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【品田遊×pha】異色の二人が異色の対談!なぜ日記を書き続けられるのか、なぜ日付がないのか、謎に迫る

【お知らせ】
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品田遊『納税、のち、ヘラクレスメス』(朝日新聞出版)
品田遊『納税、のち、ヘラクレスメス』(朝日新聞出版)

 10月25日、東京・高円寺の蟹ブックスにて、『納税、のち、ヘラクレスメス』の刊行を記念し、品田遊さんとphaさんの異色対談が実現。ライター、小説家、漫画原作者、YouTuberとして幅広い分野で活躍する品田さんに対し、蟹ブックスのメンバーであり、元「日本一有名なニート」としても知られるエッセイストのphaさんが問いを投げかける。果たして品田さんはどう応じたのか。大きな盛り上がりを見せた注目の対談から一部を要約しお届けするAERA dot.の記事を転載いたします。

高円寺の商店街を通った先にある「蟹ブックス」(撮影/中山圭)

pha:蟹ブックスでは、品田さんの前作の『キリンに雷が落ちてどうする』がとても売れ行きがよかったんですよね。それで気になって、僕も『ウロマガ』を読み始めたんですが、本当に面白くて、これだけとりとめがなく抽象的な内容を毎日次々と生み出せることにとても感心しました。

品田:ありがとうございます。実は私が書いている文章のロールモデルの中に、phaさんの文章が含まれているんです。インターネットの世界で活躍している方として、とても印象的でした。特に、Twitterの初期、2010年代前半のインターネットの雰囲気を感じていたとき、phaさんのシェアハウスに集まるネットの人たちが大きな存在として映っていて、無意識のうちに影響を受けていたのかもしれません。

pha:それはうれしいですね。今回の『納税、のち、ヘラクレスメス』を拝見すると、断片的な感じがとてもインターネット的な文章だと感じました。ネットから紙にすることで、何か変えたことはありますか?

品田:本にするには最低限の体裁を整える必要があると思っていましたが、整え過ぎるのは嫌だったので、基本的にはとりとめのないままにしておきました。

pha:なるほど、気楽に読めて疲れなくてとてもよかったです。

品田:ただ、連続したビックリマーク(!)はネット上の横書きでは問題ないのですが、紙の縦書きにするとおかしくなるので、そこは消すようにしています(笑)。

自由な表現としての日記

pha:品田さんは日記を毎日欠かさず書いているのがすごいと思います。

品田:1週間に1回まとめて書くといったようなことができない性分のため、毎日書くようにしています。習慣にしてしまえば、どんなに眠くても寝る前に書くことができますよ。日によってはいたずら書きで終わらせる日もありますが、そこは甘えちゃっています。

pha:僕も日記は書いていますが、とりあえずメモだけ取っておいてやる気が起きたときにまとめるという感じで、4〜5日に1回のまとめ書きになっちゃってます。品田さんは、日記を読み返しますか?

品田:日記や本などはほとんど読み返さないです。自分がこんなことを書いていたのかということを直視することが苦手なんです。自分を鏡で見ることすら苦手なもので……。

pha:鏡を見られないと、動画出演のときなどは誰が見た目を整えてくれるんですか?

品田:誰もやってくれないので、髪型がいつもランダムです。動画のコメント欄をみると、「恐山の今日の髪型はすごいな」といったコメントがポツポツと来るので、髪型おかしかったんだって後で気付かされることもあります。そういえば、phaさんは、日記を読み返すことはあるのですか?

pha:僕は、むしろ読み返すために日記を書いているといっていいくらいですね。過去にこういう1日があったんだということを思い出して、振り返りたいから書いているので、日付は必ず入れています。そういう意味では、日記なのに日付を取ってしまうという、品田さんの日記はあまり他にないものだな、と思いました。

品田:歌人の穂村弘さんが著した「にょっ記」という日記的なテイストのエッセイがあるのですが、こちらを読んだとき、日付が「○○月××日」というような形式で表現されていたんです。これに驚くと同時に、この独自のアプローチは素晴らしいと思い、私もあえて日記に日付を記載しないことにしました。

pha:「にょっ記」は本当かウソかわからないような雰囲気がいいですよね。本来日記は事実を書くものだけど、日付を入れないことによってそのへんを曖昧にできるんでしょうか。

品田:そうなんです。そのため日記が急に物語になるような展開もあったりします。

意外にも、phaさんと直接お話しするのは初めてだという品田さん(撮影/中山圭)

