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リーリーお気に入りの洞穴をつくったのは? 【上野動物園ののんびりパンダライフ<第5回>】

 パンダライター二木繁美さんの連載「上野動物園ののんびりパンダライフ」5回目。最終回となる今回は、絶滅の危機にあるジャイアントパンダを保護するため、2011年に設⽴された「ジャイアントパンダ保護サポート基⾦」と、収益の一部が寄付されるパンダドネーション商品について取り上げます。引き続き、副園長の冨田恭正さんにお話をうかがいました。

堂々たる様子のレイレイ=2024年6月26日、筆者撮影

名前入りプレートが証し。パンダ保護のパートナー

 東京都と中国は、ジャイアントパンダの保護と生息地の保全活動を共同でおこなうため、2010年7月に「ジャイアントパンダ繁殖研究プロジェクト」をスタート。それに伴い、リーリーとシンシンの来園も発表されました。そして、その資金調達を目的として、2011年に「ジャイアントパンダ保護サポート基⾦」が発足。2月26日から募金がスタートしました。

来日したばかりのころのシンシン=朝日新聞社

「ジャイアントパンダ保護サポート基⾦」では、個人で2万円、企業・団体で5万円以上を寄付した方々を、希望によって「SAVE the PANDA パートナーズ」として登録し、名前と登録年月日を刻印したプレートを、園内ジャイアントパンダ舎前と東園総合案内所に掲示しています。

東園総合案内所に掲出されたプレート=2024年1月10日、筆者撮影

 西園ではパンダのもりの出口付近に掲示されていますので、パンダ観覧の折に、このプレートを目にした人も多いのではないでしょうか。プレートの掲示期間は登録日から2年間で、その期間が終わったらプレートはもらうことができます。筆者もパートナーズとして登録されていて、プレートを手にする日がちょっと楽しみです。ちなみにこちらは、寄付金控除の対象にもなっています。

園内にある募金箱=2024年11月15日、筆者撮影

 けれど2万円といったら、なかなかの大金ですよね。そんなに気負わなくても、気軽に寄付できる場所もあります。東園「世界のサル」付近に設置されている、大型の募金箱です。かわいらしいパンダ型で、よく記念撮影用のフォトスポットにもなっているのを見かけます。

 こちらは、お小遣いから少し、おつりがちょっと余ったら、など自分のペースで寄付することができます。

「リーリーの洞穴」や「やぐら」も、みんなの寄付金で作られた

 寄付をしている身として気になるのが、基金の使用用途です。「ジャイアントパンダ保護サポート基金」の寄付は、どういったものに支出されているのでしょうか。冨田さんによると、大きく3つのことに使用されているのだそうです。

シンシン(手前)とシャオシャオ(奥左)、レイレイ(奥右)=2022年4月17日、筆者撮影

 1つ目は、ジャイアントパンダ保護に向けた普及啓発活動のため。「ジャイアントパンダがどんな動物なのか、どうしていま絶滅の危機にひんしているのか。そして、パンダを守るためにはどんなことができるのかなどについて、国内外の研究者を招いた講習会の実施や、教材を使った解説など、みなさんに知っていただくための活動をしています。そのために必要な解説用教材の購入などに使用しています」と、冨田さん。まずは多くの人に、パンダについて知ってもらうことが、パンダ保護の第一歩になるのですね。

 2つ目は、上野動物園におけるジャイアントパンダ飼育環境の向上のため。「ジャイアントパンダが快適に暮らすことで、継続して繁殖活動に取り組めるよう環境改善を行っています」(冨田さん)。ジャイアントパンダ保護サポート基金で作られた設備には、どのようなものがあるのでしょうか。

「例えば、パンダのもりの放飼場にある洞穴や新しいやぐら、放飼場と放飼場の間の扉、擬木と丸太で作った台など。パンダたちの飼育や生活に必要であると思われるものを作るのに使用しています」。洞窟ややぐらについては、連載2回目(https://note.com/asahi_books/n/n98e853a40362?magazine_key=m8546d1c4626a)でもお話されていましたよね。

洞穴で眠るリーリー=2022年5月22日、筆者撮影
新しいやぐら=2024年3月16日、筆者撮影

 3つ目は、東京都と中国野生動物保護協会が共同で進める保護活動のため。「中国と共同で、野生のジャイアントパンダを守る、国際的な保護活動を行うために使用しています」。野生のジャイアントパンダは、中国の四川しせん省や陝西せんせい省、甘粛かんしゅく省などの標高が高い山に生息しています。そうした場所で野生のパンダを観察し、保護するための活動にもサポート基金が使用されているのです。

中国の基地で生活するパンダたち=2023年11月8日、雅安基地にて筆者撮影

「上野のカリスマ」の誕生で寄付も爆増

 同基金は、リーリーとシンシンの展示と同じタイミングでスタートしたため、自然と注目度も高くなって順調に推移し、2011年の総収入は3000万円を超えました。「いまでも、寄付の件数は年々増加傾向にあります」と、冨田さん。さらに、「シャンシャンの誕生や公開の年は、特に寄付件数が増加しました」と話します。シャンシャンが誕生した2017年には、基金の残高が1億円を超えたそうです。

一般公開されたばかりのころのシャンシャンと、シンシン=2017年12月18日、朝日新聞社

 これらの基金を適正に管理して運用するために、ジャイアントパンダ保護サポート基金運営委員会が設置され、無類のパンダ好きとして知られる、俳優の黒柳徹子さんが顧問に就任しています。

