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がんでも、なぜか長生きする人の「心」の共通点とは?

 2人に1人が、がんになり、3人に1人が、がんで亡くなる時代。さまざまな研究が進むなか、「がんと心の関係」でも、多くのことが明らかになってきました。「精神腫瘍学」という、がん患者の心のケアを専門とする精神科医で保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆医師。2016年に刊行した著書『がんでも、なぜか長生きする人の「心」の共通点』(朝日新聞出版)でも、がんと向き合うときの「心のあり方」の重要性について説いています。がんでも長生きする人たちの「心」には、どのような共通点があるのでしょうか? 保坂先生に話を聞きました。

 私が専門とする精神腫瘍科は、「がんで落ち込んでいる患者さんの心を元気にする」のがミッションです。

 がんを告知されたとき、多くの人は「がん=死」というイメージを思い浮かべて、心に大きな衝撃を受けます。そして、衝撃を受けたあと、「受容」と「否認」を繰り返しながら、やがて事実を冷静に受け入れる「適応」の段階へと進んでいきます。

 しかし、がん患者さんのうち、10~35%が「適応障害」を、5~10%が「うつ病」を併発することがわかっています。そして、心の状態が悪化した人は、再発や転移などのがんの予後も良くないことが明らかになっています。だからこそ、がん患者さんの心のケアの重要性が、近年、注目されているのです。

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 では、がんと告知された後、どのようにがんと向き合うことが、一番、がんの予後を良くして、寿命を延ばすのでしょうか。

 かつてイギリスのグリアーという心理療法家が、手術後3カ月たった乳がん患者たちと面接をして、それぞれの病気への向き合い方を調査しました。すると、大きく分けて四つのグループができました。

(1)「がんに負けないで必ず勝つ!」と、闘争心にあふれたグループ
(2)がんを真摯(しんし)に受け止めて、粛々と治療に励むグループ
(3)「もう駄目なんだ」とあきらめて絶望的になっているグループ
(4)自分ががんであることを忘れたかのように過ごすグループ

 グリアーの弟子の研究者らが、その後12年間にわたってこの四つのグループを追った結果、どのグループが一番、長生きだったと思いますか?

「(1)がんに負けないで必ず勝つ!」がもっとも長生きだったと思われる方が多いでしょう。でも実際には、(1)と「(2)がんを真摯に受け止めて、粛々と治療に励む」「(4)自分ががんであることを忘れたかのように過ごす」のグループでは、その後の経過に明確な差は認められませんでした。

 そして、「(3)あきらめて絶望的になった」グループは、進行が極端に早く、かなり早期に全員が亡くなってしまったのです。

 この結果をどう読み解くか。それは、あきらめて絶望的にさえならなければ、それぞれが自分らしく、がんと人生と向き合えばいい、ということです。

 この結果を受けて、その後の医学界の常識までもがガラリと変わりました。昔は「頑張ってがんと闘いましょう」と、患者さんにプレッシャーをかけることも多かったのですが、研究発表以降、「その人なりのやり方でがんと向き合えばいい」「医師や医療スタッフは、患者さんの気持ちを尊重しつつ、しっかりサポートするのが大切である」という考え方が主流になってきたのです。

 この他にも、人のために「祈る」ことによって、心を癒やす作用や、ストレスを打ち消して免疫力を高める効果がある「オキシトシン」の分泌が高まることなど、さまざまなことがわかってきています。

 がんの治療でもう一つ大切なのは、「がんは慢性疾患である」と理解することです。

 病気は、「完治する病気」「完治しない病気」に大別できますが、風邪や虫垂炎などは前者で、がんは後者に分類されます。しかし、完治しないという点では、高血圧や糖尿病、関節リウマチなども同じです。

 良い状態をキープしながら、気長に一生つき合い続ける病気。そう考えると、がんが慢性疾患であるのがわかるでしょう。

 慢性疾患では、それまでの生活を見直し改めることが求められます。がん患者さんが、思い切って仕事のやり方や、食生活を根本的に変え、ストレスをためない生活を心がけるようになると、がんに変化を与えるだけでなく、その他の生活習慣病も防いで健康になっていく例を、私は間近でたくさん見てきました。

 2人に1人が、がんになる時代だからこそ、慌てずに対処するための「心の整え方」を、ぜひ多くの方に知ってほしいと思います。