“しゃあなし”で書き続ける理由

品田:phaさんは短歌を書きますよね? 私の周りにも短歌を書いている人はいるのですが、「何で書いているんですか?」と聞くと、皆一様に「何でですかね?」と言うので、要領を得ない感じがしてしっくり来ないんです。まあ確かに私も、周りから「何で日記を書いているんですか?」と問われたら、「何なんすかねー」とお茶を濁すようなことしか言えないのですが。

pha:短歌なら短歌、日記なら日記という型があって、それが自分の中に身についていると、自然とその型に沿ったアウトプットが出てくるようになるんですよね。でもその型を共有してない人からすると、何でそうなるのだろう、と不思議に思われるんでしょうね。短歌は、僕は若い頃に型を身につけたので書ける感じです。

品田:私の場合、日記は書けるから書いているということと、書く約束をしたから書いているわけであって、実は半分"しゃあなし"という気持ちがあります。といいつつ、日記を書くことは、同じ"しゃあなし"でも、かなりストレスの少ない"しゃあなし"なのでやれている部分はありますね。

pha:心から書きたいとかではなく、"しゃあなし"だったんですね。意外。でも確かに、僕も心から日記を書きたいかというとそうでもなくて、でも書かなくなったら寂しいとか、書かないともったいない、とかそういう気持ちが出てきそう。実際やめたら、毎日書かずに寝ていいんだとか、日中も日記のことを考えなくていいんだとか、そう思って落ち着かなさそう(笑)。

品田:それわかります! もう日記を書かない生活のこと自体を忘れているので、周りの人たちは普段日記を書かないで寝ているんだなぁとか思ったりしますね。

 私自身、締め切りに追われる生活を10年近くやっているので、普通に働いて、普通に家帰って生活している人たちって締め切りというものがない場合が多いんだなぁとかも考えることがありますね。もちろん、そのことを羨ましいと思っているわけではないのですが……どちらにも大変さはあると思いますけどね。

pha:そういった生活が良いのか、当たり前のように書くという生活が良いのか、もう我々はわからなくなっちゃいましたね。自分にやれることをやっていくしかない。

仕事をくれる人のところに行くスタイル

pha:インターネットをやっていく中で、どれに対して一番やる気を持っていますか?

インターネットの話、日記の話ですぐに打ち解け合うphaさんと品田さん(撮影/中山圭)

品田:特にどれというのはないのですが、何事に対しても頼まれたら絶対にやるというところが私のモチベーションになっています。今振り返ってみれば、人に見せる用の文章を書き始めたのは高校生の頃でした。

 演劇部に入ったときに、先輩から「お前は脚本を書け」と言われ、「書きます!」と言ったのが始まりです。もちろん、芝居の脚本なんて書いたことがありませんでしたが、「文章が書けそうに見える」と言われたので、「わかりました!」と二つ返事で引き受けることとなりました。

 初期衝動というより、仕事として書く感覚がその頃から身についていたのかもしれません。また、この頃、演劇部のほかに文芸部も兼部していたのですが、そのとき書いていた合同誌の締め切りが定期的にあったため、こちらも「書け」と言われて当たり前のように「書く」という感覚がそのときすでに養われていましたね。

pha:意外と社会性のある環境下で書いてきたんですね。

品田:そうなんですかね。社会の後押しがないと構想の段階から甘えてしまい、エターナルな構想の中で安住してしまうところがあるので、「仕事をくれる人のところに行く」というスタイルが確立されたのかもしれません。

 逆に、phaさんはどうですか? 今もコラムなどのお仕事で書かれていると思いますが、仕事がなくても定期的に書き続けることはできますか?

pha:僕はわりと自分の中のモチベーションだけで書き続けられるタイプですね。むしろ仕事としてやるのは不純だ、と感じてしまう部分があったりします(笑)。でも、完全にひとりでやるより編集者といっしょに作ったほうが、遠くまで届くものができる感じもあるので、迷いますね。仕事もやりつつ、ときどき100%趣味で何かを作るのがいいのかも。人によってアプローチや仕事のやり方、きっかけが異なるというのは面白いですね。

『パーティが終わって、中年が始まる』を刊行されたphaさん(撮影/中山圭)

