見出し画像

アホと戦ってはいけない。だが、戦うべき“価値ある戦い”もある。その見分け方とは?

 周囲に、あなたの時間・エネルギー・タイミングを奪う人はいないだろうか? 90万部を突破した人気シリーズ『頭に来てもアホとは戦うな! 賢者の反撃編』田村耕太郎著/朝日新聞出版)から、理不尽で不愉快な存在との対処法を一部抜粋で解説する。(タイトル画像:masamasa3 / iStock / Getty Images Plus)

田村耕太郎『頭にきてもアホとは戦うな 賢者の反撃編』(朝日新聞出版)
田村耕太郎『頭にきてもアホとは戦うな 賢者の反撃編』(朝日新聞出版)

■向かうべき戦いを選べ

 Don't fight every battle.――向かうべき戦いを選べ。

 私の好きな言葉である。政治家になって国務省の招待を受け、アメリカで研修を受けたときにアメリカの高官から学んだ言葉だ。

 その要旨は次のとおりだ。エネルギー溢れる若いうちに高い志を持って政治家になったあなたは、「あれも解決したい」「この政策も改善したい」と毎日毎時その不満の原因になっている課題に立ち向かいたい気持ちがあるだろう。

 でもすべての戦いに勝つのは大変だ。どの戦いもつながっている。どの戦いに挑むのかを選ぶことであなたの大きなゴールの結果は変わる。

 ある戦いに挑むことは別のより大事な戦いを不利にするかもしれない。別の戦いを選ぶことで他の3つや4つの戦いにまとめて勝利することになるかもしれない。

 何より、あなたのエネルギーをもってしても全部の戦いに勝つことはできない。つまり、不満を持ってもまずはグッと我慢し、全体を見てどの戦いに向かうことが最も上手に戦うことになるのかを冷静に見きわめるべきというのだ。

  聞いた時には腑に落ちたが、エネルギーが有り余っていて、思慮に欠ける若い自分は、戦いまくってしまった。あらゆる相手に向かっていってしまい、結局最後は自分の首を絞めた。他人の目も気にした。「なぜ黙っているのですか」とかメディアや友人知人に言われ、ここで発言・行動しないのはカッコ悪いと、もっと大きな目標達成のためには敵にしてはいけない人を敵にしてしまった。

 ビジネスでもそれはいえる。イノベーションのジレンマで有名な故クレイトン・クリステンセン教授が「消費者の声を聴きすぎてもいけない」と言っているが、その通りである。過剰サービスや過剰クレーム対応がビジネスではない。ここでも全体のゴールを見て向かうべき戦いを選ぶのだ。何と言われようが、戦いを選べ。長い人生戦い続けていては体がもたないし、敵を作り、家族や友人含めて何のための人生かわからなくなる。

 常に冷静でいよう。常に状況を見回して、今は戦うべき時か、武器を研ぎ澄ますべき時か判断する頭を持とう。戦うとなったら、自分にとって最大の戦果を得られる戦いを選び、確実に勝利するように周到な準備が必要だと心得よう。

田村耕太郎『頭にきてもアホとは戦うな』(朝日新聞出版
田村耕太郎『頭にきてもアホとは戦うな』(朝日新聞出版

■状況を把握したうえで手段を選べ

『頭に来てもアホとは戦うな!』を上梓してから、次の二点について、聞かれることがよくある。

(1)戦うべきとき、戦ってはいけないときの見きわめはどこにあるか?
(2)いざ言動を改めさせたいとき、どのようなアクションを起こしたらいいのか?

 大事なのは、頭に来ても“アホ”とは戦うなということ。つまり、アホ限定で戦うことの禁止を訴えているのだ。だから、アホではなく価値ある戦いなら挑めばいい。

 価値ある戦いとは何か? 「自分の人生を生きる」ための戦いだと私は思う。例えば、アーティストのオーディションで自分がやりたい役は一つしかなく、それを巡って何人も立候補しているとか、政治家になってライフワークとしてやりたい政策があるのにライバルがいっぱいというシチュエーションとか、そういう場合だ。

 戦うかどうかを見きわめる点は、「対象がアホであるかどうか」だ。

 言い換えれば、たった一度の大切な人生を賭ける価値がある相手かどうかだ。

 もっといえば、戦うことは手段でしかない。目的は自分の人生を謳歌することである。

 そのための手段として戦うしか選択肢がないなら戦うべきだろう。

 それ以外に平和に目的が達成できるなら、戦わずして勝つ、つまり、目的が達成できる手法をとるべきといえる。

 逆に、自分の人生を生きることや自分の人生の目的に関係ないなら、戦わずに放っておけばいいだろう。嫌われて怨念を浴びないよう、適度に距離をとりながら、いなしていけばいい。

 相手がアホならなおさら。いかにそのアホのせいで苦しんでいる人がたくさんいても、そのアホを完璧に抑え込んで反撃されないくらい撃滅できる力が自分にないなら、戦っても皆の役に立たないばかりか、恨みを買い、自分の人生の目的達成が遠のくばかりとなる。

 もし、多くの人を救いたいという義憤に駆られたら、まずは実力をつけることである。

 それは、アホを抑え込み完璧に封じ込めることのできる力のことだ。

 力がつく前に言動をあらためさせたいなら、相手を注意深く観察し、アホの傾向と対策を分析し、アホの欲するものを与え、言動を変える動機付けになりそうなものはないか、しっかり考えることだ。

 アホの狙いが、プライド、お金、出世、ストレス解消、等々の中の何なのか?

 どうすればそれを、自分も含めた、苦しめられている皆にとって最もダメージの少ない形で満たしてやれるか?

 それを考え抜き、時に苦しめられている皆で連携して、動機付けからアホの言動を少しずつ変えていこう。

 コンプライアンス重視の機運が高まり、パワハラやセクハラも社会や会社内の目が厳しくなっているので、目に余る場合は、証拠をしっかり押さえて、それらに訴えることを取引材料にするのも手だろう。弁護士も世に余っているので、最終的には彼らも動員して、抑え込むのも手かもしれない。

 とにかくこちらの感情は抑えて、クールに相手を注意深く観察することから始めよう。

 それがアホとの不要な戦いを避ける第一歩だ。