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【#創作大賞2023 に参加される方へもおすすめ】編集者1年生が、D・R・クーンツ著『ベストセラー小説の書き方』を読んでみた

はじめまして。

 みなさん、はじめまして。朝日新聞出版・書籍編集部、編集者1年目のKと申します。

 新人の私が記事を書かせてもらうことになりました(ドキドキ)。

 ということで、突然ですが、小説家を目指す方の助けになる、ディーン・R・クーンツ著『ベストセラー小説の書き方』をご紹介します。

※#創作大賞への応募を目指している方の役に立つ投稿を!という思いで、この記事は生まれています。
※最初に言ってしまいます。本書とても面白く、作家を目指す方はもちろん、読書家の皆さんにもおすすめの一冊です。
※個人的にはこれから編集者として働く私も大変勉強になりました。

本書を読む前に……

『ベストセラー小説の書き方』
 米国の人気作家、ディーン・R・クーンツによる小説作法の指南書です。
朝日文庫でも、刊行以来25年以上が経った今も読まれ続け、17刷のロングセラー。
 昨年、朝日文庫創刊45周年を記念して、恩田陸さんに朝日文庫の総タイトルの中からおすすめの一冊を選んでいただいたところ、本書を推薦されました。

ディーン・R・クーンツ
 1945年生まれの米国の作家。SF、サスペンス、ホラーなどのジャンルで数々のベストセラーを生み出している方です。

 はじめに覚悟を決めていただきたいです。
 気を抜いていると、クーンツさんのピリッと辛口な言葉にグサッと刺されます。

成功の秘訣? それは単純なことである。作家はおのおの自分のやり方を探り当てなければならないということなのだ

第1章p.18

 最初から、突き放されてしまいました。『ベストセラー小説の書き方』というタイトルですので、小説の書き方を教えてもらえると思っていたら、自分のやり方は自分で探りなさいとは……受け身ではいけないとアドバイスをいただいた気分です。

 もちろん、詳しいハウツーも書いてあります。ご紹介します。

ベストセラー小説の書き方

―「読んで、読んで、読みまくり、書いて、書いて、書きまくれ」―
  本書を読んで、小説家を目指す方の参考になるのではないかと思う部分や、私自身おもしろかったところ、勉強になった内容をご紹介します!

1)ジャンルの境界を越えた小説

 アイデアを可能なかぎり広範囲に求め、より多くの読者を得ようとすれば、君の小説はジャンルの境界を越えるにちがいない。つまり多数の人びとの心に触れるテーマや内容を、その作品は持つにちがいない。今日の編集者はそういう本を求めている。が、なかなか見つけだせないでいるのが現状だ

第4章p.166

 作品を多くの人に届けるためにも、ジャンルの境界を越えるということは、一つのポイントになりそうです。

2)作品にリアリティを

 読者は自分のいま読んでいるものが、実際に起こった、あるいは将来起こるにちがいない話だと思い込みたいものなのだ。作家がリアリティというベールで作品をおおう手間をうるさがったりしたら、読者はそんな気分にひたることができないではないか

第4章p.123

 クーンツはさらにこうも述べていました。

 ひとりぼっちのおびえた人びとすべてに手をさしのべて、心の底ではわたしたちは一人ひとり皆同じであることを知らせることも、作家の役目なのだ

第1章p.21

 どんな人も、皆ひとりぼっちでおびえているのにかわりはないが、読むことで皆が一体になれる。作品にリアリティを持たせることは、読者を作品に没頭させ、共感させ、皆が同じ苦しみや喜びを共有することに繋がる。時にそれが、「あなたはひとりでない」と読者をはげますことになるとクーンツは丁寧に述べます。

3)背景の細部をごまかすべからず

 ごく限られた人にしかわからない専門的なことであっても(―中略―)、まちがった描写をすれば、読者のなかには必ずそれを見ぬく人がいるものである。たくさんのいつわりの『事実』をでっちあげておいて、そのまちがいを全部見やぶれるほどの読者がいるはずはないと確信している作家がいるとすれば、たいへん甘い。読者は少なくともいくつかのまちがいに気づくはずだし、その人数は君が考えるよりずっと多い