パンダの保護に貢献できる! ドネーション商品とは

 ところでみなさんは「パンダドネーション商品」をご存じでしょうか。商品タグなどについた「SAVE the PANDA」のオレンジ色のロゴが目印で、同園の売店やWebサイトでも販売されており、売上げの一部が基金に寄付されます。

パンダドネーション商品のロゴ=(公財)東京動物園協会提供

 このドネーション商品開発のきっかけについて、冨田さんは「ジャイアントパンダ保護サポート基金の発足と、リーリーとシンシンのお披露目に合わせて、2011年2月に店頭でのドネーション商品の販売を開始しています」と教えてくれました。

 園内の売店をのぞいてみると、お菓子の他にポーチなどの小物やぬいぐるみなど、幅広い種類のドネーション商品が並んでいます。「多くのお客様に手に取っていただき、ジャイアントパンダ保護サポート基金を知っていただくことも大切な役割です。そのため当初から変わらない考え方としては、ぬいぐるみとお土産の菓子類のうち、必ず1つ以上をドネーション商品にすることとしています」。

 寄付付きの商品と言うことで、商品企画やデザインで工夫した点はあるのでしょうか。「既存商品にはない商品企画(仕様)にすることがあります。それは、素材の場合もあれば、デザインの場合も。また、全ての商品ではありませんが、環境に配慮した素材を使うなどして、ジャイアントパンダを取り巻く環境の保護も伝えるようにしています」と、担当者。かわいいだけではなく、いろいろな側面から、パンダに思いをはせられる工夫がされているのですね。

一番売れたのは、あのシャンシャンです

 さまざまな種類があるドネーション商品ですが、一番売れた商品は、どんなものなのでしょうか。

 担当者の方によると、「シャンシャンの一般公開記念に、生まれて間もないジャイアントパンダの『命の重さと大きさを知っていただこう』と企画した『ぬいぐるみ ほんとの大きさパンダの仔 香香 284g(10日齢)』です」とのこと。

「ぬいぐるみ ほんとの大きさパンダの仔 香香 284g(10日齢)」

 こちらはシャンシャンの生後10日目をモチーフにしていて、当時の体長17.6センチ、体重は283.9グラムに近い状態に仕上げられています。また、目のまわりや耳などがうっすらと黒くなっていて、成長に伴うパンダカラーの現れ方がわかる商品でもあります。

しっぽの長さやパンダカラーの現れ方もリアルです=(公財)東京動物園協会提供

「この『ぬいぐるみ ほんとの大きさパンダの仔 香香 284g(10日齢)』は、2017年12月19日の公開初日から、中国へ返還される年までの6年間販売し、累計で6万4000個を販売しています」と、担当者。ぬいぐるみの販売数のケタじゃない……、さすが上野のカリスマですね。

「ほんとの大きさパンダの仔」シリーズ、右:147g(生後2日目)、中央:284g(10日目)、左:608g(20日目)=(公財)東京動物園協会提供

 ほかにも、シャンシャンの生後2日目と生後20日目をモチーフにしたものと、体長を測る時に使っていたメジャーをイメージした、黄色いメジャーなども販売され、購入個数に制限がかかるほど大人気となりました。

シャンシャンの体調を測った黄色いメジャーも商品に=(公財)東京動物園協会提供

 筆者は同じシリーズのシャオシャオとレイレイバージョンを持っているのですが、見た目の印象よりもずっしりと重く、パンダの赤ちゃんの命の重みを、身近に感じることができます。

ほんとの大きさパンダの仔の「シャオシャオ(286g)」と「レイレイ(319g)」バージョン(筆者私物)=2022年12月1日、筆者撮影

はじまりは“かわいい”でもいいじゃない!?

 パンダをはじめ、動物を取り巻く環境には、まださまざまな課題がありますが、「かわいいと思うだけではなく、パンダのためにできることを」なんて、あまりむずかしく考えすぎる必要はないのではないかと思います。

 動物園でパンダに会って、そのかわいさにノックアウト。そしてもっとパンダのことを知りたくなり、さらにパンダのために何ができるのか考えるようになる。そんな風にパンダのことを思えるようになればステキです。

お花が似合うリーリー=2024年3月17日、筆者撮影

 そして、パンダのために何かアクションを起こしたくなったら、今回お話ししたことを思い出してみてください。ドネーション商品の購入や寄付は、そのための第一歩としてちょうど良いのではないでしょうか。少しずつでも、自分たちにできるところから、パンダたちを応援していきたいですね。

■動物園を応援する会員・寄付制度のご案内

会費や寄付を通じて、(公財)東京動物園協会が運営する、都立動物園・水族園を応援する制度です。イベントや会誌の発行などを通じて、野生動物への関心を深めてもらうほか、野生生物保全活動の支援や教育普及活動にも取り組んでいます。

■筆者プロフィール

二木繁美(にき・しげみ)
パンダがいない愛媛県出身で日本パンダ保護協会会員。パンダライター。アドベンチャーワールドの明浜めいひん優浜ゆうひんの名付け親。一眼レフを片手に、多いときには1度に1700枚ほどのパンダの写真を撮影。著書に、神戸のお嬢様と呼ばれたパンダ・タンタンの日常を伝える『水曜日のお嬢様』、マニアックな写真と観点からパンダの魅力を紹介する『このパンダ、だぁ~れだ?』がある。