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今もっとも必要とされる「DX人材」とは? 7つのポイントで解説

「DX(デジタル・トランスフォーメーション)はあらゆる企業の経営戦略の中核になっていて、もうDXリテラシーによる人材の“線引き”が始まっています。新入社員も例外ではありません」
 こう話すのは『デジタル技術で、新たな価値を生み出す DX人材の教科書』(2021年4月)の著者、鶴岡友也さん。株式会社STANDARDのCTOとして480社以上の企業にDX人材教育サービスを提供中。高密度のビジネス経験を踏まえ、後輩たちに勝ち残れるDX人材を目指すうえでの「心構え」をアドバイスします。

著者の鶴岡友也さん。株式会社STANDARD 代表取締役CTO。1996年生まれ。明治大学在籍中から、AI エンジニアのフリーランスとして複数の開発案件に携わる。東大人工知能開発学生団体HAIT Labの運営を通じながら、株式会社STANDARD を共同創業。各産業のDX 推進支援やDX リテラシー講座の作成、グループ会社の設立などに従事(撮影/朝日新聞出版 写真部・張溢文)

■DXリテラシーはなぜ必要なのか?

 いまの新入社員は「ザ・デジタルネイティブ世代」です。一方、いまどこの会社でもDXプロジェクトを担う人材がエンジニアサイドはもちろん、ビジネスサイドも非常に不足しています。なので、なかなかDXが進んでいない。

 DXが喫緊の主要な経営課題である以上、その人材は急いで自社で育てるか、外からプロを採用するかしかなく、戦略的な企業であればあるほど前者、自らDX人材を育てる方向に大きく舵を切っています。

 それはなぜか。DXは従来の自社のビジネスモデルを劇的に変え、飛躍的な成長をもたらす可能性を秘めているからです。その意味では、DXプロジェクトに携わることはビジネスパーソンにとって、極めて有力な「出世コース」になっていると言っていいでしょう。

 さて、すべての社員がその出世コースに乗れるでしょうか。当然ながら答えはノー。「適性」によって人材は厳選されます。つまり彼・彼女らのうち、DXに適している人だけに「チャレンジ権」が優先的に配分される。要は、同じ社員の中でも機会提供における格差が確実に存在するわけです。

 さらに、特にAIの進化にともなって「10年後、生き残る職業」と盛んに言われるようになりました。そういう現状を踏まえて、これからのビジネスパーソンのキャリア、個々の市場価値を高めていくことを考えた場合、「デジタル技術を活用していかに顧客への提供価値を向上させるか」というスキル、つまりDXリテラシーがある人と、それがない人との格差はどんどん広がっていきます。

 なので、新入社員こそDXリテラシーを積極的に身に付けて、デジタルネイティブの強みを磨き、DXプロジェクトにチャレンジして経験値とスキルをどんどん高めていくべきなのです。

『デジタル技術で、新たな価値を生み出す DX人材の教科書』
石井大智著/鶴岡友也著
『デジタル技術で、新たな価値を生み出す DX人材の教科書』

■最も必要なDXリテラシーは何か?

 DXプロジェクトにおいて、最も新入社員が活躍できるのは「企画」の部分でしょう。社会人経験がない分、古くさいビジネスルールや自社の慣行などによるバイアスがないのが大きな強みです。

 たとえば手書きの書類やリアルの会議など、社内では当たり前だと思っている非効率な業務に対して、客観的にゼロベースで「そもそも無駄では? こうしたほうがいいのでは?」と、先輩社員よりも遥かに自由な発想で、様々なアイデアを考えられるはずです。

 なので、新入社員が磨くべきDXリテラシーとしては、プロジェクト企画の立案にかかわる事柄がおすすめです。

 それをどうやって磨いていくか。たとえば大手企業では、隣りの部署の課題や困りごとを全く知らないという「縦割り」の弊害が多く見られます。

 その点、新入社員は部署の垣根にとらわれず、ゼロベースで様々なことを教えてもらえる立場にあります。つまり、誰がどんな課題を持っているか、どこにアナログな業務があって非効率になっているかなど、広く社内の困りごとを知り得る存在なわけです。

 新入社員はその強みを生かして、どんどんいろんな先輩社員に話を聞きに行くようにしたら、最も重要な企画力である「課題発見力」を高めることができると思います。

 DXの他社事例も案外、知られていないものです。それを積極的にネットなどでリサーチして、わかりやすく「課題・解決策・効果」の三つの軸で整理して発表していく。これができればより貴重な「戦力」になれるでしょう。

