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大谷翔平、新たな伝説への挑戦。野球の母国・アメリカを虜にした「オオタニサン」の舞台裏に迫る

2024年4月12日に発売された、ディラン・ヘルナンデス著/サム・ブラム著/志村朋哉 聞き手・訳の新刊『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)。本塁打王、2度目のMVPを獲得し、プロスポーツ史上最高額でロサンゼルス・ドジャースへの移籍が決まった大谷翔平。大谷翔平がどれほどすごいのか、現地の声とともに、データ分析や取材を通して浮かび上がってきた独自の野球哲学、移籍後の展望など徹底解説。特別に本書の「はじめに」と「目次」を公開します。立ち読み気分でまずは読んでみてください。

はじめに

 スポーツ界には、時たま、スーパースターが現れる。
 
 他を圧倒する「実力」と、見ている人を興奮させる「華」を併せ持ち、そのスポーツの人気や地位を押し上げるほどの影響力がある存在のことだ。バスケットボールのマイケル・ジョーダン、ゴルフのタイガー・ウッズ、サッカーのリオネル・メッシなどが良い例だろう。
 
 大谷翔平は、そうした世界のスーパースターと同列に語るべき器であることを、この3年間で証明した。
 
 投打のそれぞれで最高クラスという異次元の二刀流で、2021年と23年には満票でMVPに選出。初出場のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、大会MVPに選ばれる活躍で日本を優勝に導き、大舞台でも輝けることを証明した。野球の母国アメリカで、現役最高選手としての地位を確固たるものにしている。
 
23年終盤には、右肘靭帯を再び損傷する事態に見舞われたにもかかわらず、オフにはプロスポーツ史上最高となる総額7億ドル(約1000億円)でロサンゼルス・ドジャースと契約して、世間を沸かせた。
 
 大谷の渡米時にロサンゼルスの地方新聞で働いていた私は、米メディアで唯一となる大谷の番記者を任され、それ以来、彼のメジャーリーグでの軌跡を追ってきた。20年近く、アメリカのスポーツを見続けてきたが、大谷ほど世間の期待を上回り、常識を覆すようなパフォーマンスを発揮するアスリートは他に思い浮かばない。
 
22年3月に、それまでの大谷のメジャーでの活躍と現地での評価をまとめた『ルポ 大谷翔平』を上梓した時は、これ以上の成績を残すのは、正直、難しいだろうと思っていた。しかし、なんと2年続けて、「史上最高」とまで称されたシーズンを超えてみせたのである。WBCでは、まるで漫画かのようなドラマチックな展開と、ここぞという場面で力を発揮する姿に、自分が大谷を過小評価していたと痛感させられた。一体、この男はどこまで登り詰めるのだろうか?
 
 本書は、大谷の軌跡を近くで見てきた二人のアメリカ人記者と私の対談を書き起こしたものである。
 
 ロサンゼルスの大手新聞であるロサンゼルス・タイムズでスポーツコラムニストとして働くディラン・ヘルナンデスは、大谷にメジャー移籍前から注目して取材を続けてきた。日本人の母を持つディランは、流暢な日本語を話す。大谷を取材する米メディアの記者で日本語を使えるのは、私とディランだけだったので、球場の記者席で会って話しているうちに、親近感を覚えるようになっていた。鋭い意見が求められるコラムニストを務めるディランは、期待していた通り、エッジの効いたコメントを連発してくれた。
 
 日々、エンゼルスを取材する現地の文字媒体は4社しかない。そのうちの一つである『ジ・アスレチック』で、大谷がブレークした21年から番記者を務めるのがサム・ブラムである。ほぼ全てのエンゼルスの試合を球場で取材するサムは、大谷を取り巻く環境に精通している。
 
 ビデオチャットで二度に分けて行われた本書の対談では、二人とも歯に衣着せぬ言葉で、あらゆる角度から大谷について語ってくれた。これまで表には出ていなかったエピソードもあるはずだ。それをなるべくそのままの形で文字に起こし、私が英語から日本語に訳した(読みやすくするため、冗長な部分や繰り返しの部分は削り、質問の順序を入れ替えたことは、ご了承いただきたい)。日本語での言葉遣いなどは、私が二人の性格などを考慮して決めた。
 
 本書を読んでいただければ、「アメリカという国が大谷翔平をどう評価しているのか」「日米の野球観の違い」など、日本人が気になる疑問が明らかになるだろう。これからの大谷の活躍を追う上でも、非常に役立つ内容に仕上がったと自負している。最後までお付き合いいただければ幸いである。

ディラン・ヘルナンデス 著 / サム・ブラム 著 / 志村 朋哉 聞き手・訳
『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)

米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像 目次

はじめに

1章  「世界一の選手」までの道のり
 日本時代から注目株
 二刀流への反応
 エンゼルスを選んだ理由
 苦悩からの飛躍
 球史に残る3年間
 WBCでの活躍
 野球が全て
 史上最高の二刀流
 
2章  新天地へ
 「驚き」の移籍
 全ては勝つため
 LAの盛り上がり
 ドジャース黄金時代の到来か?
 24年の成績予想
 大谷のリーダーシップ
 メディア対応は変わるか?
 ドジャース幹部は傲慢?
 
3章  日本が報じる「オオタニサン」
 素の大谷翔平
 日本メディアの印象
 異例の取材制限
 縁の下の力持ち
 英語を話さない理由
 文化の違い
 息苦しい日本
 
4章  大谷がアメリカを変える
 変化する米球界
 進むデータ化
 米国での野球人気
 大谷が変える日本人観
 
5章  野球記者の枠割
 記者という仕事
 「応援団」ではない
 
おわりに