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バリ島「世界一エコな学校」校長が語る「壁もドアもない校舎が育むもの」とは

 バリ島の広大なジャングルの中で、環境教育を通じて世界を変えるリーダーを育てる学校がある。2008年に開校したグリーンスクールは、「地球上で最もグリーンな学校」に選ばれたインターナショナルスクール。電力や食料を自分たちの手で作るなど、地球の未来のために本気で取り組む姿勢が共感を呼び、世界中から多くの生徒や見学者が集まってくる。
 SDGs推進の機運の高まりから、近年ますます注目を集める同校は、運営側も生徒も、地球環境のためにできることは何かを常に考え行動し、変化し続けている。『やるべきことがすぐわかる 今さら聞けないSDGsの超基本』(朝日新聞出版)では、著者の泉美智子さん(子どもの環境・経済・教育研究室代表)が現地を取材。校長や卒業生へインタビューを公開する。

泉美智子著/佐和隆光監修『やるべきことがすぐわかる 今さら聞けないSDGsの超基本』(朝日新聞出版)
泉美智子著/佐和隆光監修『やるべきことがすぐわかる 今さら聞けないSDGsの超基本』(朝日新聞出版)

■グリーンスクールバリ校長 サル・ゴードンさん
「環境のために今すぐ行動できる人を育てる」

サル・ゴードン校長。早急に教育モデルを変えなければ、未来に必要な人材は育成できないと説く(写真/Doddy Obenk)

 サル・ゴードンさんは2013年からグリーンスクールバリに在籍、2015年に中学校校長、2019年から校長に就任し、持続可能な社会の実現のために、世界に変化をもたらす人材を育成している。大学で科学を学び、世界中を旅しながら働いた経験から、「教育と学習」が自分の天職であると気づいたという。

――最初に学校の概要についてお聞かせください。

 生徒は幼稚園から高校まで合わせて430名ほど、1クラス20名前後で運営しています。中学・高校になると選択制のプログラムが多くなるので、クラスの人数はかなり変わります。幼稚園から高校までの学校ですが、約20%の生徒が5~6年間の長期で通い、約50 %は2年程度、残りの30%は夏休みだけ在籍します。世界各国から、中には環境問題やSDGsに関心がない子どもも集まります。実に多様な子どもたちが一緒に学んでいます。

――壁も窓もドアもない校舎が印象的ですね。

 壁がないことで子どもたちは常に自然とつながり、自然の一部であると感じられます。環境問題に関心がない子でも、この環境ではその大切さを痛感するでしょう。また壁がないことは、考え方や年齢、国籍にも壁がなく社会とも自由につながれることを示しているのです。

 私たちの学習プログラムは、実社会とつながる「起業家マインド」を育てることにも注力しています。試験のための勉強ではなく、自然環境のために今すぐ何か行動を起こす、情熱的に世界に変化をもたらす、そんな人材を育てる教育を目指しているのです。

授業中も好きなところに座り、さまざまな形の机も使ったり使わなかったり。子どもたちの自主性を重視している(写真提供/Green School BALI)

――SDGsについてはどうお考えですか。

 教育者としてグローバルな理解を深めるのに、非常に役に立つ考え方です。グリーンスクールでは数学や化学、音楽、美術など普通の学校と同じ教科も勉強しますが、必ず自然や環境問題に関連させています。子どもたちはここで「サステナビリティについて学ぶ」のではなく、「サステナビリティのため」に試行錯誤しながら、あらゆる教科を包括して学ぶべきなのです。この地球以外に地球はないのですから、諦めるわけにはいきません。もう秒読みが始まっています。今すぐ行動を起こして、取り組み続けるだけです。

――この記事の読者、特に大人に向けてメッセージはありますか。

 環境もテクノロジーもとても速く変化しているのに、産業革命以降、教育はあまり変わっていません。皆さんが通った学校は、親や祖父母が通った学校とほぼ同じです。早急に教育モデルを変えなければ、未来の世代に必要な問題解決力と創造性のある人材を育てられません。

 私も親として、子どもにはよい価値観を持ち社会に役立つ人になってほしい。それは、よい成績を取って有名な大学に行くことよりも、幸せで価値のあることだと思います。

■グリーンスクール卒業生・環境活動家 露木しいなさん
「やりたいことは大人になるまで待たなくていい」

露木しいなさん。「誰もが地球環境を考えるのが理想」と語り、知識を伝えるだけでなく行動に移せるきっかけ作りも大切にしている(写真/まっさん)

 露木しいなさんは2001年生まれ。高校3年間をグリーンスクールバリで過ごした。在学中の2018年にCOP24(気候変動枠組条約締約国会議) in Polandに、2019年にはCOP25 in Spainに参加、COP24ではスウェーデンの同年代の環境活動家グレタ・トゥンベリさんとも会った。高校卒業後は慶應義塾大学環境情報学部に入学。現在は休学し、中学生・高校生に気候変動についての正しい情報や知識を伝えるため、環境活動家として全国各地で講演活動をしている。コスメブランド「SHIINA organic」もプロデュースしている。

――グリーンスクールへの留学のきっかけはどんなことでしたか?

 幼い頃から自然の中で遊ぶことが大好きで、遠足で箱根八里を歩いたり、キャンプで火おこしをしたりするような幼稚園に通っていました。中学卒業後は英語を学びたかったので留学先を探していましたが、母は英語を学ぶだけの留学には大反対。たまたまインターネットで見つけたグリーンスクールに、家族で体験キャンプに参加して魅了されたのがきっかけです。

――ご自身にはどんな変化がありましたか。

 入学時は、特に環境問題への意識が高かったわけではありません。しかし竹で作られた開放的な校舎、電気はほとんどクリーンエネルギーという学校の徹底した姿勢と、自然破壊やプラスチック問題などの授業を受けるうちに、次第に環境問題に目覚めて取り組むようになりました。帰国後は大学に進学しましたが、「このままでは地球の切迫した状態を救えない」と、今は学校を休学して講演活動をしています。

世界中から集まった仲間たちと。入学時は環境問題に関心がなくても、グリーンスクールでの教育を経て意識が高まり、起業家マインドも育つ(写真/zissou)

――印象的だった授業はありますか。

 教科書のない体験型の授業が多かったですが……。自分でカリキュラムを組み立てて研究できる、Independent Study という授業はユニークでした。私は妹が化粧品で肌荒れを起こしたことにヒントを得て、環境負荷が少なく敏感肌の人にもやさしい化粧品の開発に取り組みました。それが現在のSHIINA organicというブランドにつながっています。私はビジネスを通じて社会問題を解決する、「社会起業家」という肩書が最近は一番しっくりきます。

――グリーンスクールでの学びが現在の活動につながっているのですね。

「環境活動家」と呼ばれる人が特別な存在ではなく、誰もが地球環境を考えるのが理想だと思うんです。私が学校を中心に講演をする理由は、若い世代に学校教育の一環として環境問題を正しく伝えたいから。日本の若い人たちに環境問題に対して行動を起こす人が少ないのは、正しい情報と知識が不足しているだけ。私の話で環境問題に興味を持つだけでなく、行動に移せるようなワークショップや意見交換の場も大事にしていきたいですね。

(構成/生活・文化編集部 上原千穂)