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ビジネスコンペ300戦無敗! いじめられっ子だった私が「選ばれる人」になった理由

 社員数わずか16名のベンチャー企業が、名だたる大企業とソフトウエアのビジネスコンペで争い、300戦無敗! そんな離れ業をやってのけた、「選ばれることの達人」が、そのものズバリ、『ビジネスコンペ300戦無敗 選ばれ続ける極意』(朝日新聞出版)というタイトルの本を上梓した。
 達人の名は井下田久幸。井下田氏は、もともと日本IBM社のエリート社員だったが、自ら志願して弱小ベンチャー企業に転職。現在は起業し、その会社のCEOを務めている。そんな井下田氏の友人であり、新刊本の企画者でもあるブックライターの西沢泰生氏が、井下田氏に「選ばれ続ける極意」について聞いた。

井下田久幸『ビジネスコンペ300戦無敗 選ばれ続ける極意』(朝日新聞出版)
井下田久幸『ビジネスコンペ300戦無敗 選ばれ続ける極意』(朝日新聞出版)

■「いじめられっ子」たちから「選ばれて」いた?

 西沢:井下田さんはベンチャー企業時代に、古巣の日本IBMなど、名だたる大企業を相手に、ビジネスコンペ300戦無敗という奇跡的な実績を築かれたわけですが、そもそも、井下田さんは子どもの頃から「選ばれる人」だったのですか? たとえばいつも学級委員をやるような。

井下田:いえ、それがぜんぜん逆でした。学級委員なんて1度もやっていませんし、高校の水泳部でも、大学のテニス部でも、キャプテンをやったこともありません。それどころか、幼稚園や小学校の低学年の頃は、むしろ、いじめられっ子でしたね。ドイツ人を祖父に持つクォーターで、見た目が少し外国人ぽい。それに当時は名前もカタカナ表記の本名でしたから……。そういう意味では、いじめの対象に「選ばれて」いました。

西沢:えっ、そうなんですか。意外です。今の井下田さんを見ると、周りの人たちから自然とリーダーに選ばれていたのではないかと思っていました。

井下田:それがぜんぜん。小学校の頃は、クラスに、やっぱりガキ大将がいましたね。リーダーというより、専制君主みたいでしたが……。校庭の隅っこを秘密基地と称して、同級生を子分にしては、いつも群れていました。

西沢:ジャイアンみたいな。

井下田:そうですね。私はその仲間には入れてもらえませんでしたし、こちらも人に媚びるのが嫌いでしたから、1人でいることが多かった気がします。ただ、なぜか私は、いじめられっ子たちの中では人望があり、「いじめられっ子たちのリーダー」みたいにはなっていました。おそらく、自分自身がいじめられっ子で、弱い者の気持ちがわかって、いつも味方になっていたからかもしれません。

西沢:なるほど。現在、井下田さんはSNSを配信されていますが、それを拝見すると、弱い者というか、悩んでいる人たちに向けての熱いメッセージが感じられます。その下地は小学生の頃からあったんですね。

■イケイケで転職するも、大ピンチに

 西沢:そうなると、ご自身で「選ばれる人」を自覚するようになったのはいつ頃からなんですか?

 井下田:それはやはり社会人になってから、日本IBM社に入社してからです。何しろ、社内外でプレゼンテーションをする機会があって、選ばれないことには話になりませんでしたから……。まだ明確に「選ばれるために何をするべきか?」みたいなことは意識していませんでしたが、おそらく、この頃に「選ばれること」が日常になっていった気がします。

 西沢:そうこうしているうちに、日本IBM社を志願退職されて、社員数わずか16名のベンチャー企業に転職されたわけですね。

 井下田:そうです。日本IBM時代に、個人で1千回を超える講演会をやったりしていて、「会社の看板に頼らなくても自分は世の中に通用するのか?」を試してみたくなったのです。

 西沢:すごい度胸だと思います。でも、著書にあるように、転職したベンチャー企業が開発していた新製品が大コケてしまった。そして業績が大ピンチになり、井下田さんは、エンジニアでありながら営業同行をすることになるわけですね。

 井下田:そうですね。このままでは半年後には倒産という非常事態でしたから。

 ■初めての営業同行で、選ばれるための「ハッタリ」!?

 西沢:ビジネスコンペ300戦無敗ということは、初めて営業同行をされたときのコンペも勝っているわけですよね。そのときのことを教えてください。

 井下田:初めての営業同行は今もよく覚えています。当時の私は40歳くらいで、1つ年下の営業と2人でお客様を訪問しました。会社が肝入りで開発したソフトはもうコケていましたから、まだプロトタイプ(試作品)段階のソフトを持参して、それでデモンストレーションをやりました。簡単に言えばデータのフォーマットを変換するためのソフトだったんですが、このとき、お客さんが、自社のデータについて、「これを圧縮できない?」と質問してきたんです。データの圧縮なんて、今は簡単にできますが、当時はなかなか難しかったのですね。質問された私は、そこでハッタリをかましました。

西沢:ハッタリ? いったいどんな?

井下田:「はい、もちろんできます!」って即答しました。本当は、その時点ではできなかったのですが、そこで即答しないと、選んでもらえないと思ったんです。

西沢:イチかバチかのハッタリ。

井下田:もちろん、私はエンジニアですから、「この程度の機能はすぐに開発できるな」と思いましたし、ウチのような小さな会社なら、大企業と違って、社内決済も何もすっとばして、すぐに開発に着手できるなと……そういう、2つの勝算はありました。ですから、ハッタリというよりは、その場しのぎでしょうか。事実、会社に戻って速攻で圧縮機能を開発して、翌日にはお客様に報告し、受注につながりました。これは、今にして思うと、今回の本の中に書いた4つの戦略の中の「帳尻合わせ戦略」ですね。

西沢:自分がエンジニアであり、会社がベンチャーで小回りが利いたという利点を生かしての勝利だったんですね。素晴らしいです。私も、編集者さんから「◯月◯月までに入稿できますか?」と聞かれたときは「楽勝です!」ってハッタリをかましています。もちろん宣言の通り締め切りはちゃんと守りますけど。

井下田久幸さん

【井下田久幸(いげた・ひさゆき)プロフィール】
ドルフィア株式会社代表取締役。1961年生まれ。青山学院大学理工学部卒業後、日本IBMに入社。38歳のときに社員数16人のITベンチャーに志願し転職。ほどなく倒産の危機に直面し、マーケティング部長の傍ら営業支援SEとして現場に入る。以来、足かけ4年にわたりマイクロソフトなど名だたる競合を相手に、コンペ300戦無敗という結果を残す。その後、東証一部上場企業JBCCにて執行役員、さらに先進技術研究所を設立し、初代所長となる。55歳で独立し、現職に。著書に『理系の仕事術』(かんき出版)。

【聞き手:西沢泰生(にしざわ・やすお)プロフィール】
ブックライター・書籍プロデューサー。主な著書『一流は何を考えているのか』(学研)、『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』(三笠書房)、『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)他。