 特に理系出身の新入社員は、技術面の事例を「いま何ができて、どういうふうに役に立つのか」という視点も盛り込んで整理して、どんどん発表したらいいと思います。

 こうしたアクションは、新入社員の中ではもちろん、先輩社員との比較でも頭一つ抜け出すDXリテラシー磨きになるはずです。

■「調整力のある上司」を味方につける

 いま多くの企業の経営サイドはデジタルネイティブの「積極性」に期待しています。つまり、新入社員が自ら手を挙げて拒絶されることはまずありません。なので、どんどんDXプロジェクトに携わる機会を積極的につかみにいくべきです。

 各企業でDXを任せられている人材に共通するのは、最近のITサービスに詳しいことはもちろん、自社の「悪習」に染まっていない新しい視点で物事が見られるという点です。これは前述の新入社員の強みにも通じます。

 ただ、新入社員に圧倒的に足りないのは「巻き込み力」です。当たり前ですが、DXプロジェクトは一人では進められません。やはり協力者を増やす必要があります。そのためには、部長クラスとか全社的な影響力のある人を味方につけておくことが大事になるでしょう。

 たとえば、新入社員は何か困りごとがあった時に、それをだれに話せばいいのか、よくわからないケースも多いはずです。その時に、まず社内事情に精通していて調整力のある上司に相談すれば、「それならあの人に聞いてみよう」と自分に代わって巻き込んでくれます。それができたら格段に成果を出しやすくなるはずです。

著者の石井大智さん(左)と鶴岡さんが経営する株式会社STANDARD。2017年の創業ながら、ソフトバンク・NTTデータ・パナソニック・リコー・みずほフィナンシャルグループなど、大手企業を中心に500社近くにDX人材育成、コンサルティング、プロダクト開発を提供している
(撮影/朝日新聞出版 写真部・張溢文)

■DX人材になるための7つのポイント

 DXプロジェクトに適している人材の要件を最後にまとめておきましょう。特に文系の新入社員は、これら7つのポイントを強く意識して動き続けることで、より社内での活躍の機会が増えるし、自分の市場価値も高まっていくと思います。

(1)課題発見力が高い
解決した場合に、よりインパクトの大きなビジネス課題を見つけられるというのがマストのスキルです。

(2)各デジタル技術でどんなことができるかを知っている
 
基本的なことはもちろん、次々と新しいテクノロジーやツールが出てくる中、課題に対する解決策の幅を持たせるという意味では、最新技術で何ができて何ができないのか、敏感にキャッチアップして引き出しを増やしていくことが求められます。

(3)課題の「定量化」ができる
 
ビジネスの指標や経営上の数値(お金や時間、人数など)を踏まえて考えないと、大きな成果に結び付く課題は発見できないでしょう。

(4)自発的、積極的である
 
DXは全社的な「変革」にも及ぶプロジェクトですから、「やらされている人」に推進できるはずがありません。

(5)巻き込み力がある
 
当然ですが、プロジェクトは一人ではできません。特にDXでは全社員をマネジメントする必要も出てくる。なので、現場には現場の言葉、経営層には経営層の言葉で説明できる「変換力」、つまり高いコミュニケーション能力が求められます。またエンジニアに対しては、技術面よりもビジネス面の「目的」を明確に言語化して伝えるスキルが重要になってきます。

(6)アジャイル型のマインドセット
 
DXプロジェクトには小さな失敗がつきものですが、それを大きな失敗にしないように俊敏に対応しないといけない。要は、失敗を恐れない実験主義とそこから学び続ける学習主義が大事になります。また、DXは顧客への提供価値の向上が大きな目的です。なので、顧客を第一に考えてアジャイル的、つまり俊敏に対応することが重要になります。

(7)妄想力、構想力がある
 言うまでもなく、課題とは「理想と現実のギャップ」です。あるべき理想像を豊かに描けなければ、さまざまなビジネス課題に気づくことさえできないでしょう。

 以上、7つのポイントを挙げましたが、最も重要なのは(1)の課題発見力です。先にも少し述べましたが、社歴が長くなればなるほどバイアスが強固になって、社内の課題も見えにくくなります。なのでバイアスゼロの新入社員のうちに、徹底的にこのスキルを磨き上げて、DX推進の主役を目指してほしいと思います。