見出し画像

國貞克則氏が提唱する「今こそドラッカーの教えが必要!」の意味――最新刊『成果をあげる経営陣は「ここ」がぶれない』を立ち読み

2024年9月20日に発売された、國貞克則さんによる著書成果をあげる経営陣は「ここ」がぶれない 今こそ必要なドラッカーの教え』(朝日新書)。シリーズ累計90万部超『財務3表一体理解法』の著者が、日経ビジネススクールで行っている会社役員向け人気講座を書籍化しました。変化の時代にこそ必要となる「ぶれない軸」。会社経営者と役員は何を軸に意思決定すべき ――? 特別に本書の「はじめに」と「Contients」を公開します。経営に関わるすべての悩める方へ。ぜひ、立ち読み気分で読んでみて下さい。

■はじめに

 本書の目的は、変化の時代における「会社役員の役割」を再確認し、経営者としての「考え方の軸」を整理してもらうことです。

 企業を取り巻く環境が変化しています。最近の経営に関するキーワードを挙げれば、コンプライアンス・ガバナンス・サステナビリティ・ESG(※注1)・SDGs(※注2)・長期的企業価値向上といった言葉が並びます。
 この背景にあるものの一つは、行き過ぎた株主資本主義や短期利益の追求による弊害が指摘されるようになり、企業経営に求められることが短期的視点から長期的視点に移ってきているということです。
 また、ただ単に長期的視点に移ってきたというだけでなく、地球温暖化や人権問題といった社会課題への取り組みが強く求められるようになりました。いまや社会課題に積極的に取り組まない企業は、顧客や市場から見限られる時代になってきています。
 さらに、インターネットとデジタル化による産業構造の大きな変化の中で、従来のビジネスモデルが時代遅れになり、新規事業の創造が急務になってきている企業も少なくありません。
 これら「社会課題への対応」や「新規事業の創造」といった新しい課題に、会社役員としてどう取り組めばよいのでしょうか。新しい課題ですから社内に参考になる事例などないでしょう。他社の事例をそのまま真似してもうまくいきそうにないことはすぐにわかります。なぜなら、会社の事情や置かれた状況は会社によってさまざまだからです。
 結局、新しい課題にどう取り組むかは、それぞれの会社の経営陣が独自に考えるしかありません。では、何を「考え方の軸」にして、これらの新しい課題に取り組めばよいのでしょうか。
 変化の時代にこそ頼るべきものは、時代が変わっても変わらない「物事の本質」です。時代がいかに大きく変化しようと、企業という存在を大局的に眺めてみれば、「企業は社会に存在する人間組織である」という企業の本質は何も変わっていないのです。
 本書の考え方のベースになっているのはドラッカー経営学です。ドラッカーは「マネジメントの父」と呼ばれ、人類史上初めてマネジメントという分野全体を体系化した人であり、大局的な視点で物事の本質を見抜くことに天賦の才があった人です。2005年に亡くなりましたが、いまでもアマゾン・グーグル・ユニクロといった優良企業の経営者たちに影響を与え続けています。
 そのドラッカーは50年以上前に、社会課題への対応は企業が果たすべき重要な役割の一つであるとして、その対応についての基本的な考え方を整理してくれています。
 また、経営の重要な側面として、現在と未来を同時に見ていくことを挙げ、イノベーションや起業家精神による未来創造の重要性を説いています。それも、ふわふわとしたアイデアによる未来創造ではなく、地に足の着いた未来創造の方法論を私たちに示してくれています。
 さらにドラッカーは、株主資本主義がもてはやされていた1990年代後半に、行き過ぎた株主資本主義や短期利益追求指向がやがて修正されることになると見通していました。
 ドラッカー経営学を学んできた私としては、50年の時を経て、時代がやっとドラッカーの考え方に追いついてきたというか、本当にドラッカーが必要な時代になってきたように感じています。
 会社役員の役割についての解説書はたくさん出版されています。ただ、それらは「取締役の善管注意義務」といった法的側面からアプローチしたものが多いと感じます。もちろん、自分の身を守るためにも、法的側面から会社役員としての自らの役割と責任を明確にしておくことは極めて重要です。
 しかし、法的側面を中心に自らの役割と責任を考えると、発想や行動が縮こまってしまう危険性があると思います。本書は「社会に存在する人間組織の運営責任者」という側面から、会社役員の役割と責任にアプローチしています。
 具体的な内容としては、ドラッカー経営学をベースにした「経営の本質」「会社役員の役割」「未来創造の方法論」「会社役員が成果をあげるための考え方」などです。
「財務会計」についても触れます。会社役員は財務会計がわかっていないと話になりません。読者のみなさんは、なぜ最近ROIC(Return On Invested Capital :投下資本利益率)が重視されているのか、その意味がおわかりでしょうか。財務会計の観点からも会社役員の役割について説明します。
 さらに本書では、そもそも「企業とは何か」「意思決定とは何か」といった企業経営に関する本質的な問いを投げかけます。いまみなさんがそれらの問いにどのように答えるのか。ご自身で、企業経営に関する本質的な問いへの答えを考えながら本書を読めば、視野の広がりと視点の高まりを感じると共に、頭の中がしだいに整理されていくことを感じていただけると思います。
 大きな変化の時代だからこそ頼るべきものは、時代が変わっても変わらない物事の本質です。ドラッカー経営学を通して、経営の本質と会社役員の役割を再確認すると同時に、経営者としての自らの「考え方の軸」を整理し、日々の仕事に活かしていただきたいと思います。

※注1 企業の長期的成長にとって大切なEnvironment(環境)、Social (社会)、Governance(ガバナンス)を考慮した企業経営や投資活動。
※注2 Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、2015年9月に国連サミットで採択された、2030年を達成期限とした17の目標を指す。

國貞克則著『成果をあげる経営陣は「ここ」がぶれない 今こそ必要なドラッカーの教え』(朝日新書)

■Contients

はじめに

第1章 本題に入る前に

(1) ドラッカーはどういう人なのか
(2) 企業を取り巻く環境の変化

第2章 会社役員の役割とは何か

(1) 社会に存在する人間組織
(2) ドラッカー経営学の全体像と企業の「3つの役割」
(3) 従業員のエンゲージメント向上の本質
(4) 画期的な制度としての「自己目標管理」
(5) 社会的責任にどう向き合うべきか
(6) 経営者が目標を設定すべき「8つの領域」

第3章 「財務会計」は会社役員の必須科目

(1) 財務会計の全体像
(2) そもそも配当とは何か
(3) なぜいまROIC(投下資本利益率)なのか
(4) 今日の会社役員の意思決定が明日の会社をつくる

第4章 未来を今日つくる

(1) 未来への責任と事業に関する「3つの問い」
(2) すでに起こった未来を先取りして手を打つ
(3) 予測できないことを起こさせる
(4) イノベーションの機会を探す「7つの領域」
(5) 既存の企業が新規事業を生み出すために必要なこと
(6) 「結合」による知の創造

附章 会社役員が成果をあげるために必要なこと

(1) 身につけておくべき「5つの習慣的能力」
(2) 上司をマネジメントする
(3) 必ず身につけていなければならない資質
(4) 強みを活かせ
(5) 理論より実践

おわりに
参照図書