文章のプロが「起・承・転・結」で書くことを勧めない理由
■聞かれた順番に書けばいい
もとゆき:文章を書くときの基本的な手順を知りたいです。
今道:はい。その点について、説明しましょう。次のような例題を用意しました。
今道:これから下書きを作って、文章を作成していきますが、次のような手順を踏みます。
今道:[1]では、問題で聞かれていることがいくつあるかを整理し、その中で何がキーワードになっているかを理解します。[2]では、問題を受けて、答案をどういうブロックで構成するのかを考えます。
もとゆき:文章は「起・承・転・結」で書けばいいって聞いたことがあるんですけど。ブロックって、この「起」とか「承」にあたるもののことですか?
今道:まあ、そういうものだと考えていいです。ここでいうブロックとは、文章を大きく分けてどういう流れで構成していくのか、その構成要素のことです。答案を書くときには、まず、この話を書いて(1つ目のブロック)、次はこの話を書く(2つ目のブロック)というように、話の大まかな流れを考える必要があります。
ただ、私は「起・承・転・結」の考え方はお勧めしません。この順番でうまくいく場合もあるでしょう。でも、そうでない場合も多々あります。それは、問題がどういう指示になっているかによります。だから、「起・承・転・結」は、一度忘れてください。
もとゆき:わかりました。でも、そうすると、具体的なブロックがイメージできません。
今道:そうですよね。そこで大事になるのが、[1]の「問題文の整理・理解」の作業です。問題で聞かれていることを整理すれば、何を書くべきか、ブロックが見えてきます。実は、小論文やエントリーシートなどは、基本的に聞かれた順番に書いていけばいいんです。先ほど挙げた例題では、何を聞いていますか?
もとゆき:「あなたが主体的に物事に取り組んだ事例」「それを今後の仕事にどのように活かせるか」の2つのことを聞いてますよね。
今道:そうですね。ですから、答案の大まかな流れとしては、こうなります。
■下書きは箇条書きで書き出す
もとゆき:[3]の「材料集め」は何をするんですか?
今道:[3]では、各ブロックの中に何を書いたら良いか、材料を集めます。「下書き作り」です。ここでは、聞かれている、
「あなたが主体的に物事に取り組んだ事例」
「それを今後の仕事にどのように活かせるか」
という2つについて、書く材料を集めます。
もとゆき:とりあえず、こんな感じかなと思うんですけど……。
「あなたが主体的に物事に取り組んだ事例」……ゼミの幹事をやった
「それを今後の仕事にどのように活かせるか」……会社でも積極的な姿勢で仕事ができる
今道:なるほど。中身をもっと具体化し、書く材料を増やしていきましょう。ゼミの幹事って、具体的に何をやったんですか?
もとゆき:大したことではないんですけど、とりあえずメンバーの気心が知れた方が、運営がうまくいくかなと思って食事会を開いたとか、あとは発表がスムーズに進むようにしたとか。
今道:それを書き込むと、こんな風になりますね。下書きは、箇条書きで書き出します。
今道:具体化の作業では、読む人の頭の中にイメージが浮かぶようにしたいですね。「発表がスムーズに進むようにした」って、さらに具体的に言うと何をやったんですか?
もとゆき:発表が近づいている人には「準備は順調に進んでいる?」とか、声かけをしました。忘れている人もいるので。あと、急に欠席者が出る場合は、他のメンバーに連絡をして順番の調整をしたとか……。
今道:じゃあ、それも書き入れましょう。
今道:もっと具体的になりますね。他の要素も下書きに書き込んでください。
もとゆき:こんな風になりました。
今道:「材料の具体化」はできましたね。文章を書き始める前に、[4]の作業、「話の並べ替えや重み付け」をやりましょう。
■大事なこと、言いたいことを、「先に」「多めに」書く
今道:答案に書くことには、「とても大事」な話もあれば、「そこそこ大事」レベルの話もありますよね。例えば「あなたは採用後(あるいは入学後)、どんなことに取り組みたいか」という出題があったとしましょう。「とてもやりたいこと」「そこそこやりたいこと」の両方を答案に書くとして、どちらから先に書きますか?
もとゆき:それは、「とてもやりたいこと」から先に書くでしょうね。
今道:そうです。大事なこと、言いたいことから先に書く方が自然ですよね。順番だけでなく、書く分量としても「とてもやりたいこと」に、多めに字数を割く方が自然ですよね。このように、答案を書くときは、大事なこと、言いたいことを、「先に」「多めに」書く方が効果的です。
下書きではゼミの幹事として取り組んだこととして、下線のように、2つが挙げられていますが、書く順番を再考します。ゼミの目的からすると「発表がスムーズに進むようにした」の方が大事ですから、そちらを先に書きましょう。
ここまでできたら、 [5]の「文章としてまとめる」作業を行います。完成形は次のような文章になります。