志村朋哉著『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』(朝日新書)の立ち読み
はじめに
2021年7月13日、アメリカの野球ファンの視線はロッキー山脈東麓にあるコロラド州デンバーのクアーズ・フィールドに注がれていた。
野球選手にとって世界最高峰の舞台であるメジャーリーグ。そこで最も活躍する70人弱の選ばれしスターだけが参加できる夢の祭典、オールスターゲームが行われていた。
2021年のオールスターゲームは、例年以上の重みがあった。前年は新型コロナウイルスの流行でシーズンが短縮され、第2次世界大戦中の1945年以来、初めてオールスターゲームが中止となったからだ。ファンで埋め尽くされた球場でのオールスターゲームは、「アメリカが日常を取り戻しつつある」ことを実感させてくれた。
その舞台の中心にいたのが、他でもない大谷翔平だった。
開幕から驚異のスタートダッシュを見せ、約100年前の「野球の神様」ベーブ・ルース以来となる本格的な投打の二刀流で大車輪の活躍。オールスターゲームまでの前半戦で、メジャー単独トップとなる33本のホームランを放った。それまでの日本人選手最多であった松井秀喜の年間本塁打記録を中間地点で更新してしまったのだ。投手としてもエース級の投げっぷりだった。
誰もが想像しえなかった活躍で米野球界の話題を席巻し、メジャー史上初めて投手と野手の両方でオールスターに選出された。しかも、ファンが望む投打両方で出場させるため、リーグは試合のルールさえも捻じ曲げた。
「1番・指名打者」かつ「先発投手」として、スタメン出場。試合前の選手紹介では、観客席から一際大きい唸りのような歓声が上がった。
前日のホームラン競争にも、日本人では初出場を果たした。しかも、第1シードで、優勝の本命と見られていた。
まさに「大谷のための祭典」といっても過言ではなかった。日本人がアメリカの国技ともいえる野球の「顔」になる日が来るとは想像もしていなかった。ましてや「投打の二刀流」という形でなんて。
オールスターゲームを中継する米FOX局の解説者たちは、大谷のピッチングを見ながら、「よくベーブ・ルースの二刀流と比較されるけど、シーズンを通してやり続けたら、それを上回る」と話していた。
2021年の大谷は、満票でのMVPという活躍で、それを成し遂げた。自らの夢である「世界一の野球選手」にとどまらず、メジャー史上で「唯一無二」の存在となったのだ。
私は、そんな大谷の軌跡を4年前のメジャーデビューから追い続けてきた。
当時、ロサンゼルス・エンゼルスの地元紙オレンジ・カウンティ・レジスターに勤めていた私は、米メディアで唯一となる大谷担当記者を任された。独立してからも、自宅のあるオレンジ郡を拠点に、大谷本人の取材に加えて、周囲の選手や首脳陣、スカウト、現地記者、ファンなどの声を聞き記事を書いてきた。
本書では、この4年間を振り返り、日本メディアの報道からは伝わりづらい「現地の生の声」「アメリカ人の目に映る大谷翔平の姿」をお届けする。1章では鮮烈デビューと怪我との闘い、2章では2021年の快進撃、3章ではベーブ・ルースや日本人選手などとの比較、そして4章では現地ファンが大谷に惹かれる理由とアメリカでの野球人気を解説する。
現地で大谷がどれほどの評価を受けているのかを通して、アメリカ流の野球観を理解していただき、これからのメジャー観戦に役立てていただけたら幸いだ。
ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実・目次
はじめに
1章 海を渡った二刀流
まさかのエンゼルス入団
アメリカも待ちわびた二刀流
大谷の感じた「縁」
“Hi, my name is Shohei Ohtani ! ”
さえなかったオープン戦
鮮烈デビュー
地元で高まる大谷人気
驚異的な適応力
襲いかかる怪我
当然だった新人王受賞
高まる大谷人気
「悔しい」1年
コロナとの戦い
2章 常識をくつがえす快進撃
「ラストチャンス」の自覚
オープン戦も気合十分
「リアル二刀流」
1072日ぶりの白星
止まらぬ活躍
もう目が離せない
初の月間MVP
「史上最高のシーズン」
激闘・ホームラン競争
「大谷づくし」のオールスターゲーム
再び月間MVP
スランプの原因
「158」
3章 数字で見る“リアル二刀流”
メジャー5指に入る打撃力
エース級の投球
「世界一の選手」
「当然」のMVP
歴史的偉業
ベーブ・ルース vs. 大谷翔平
日本人選手との比較
2022年の成績は?
エンゼルス奮起なるか?
データとの付き合い方
4章 アメリカが見た大谷翔平
初ホームランボールにまつわるドラマ
「オオタニ」を愛する野球少年
大谷に惚れた野球狂
助手席に顔写真
野球少年の母が語る大谷
アジア系住民の地位向上に貢献
野球の低迷
大谷は救世主?
おわりに