見出し画像

文章のプロが「起・承・転・結」で書くことを勧めない理由

「文章を書く手順について、多くの方が勘違いをしている」と話すのは、ウェブ小論文塾代表で1500人以上を指導してきた元NHKアナウンサーの超人気講師、今道琢也さん。では、どのような手順で書けばいいのでしょうか? 著者の今道さんが生徒役のもとゆき君に文章の書き方を教えるというコンセプトの書籍『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』から一部を抜粋・再構成して、書き方のポイントを解説します。

今道琢也『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』
今道琢也『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』

■聞かれた順番に書けばいい

もとゆき:文章を書くときの基本的な手順を知りたいです。

今道:はい。その点について、説明しましょう。次のような例題を用意しました。

【問題】
あなたが主体的に物事に取り組んだ事例を挙げ、それを今後の仕事にどのように活かせるか述べなさい。

今道:これから下書きを作って、文章を作成していきますが、次のような手順を踏みます。

[1]問題文の整理・理解
[2]答案を構成するブロックを考える
[3]材料集め
[4]話の並べ替えや重み付け
[5]文章としてまとめる

今道:[1]では、問題で聞かれていることがいくつあるかを整理し、その中で何がキーワードになっているかを理解します。[2]では、問題を受けて、答案をどういうブロックで構成するのかを考えます。

もとゆき:文章は「起・承・転・結」で書けばいいって聞いたことがあるんですけど。ブロックって、この「起」とか「承」にあたるもののことですか?

今道:まあ、そういうものだと考えていいです。ここでいうブロックとは、文章を大きく分けてどういう流れで構成していくのか、その構成要素のことです。答案を書くときには、まず、この話を書いて(1つ目のブロック)、次はこの話を書く(2つ目のブロック)というように、話の大まかな流れを考える必要があります。

 ただ、私は「起・承・転・結」の考え方はお勧めしません。この順番でうまくいく場合もあるでしょう。でも、そうでない場合も多々あります。それは、問題がどういう指示になっているかによります。だから、「起・承・転・結」は、一度忘れてください。

もとゆき:わかりました。でも、そうすると、具体的なブロックがイメージできません。

今道:そうですよね。そこで大事になるのが、[1]の「問題文の整理・理解」の作業です。問題で聞かれていることを整理すれば、何を書くべきか、ブロックが見えてきます。実は、小論文やエントリーシートなどは、基本的に聞かれた順番に書いていけばいいんです。先ほど挙げた例題では、何を聞いていますか?

もとゆき:「あなたが主体的に物事に取り組んだ事例」「それを今後の仕事にどのように活かせるか」の2つのことを聞いてますよね。

今道:そうですね。ですから、答案の大まかな流れとしては、こうなります。

【答案を構成する2つのブロック】
◎私が主体的に物事に取り組んだこととして、こういう経験がある……
◎この経験は、今後の仕事にこのように活かすことができる……

■下書きは箇条書きで書き出す

もとゆき:[3]の「材料集め」は何をするんですか?

今道:[3]では、各ブロックの中に何を書いたら良いか、材料を集めます。「下書き作り」です。ここでは、聞かれている、

「あなたが主体的に物事に取り組んだ事例」
「それを今後の仕事にどのように活かせるか」

という2つについて、書く材料を集めます。

もとゆき:とりあえず、こんな感じかなと思うんですけど……。

  • 「あなたが主体的に物事に取り組んだ事例」……ゼミの幹事をやった

  • 「それを今後の仕事にどのように活かせるか」……会社でも積極的な姿勢で仕事ができる

今道:なるほど。中身をもっと具体化し、書く材料を増やしていきましょう。ゼミの幹事って、具体的に何をやったんですか?

