印
このまえ法事があった。
住職でなく、若さんの次男坊のほうが来てくれた。
山吹色の袈裟をかけた若坊さんは、一連のお経の最後にぶつぶつと口の中で何事か唱えながら、手元を袈裟の中に隠してモゾモゾと動かした。
私はお坊さんのななめ後ろに座っていて、手元を見ることができた。合掌もそこそこに、その手元を不躾なほどまじまじと見る。印とやらを結んでいるに違いない。
住職のときも、長男の若さんのときも、なにやら手元を隠して動かしているのは知っている。しかし、何をやっているのかはもちろん見えない。
隠れているのをいいことに、適当に動かしているだけだったりして。などと罰あたりなことを考えたが、お坊さんたちはそれぞれ高野山で修行したことがあるとかないとかいうのを思い出して、考えを改めた。
きっとありがたい印なのだろう。力のある秘術のたぐいなのかもしれない。
印を結ぶとき、どんな指の形をしているのか、それにはどんな意味があるのか。
なんだか聞かないほうがいい気がする。聞いてみたとて、自分の手には負えないだろう。
だってお坊さんたちが隠しているのだもの。暴かないほうがいいことが世の中にはたくさんある。
袈裟のなかでモゾモゾと動く指先を観察するだけに留めておくことにしよう。
ナムナム。
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