![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159032985/rectangle_large_type_2_3b9f184786063f06933b3650ff2ace5c.jpeg?width=1200)
数学が苦手でも“数式”は読めたほうが良い理由
人類に大きな変革をおこした発明の源には、常に「数式」があります。
欧米企業の特にリーダー層は、たとえ自身は数学が苦手であっても、現場の人たちに数学的な説明を求め、数式から理解しようとする姿勢があります。一方、日本では、文系と理系のようにはっきり住み分けてしまいがちで、自分の担当ビジネスに人工知能・機械学習・データサイエンスがどう活かせるか発想するための理系的リテラシーを持つ文系リーダー層が少ないという課題があります。これでは、新しいビジネスチャンスを逃してしまいます。
大手金融機関でクオンツ(金融工学や統計学などの数式を駆使して金融市場の分析や予測を行う専門家)、データサイエンティストとして働く冨島佑允さんは、それは非常にもったいないことだと話します。著書『東大・京大生が基礎として学ぶ 世界を変えたすごい数式』(朝日新聞出版)から、冨島さんが考える数式の魅力や、なぜ数式を「読む」能力が必要なのか、その理由を、一部抜粋・改変して紹介します。
(タイトル画像:francescoch / iStock / Getty Images Plus)
![冨島佑允著『東大・京大生が基礎として学ぶ 世界を変えたすごい数式』(朝日新聞出版)](https://assets.st-note.com/img/1729664537-WKlaUAOwfH9x3eX1b2YRurNj.jpg?width=1200)
「数式読解力をつけて創造的な人になる」。私が数式の本を執筆した最大の理由は、数学が苦手でも数式がいかに美しくおもしろいものかを、読者のみなさんに伝えたかったという、とても純粋な理由です。が、数式の美しさやおもしろさに触れながら、“数式読解力”を身につけてもらえたら、というのがもう一つの大きな理由でした。
“数式読解力”は私の造語で、数式を通じて物事の本質を見抜く力のことを指します。
創造性は、本質を見抜く力から生まれます。本質とは、物事を動かしている隠れた法則のことです。
たとえば、ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のアンガス・ディートン教授は、年収と幸福度の関係を調べ、年収が800万円を超えると、そこからは年収が上がっても幸福度はあまり増えないことを発見しました。こうした隠れた法則を見つけたことで、お金さえあれば幸せになれるという世の中の常識が変わっていきました。
このように、見たり聞いたりできるものの裏にある法則を発見できれば、そこから思いもよらぬ発想が生まれ、新しい何かが創造されていくのです。
数式は、このような法則を発見し伝えるための強力な武器であり、現代の創造的な取り組みは、そのほとんどが高度な数式に支えられています。
現代の創造性の源泉は“数式”なのです。
数式読解力によって培われる思考のポイントは、余分なものを切り捨てて本質を浮かび上がらせる「シンプル・イズ・ベスト」にあります。世の中の偉大な発明や発見は、数式というレンズを通して物事の本質を見ることで成し遂げられたものが本当に多いのです。数式は、「本質を見るための虫眼鏡」なのです。
たとえば、AI、アート、太陽光発電、お金の運用、宇宙のことなど、さまざまな分野にわたって、数式が今まさに世の中に変化を起こしています。もちろん、使われている数式もすべてちがいます。ですが、数式が世の中を変えるプロセスはいつも同じなのです。私はこれを「数式の創造サイクル」と呼んでいます。
![](https://assets.st-note.com/img/1729664677-EGBz7yloD93LOwAkgX0xjRfv.jpg?width=1200)
世の中には難しい課題や複雑な物事があふれています。そして、その課題を解決しようと努力する人や、複雑な物事を理解しようと学んでいる人たちが、「本質を見る虫眼鏡」である数式を駆使して核心に迫ろうとしているのです。そして、見つけ出した法則性を新たな数式として表し、論文や本などにして世の中に伝えます。
こうして生み出された数式を知ることで、世界中のだれもが同じ本質をつかむことができるのです。
数式の力の源は、その極限までの客観性です。言葉は、同じ文章でも文化によって、あるいは人によって捉え方が異なることがあります。
一方数式は、真の意味での世界共通語です。今まで未解明だったことについて、世界のだれかが解明して数式にすれば、その数式を見るだけで全人類がその物事の本質を理解できるようになります。その影響力は国を超え世界全体に及び、かつ100年後や1000年後の人類にまで及びます。なぜならば、数式は文化や政治制度や法律に全く影響を受けない、極限までの客観性を持つからです。
数式が世の中を大きく変えつつある最近の例の一つとして、ここでは人工知能(AI)の話をしましょう。
AIを使った商品は、既にみなさんの身の回りにもあります。よく知られているのは人の音声を認識して音楽や動画再生をしたり家電の操作ができるアレクサやロボット掃除機のルンバ、これまでに学習したデータを使って新しいコンテンツを生み出すことができる「生成AI」という技術で、私たちのいろいろな質問に答えてくれるChatGPTなどです。
アレクサは、人間の言葉による指示に従って動くことができます。たとえば、「アレクサ、行ってきます」というと、アレクサは声を発した人が出かけると判断して家の電気を全て消します。ルンバはロボット掃除機で、障害物をどうやってよけるかを自分で判断しながら上手に掃除をしてくれます。ChatGPTは人間の書き言葉(日本語や英語など)をそのまま理解し、いろいろな質問に答え、指示に応えてくれます。このように、自分で判断して行動する「知能」を持っているのです。人間が人工的に作った知能なので、人工知能と呼ばれています。
背後にある数式なんて知らなくても、パソコンやスマホにキーワードさえ入力できれば絵を描くAIやChatGPTを使えるじゃないかと思われるかもしれません。アレクサやルンバだって、操作はいたってシンプルで、当然ながら、ふだん使うのに数式など想像もしないでしょう。
でも、ちょっと待ってください。そうした便利なものを生み出すのは、賢くてアイデアを持っているだれかに任せておいて、自分は生み出されたあとのそれを使うのは、とても簡単です。ただ、社会が発展していくためには、他人まかせにするだけでなく自分でも新しい価値を生み出そうとする力が必要ではないでしょうか。
もちろん数式を使って発明や“革命”を起こすのは簡単ではありません。しかし、便利さを生み出すかくれたしくみを知ろうとする姿勢は、自分たちが主体となり責任を持ってそれを選び、使っているという意識を持つ意味でも大事なことです。そしてその姿勢が新しいアイデアにつながることがあるのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1729664727-D6EH35uNmFCLTPifc14tpln2.jpg?width=1200)