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AIと共存するために、私たちが知っておくべきひとつのこと 便利さとリスクを考える

 生活のあらゆる場面でAIの台頭が続く中、私たち人間はどんな能力をつけていけばいいのか? 「探究型学習」の第一人者である矢萩邦彦さんは、著書『自分で考える力を鍛える 正解のない教室』(朝日新聞出版)の中でAIと人間が共存していく方法を提案している。本から抜粋して紹介したい。
(タイトル画像:addillum / iStock / Getty Images Plus)

矢萩邦彦著『自分で考える力を鍛える 正解のない教室』(朝日新聞出版)
矢萩邦彦著『自分で考える力を鍛える 正解のない教室』(朝日新聞出版)

 AIと人間はどこが違うのでしょうか? ぼくが子どものころは、コンピューターは近未来を感じる存在でした。しかし、いまやパソコンが使えることは常識になり、スマホがなければ生活にも仕事にも不便を感じるまでになっています。「あると便利」から「ないと不便」に感覚が変わるとき、それは、その社会の基盤(インフラ)に組み込まれはじめたと考えられます。

 このあと「ないと生活できない」段階に達すると、都市における電気・ガス・水道・通信のように社会や経済活動をするうえでの生命線(ライフライン)になってきます。AIやロボットはまだ「あると便利なもの」ですが、近い将来「ないと不便なもの」になり、しばらくはその段階が続くと考えられます。

 ではAIやロボットがインフラになった社会では、何が便利になって、どんなリスクが考えられるでしょうか?

 技術が進歩して、それが社会に浸透していくということは、社会全体としては進化しているといえます。一方で、AIやロボットに仕事をうばわれてしまうのではないか、という意見もありますが、新しい技術というのはもともとあった仕事を楽にしたり、精度を上げたり、先に進めたりすることに意義があります。AIやロボットが仕事をうばうのではなく、代わりにやってくれる、あるいは手伝ってくれるというふうに前向きに考えなければ、社会は停滞してしまいます(もちろん「原子力エネルギー」に代表されるように、リスクを抱えるくらいなら停滞したほうがよいという考えもありますが)。

 ぼくたちは何を知っていれば、AIやロボットと共存してうまくやっていけるのでしょうか?

 その答えの一つが、AIやロボットとぼくたち人間の違いを認識することです。何が違うか分からないことで、不安になってしまうんですね。

 AIやロボットにできることは、それこそ使い方次第で無限にあります。では、AIやロボットにできないことは何でしょうか?

 AIやロボットには計算や分析をはじめ、決まった作業を繰り返し高速で正確に行うなど、得意なことがたくさんあります。

 一方で、いまのAIがどれだけ進化したところで構造上できないこともたくさんあります。

 たとえば、AIは自分自身を疑うことができません。自分自身を疑うプログラムが書けないからです。自分で仮説を立てたり、目的を設定したり、ルールをつくって運用しながら調整したりすることもできません。コミュニケーションも苦手ですし、あらゆることに意味を感じることもできません。ですからそういう能力こそぼくたちは優先的に磨いておく必要があるわけです。

 また、AIは失敗しても自分ではそれに気づけません。(そもそも成功や失敗という価値観が人間独自のもので、自然界ではただそうなったというだけですが)。どういう状態が成功でどういう状態が失敗なのかを人間が決定してプログラムしなければ判断できないんです。

 判断できないだけでなく、感情も理性もありません。ですから、予測不可能な事態に臨機応変に対応することも、自分軸に従って倫理的になにが善かを考え決断することもできません。そう考えると、ぼくたちが担当する仕事はまだまだたくさんありそうですし、おたがいの長所を活かし、短所を補い合って分業することで、いままでできなかったことも実現できそうです。

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)
「知窓学舎」塾長、実践教育ジャーナリスト、多摩大学大学院客員教授。大手予備校などで中学受験の講師として20年勤めた後、2014年「探究×受験」を実践する統合型学習塾「知窓学舎」を創設。実際に中学・高校や大学院で行っている「リベラルアーツ」の授業をベースにした『自分で考える力を鍛える 正解のない教室』(朝日新聞出版)を3月20日に発売

(構成:教育エディター・江口祐子/生活・文化編集部)