もとゆき:大したことではないんですけど、とりあえずメンバーの気心が知れた方が、運営がうまくいくかなと思って食事会を開いたとか、あとは発表がスムーズに進むようにしたとか。

今道:それを書き込むと、こんな風になりますね。下書きは、箇条書きで書き出します。

 【下書き例】
◎あなたが主体的に物事に取り組んだ事例
・ゼミの幹事をやった。
○具体的には何をした?
・メンバーの気心が知れるように食事会を開いた。
・発表がスムーズに進むようにした。

今道:具体化の作業では、読む人の頭の中にイメージが浮かぶようにしたいですね。「発表がスムーズに進むようにした」って、さらに具体的に言うと何をやったんですか?

もとゆき:発表が近づいている人には「準備は順調に進んでいる?」とか、声かけをしました。忘れている人もいるので。あと、急に欠席者が出る場合は、他のメンバーに連絡をして順番の調整をしたとか……。

今道:じゃあ、それも書き入れましょう。

【下書き例】
◎あなたが主体的に物事に取り組んだ事例
・ゼミの幹事をやった。
○具体的には何をした?
・メンバーの気心が知れるように食事会を開いた。
・発表がスムーズに進むようにした。発表が近づいている人に声かけした。欠席者が出る場合は、順番の調整にあたった。

今道:もっと具体的になりますね。他の要素も下書きに書き込んでください。

もとゆき:こんな風になりました。

【下書き例】
◎あなたが主体的に物事に取り組んだ事例
・ゼミの幹事をやった。
○具体的には何をした?
・メンバーの気心が知れるように食事会を開いた。
・発表がスムーズに進むようにした。発表が近づいている人に声かけした。欠席者が出る場合は、順番の調整にあたった。
○ 具体的な成果・評価
・教授から「例年になく活発なゼミになった」と言ってもらえた。

◎それを今後の仕事にどのように活かせるか
・仕事に対して自分から積極的に手を挙げて担当させてもらう。
・ 自分がやるべきことは何かを考え行動する。

今道:「材料の具体化」はできましたね。文章を書き始める前に、[4]の作業、「話の並べ替えや重み付け」をやりましょう。

■大事なこと、言いたいことを、「先に」「多めに」書く

今道:答案に書くことには、「とても大事」な話もあれば、「そこそこ大事」レベルの話もありますよね。例えば「あなたは採用後(あるいは入学後)、どんなことに取り組みたいか」という出題があったとしましょう。「とてもやりたいこと」「そこそこやりたいこと」の両方を答案に書くとして、どちらから先に書きますか?

もとゆき:それは、「とてもやりたいこと」から先に書くでしょうね。

今道:そうです。大事なこと、言いたいことから先に書く方が自然ですよね。順番だけでなく、書く分量としても「とてもやりたいこと」に、多めに字数を割く方が自然ですよね。このように、答案を書くときは、大事なこと、言いたいことを、「先に」「多めに」書く方が効果的です。

 下書きではゼミの幹事として取り組んだこととして、下線のように、2つが挙げられていますが、書く順番を再考します。ゼミの目的からすると「発表がスムーズに進むようにした」の方が大事ですから、そちらを先に書きましょう。

 ここまでできたら、 [5]の「文章としてまとめる」作業を行います。完成形は次のような文章になります。

 【解答例】
 
私は大学のゼミで、自ら手を挙げて幹事を務めました。ゼミの発表が円滑に進むように、発表が近づいている人には準備が順調に進んでいるか、声かけを欠かさないようにしました。また、急に欠席者が出る場合は、ゼミのメンバーに連絡をして順番の調整にあたりました。さらに、メンバーの気心が知れることも大事だと考えて、食事会を開くことを私が提案し、授業の時間以外でも親睦を深めました。この結果、教授からは「例年になく活発なゼミになった」と評価してもらえました。
 この経験は入社してからの仕事に活かすことができます。例えば、仕事に対して自分から積極的に手を挙げて担当させてもらう、業務の動きを見ながら自分がやるべきことは何かを考え行動する、などです。このような主体性を持って仕事に取り組んでいきます。