周囲の後押しがあったっていい

品田:今やっているラジオや動画も上司の指示でやっているのですが、実はYouTuberになりたいと思ったことはありません。週に6本撮りの仕事をしていますが、こんな環境になろうとは思ってもみませんでした。

pha:そうなんだ。あんなに動画でも活躍しているのに……。上司の方が品田さんの活かし方を理解しているんですね。

品田:確かにそうかもしれません。本当に嫌ならやめるので、私の許容可能な範囲の「しゃあなし」の範囲を理解して振ってくれているのはありがたいことです。また、入社早々に「経理はできない」と伝えており、そこもわかってくれているので助かっています。

pha:自分にできないことはやらせず、得意なことを活かしてくれる上司って理想的ですね。。

品田:ところで、今は不安定ながらもそれなりにやっていけており、来年くらいまでは生き延びられるだろうという安定は得ていますが、そこに至るまで多くの幸運と巡り合わせが重なりました。実際、私はインターネットの一本の馬の骨でしかなく、今自分が立っている場所の下に無数の並行世界の自分の死骸があって、その上にいるんだという緊張感が常にあります。そのため、心が真に休まることがありません。

pha:無数の並行世界の自分の死骸……。めちゃくちゃ悲観的じゃないですか。意外です。

品田:そうかもしれません。phaさんは、インターネットを主軸とした自由業を長く続けていると思いますが、その中で緊張感のようなものはなかったのですか?

pha:僕は楽観的というか、まあ何が起きてもなんとかなるだろ、という感じでずっとやってきたんですよね。運に恵まれたのはあると思いますが。品田さんも、今のような展開にならなくても、どこかで芽を出してそうな気がしますけどね。

品田:そうですかね……。でも、信じることが怖いんです。ネットやSNSで誹謗中傷しているのを見かけると、それが並行世界の自分のように感じられ、自分の攻撃性が拡大された、別世界の自分に責められているような錯覚に陥るんです。そのため、ちゃんとしたことをちゃんとやっている人に対してコンプレックスがあるのかもしれません。

 そういえば、スマブラを作った桜井政博さんが最近YouTubeでゲーム制作に関する動画講座を2年半やっていました。その最終回で、実は2年半分の動画を取り溜めしていたこと、9000万円をかけて収益ゼロでやったことを告白されていました。それを見たとき、崇高な魂に触れるような、仏像を見上げたときの恐怖感に近いものを感じましたね。周囲の後押しに頼らず、自分の段取りで進める足腰の強さが、私には全く欠けている気がしましたね。

pha:あれはちょっと特殊な人すぎる気がしますが……。ああいう感じではないだろうけど、今の品田さんの性格だからこそ、人に恵まれ、いろいろな人と繋がりを持って、周りの後押しを得られて活躍されているんだと思いますよ。ちょっと上手くいったら、「俺ってすごい」と調子に乗る人がいっぱいいる中で、調子に乗らない品田さんはいいと思いますね。今のままでいて欲しいです。

インターネットのテキスト文化を担う二人(撮影/中山圭)

潮流の変化に乗って、テキスト文化を盛り上げたい

品田:今行っている仕事を振り返ってみると、再現性のあるメソッドを提供できているわけではないので、少し負い目に感じることもあります。本当は永続的に続けられるようなフィールドを下の世代の人たちに作っていきたいとは思っているのですが……。なまじっか私を含めた数人がなんでもないようなことをして食えてしまっているので、変に若い人の希望になってしまい、なんだか申し訳ない気持ちもありますね。

 特に、ここ最近はフリーターをやりながら、たまにライターをしている人たちがだんだんと食えなくなってきており、フラフラした仕事をしていると困るように社会って設計されているなと思っています。ちょっとゾッとしますよね。

pha:確かに時代が変わって、役に立たないことをやってないでちゃんと就職しろよという感じになってきたかも。インターネットのテキストでお金になるものって、勉強になるものとか稼げるものとかが多いと思うんですけど、そんな中でとりとめのない内容の『ウロマガ』が人気で、書籍化されるまでになっていることは希望だと思います。こういう動きがもっと広がって、ネットのテキスト文化が盛り上がればいいなと願っています。

品田:最近は、Xの度重なる改変により、アーリーアダプター的な人たちからの信頼が失われつつあり、以前よりも人の分散が起こっているように思います。かつては、Twitterに全てのリンクが集まって、流れてくる支流の役割を果たしていたわけですが、今はそうじゃなくなってきました。それによって、どこに情報を見にいけば面白いものがあるのかがわからなくなっている状態にまた戻ってきているように思います。

 まさに、phaさんのようなスナフキンタイプの人が、実は面白いものがある場所を知っているといったことになるのかもと期待しています。

pha:キュレーター的な人やニュースサイトが再び注目を集めるような時代に戻るかもしれませんね。どちらにせよ、面白い文章の価値や需要は絶対になくならないと思うし、ぜひ品田さんにはトップランナーとして、一生とりとめのない日記を書き続けていただきたいと思います。

品田:今後、雑文的なもので生活をすることができるかはまだ見えないところでありますが、人の分散による潮流の変化に乗って、オモコロのようなテキスト文化をさらに盛り上げていきたいと思っています。

(構成/中山圭)