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【エッセイ】いつか

 いつも、いつかのために生きている気がする。
 この先に来るいつか。そのいつかは本当に未来なんだろうか。実はもう過ぎ去っているのに、ひとり気づかずにいるだけではないの?

 いつもなにかに怯えている気がする。恐れている気がする。なぜか後ろめたくて、なにかを我慢している。押し殺している。
 精神がケチなのだと思う。ほかの人にも、いつかに備えた我慢を強いるような気持ちがどこかにあるのかもしれない。きっと満たされていないからなのだ。
 昔、修行僧のようだねと言われたことがある。彼女には、私からにじみ出るそんな性質が見えていたに違いない。

 もし、そのいつかが死ぬまでに訪れなかったら、私は報われないままにこの世を去るのだろうか。満たされないまま、干からびた精神を引きずって。
 私に今を楽しむことを禁じたのは誰か。いつからこのように生きてきたかすでに記憶にないが、それはまぎれもなく自分自身なのだろう。はじまりは他人であったとしても、今に至るまでそのように過ごしつづけているのは私だ。

 今を生きるなんて、うさんくさい言葉だと思っていた。
 しかし、生きているのはなるほど今なのだ。
 いつかではなく、今のために生きることができれば、怯えず、我慢せず、楽しい日々がやってくるのだろうか。
 考えるだけではどうにもなるまい、となかばあきらめながら、たどり着いたその考えが脳裏に灼きついて離れない。憧れにも似たこの感情を消し去るすべを私はまだ知らない。

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朝日 ね子
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