第9章p.228

 ほんのちょっとでもバックグラウンドをごまかしていることに読者が気づくたびに、作者に対する信頼は、ひとつまたひとつと崩れ落ちていく。そして、ついには読者を失うことにもなりかねない

第9章p.228

 クーンツは、ある作家の作品で、些細なごまかしでつまずき、作品が創造しようとする世界からふと現実に引きもどされてしまう経験をしたといいます。また、彼自身は、日本を舞台にした作品で、数多くの資料を参考にするだけでなく、たった数行の日本語の会話を書くために和英辞典と語学入門書、文法書を購入し、日本語を勉強しています。読者が作品にひたりきることができるように、背景描写はごまかしてはいけないというクーンツからの忠告の声は大きいです。

 本書は、小説家への指南書ではありますが、これから編集者として仕事をする私も、肝に銘じなければならないと思う部分が多くありました。この「背景の細部をごまかすべからず」はその一つです。

4)終わりに近づいたら、小説のスピードをあげたまえ。

 終わりに近づいたら、小説のスピードをあげたまえ。最後の章は、情景や人物の長ったらしい描写に重点を置くべきではない。最後の困難にたどりつき、その結末を明かす用意もととのったとなれば、アクション以外に君が書くべきことはないはずだ。最後の15ページを息もつかずに読んでこそ、読者は本を置いたときに、満足感を得るのである

第4章p.165

 結末を知らせ、主人公の問題が首尾よく片づいたことを知らせたのちに、小説をだらだらと何ページも引きのばしてはいけない

第4章p.165

 ダラダラ続くのではなく、盛り上がって、パッと終わる。「まだまだ読んでいたい」と余韻が残る。それが、読了後の満足感に繋がるのかもしれません。

 本書では、成功例だけに限らず失敗例の提示も度々ありますが、この結末についての失敗例が、スティーヴン・キングの『スタンド』だとクーンツは述べます。

 クライマックス後の5万から6万語のことばが、最後の対決を予感させる魅惑的なことばによる劇的効果を薄めていると言い、「キングは腕が立つからこそ、クライマックスとは無縁のことばの羅列によって小説を締めくくることもできたのである。なみの作家にはできない芸当だ。まして新人作家は、こんなやり方を夢にも考えてはいけない」とクーンツは断言します。

 失敗例なのに、褒めている……気はしますが、そんな部分にクーンツからキングへのリスペクトも垣間見えました。

5)スランプ克服法:デスクを掃除せよ

 わたしは寡聞にして、真に成功した作家の口から、『乱雑デスク成功論』をこれまで耳にしたことがない

第12章p.311

 デスクを掃除しましょうということです。仕事場を奇麗にしておくことは執筆の一助になるようですね。

 自分でこの文章を紹介しておいて、耳が痛いです。私の自宅のデスクは人には見せられません。

 これを読んだ先輩方も耳が痛いと思っていると思います。先輩方の机には基本的に本のタワーができていますから……。

 ということはさておき、本書にはスランプ克服法がほかにも記してあり、役立ちそうです。

5)よい編集者をさがせ

 作家を出版ビジネスの血液とすれば、編集者はいわば動脈だ。すぐれた編集者は困難に直面した作家を助け、弱い原稿に活力を与えて、ベストセラーづくりの手助けをする

第13章p.327

「すぐれた編集者」は、作家が成長を続けることを理解し、前向きな姿勢で、直面した困難を作家と共に乗り越えていく。クーンツの意見はつまりこういうことだと思います。

 私自身はこれから「すぐれた編集者」を目指していかなければと心に誓いました!

 今回の創作大賞2023が、あなたにとって「すぐれた編集者」と出会うきっかけになるかもしれません。

7)読んで、読んで、読みまくり、書いて、書いて、書きまくれ

 読んで、読んで、読みまくり、書いて、書いて、書きまくる。このふたつがおそらく小説を書く方法について、他人が与えられる最高のアドバイスであろう

第4章p.178

 クーンツが伝えたいことは、結局はこれでしょう。この本で、何度も繰り返されていました。

 本書で「ベストセラー小説の書き方」を理解したところで、それを実現するための一番の方法はとにかく読むこと、そして書くことだとクーンツは述べます。

 成功の秘訣? それは単純なことである。作家はおのおの自分のやり方を探り当てなければならないということなのだ

第1章p.18

 冒頭で、引用した文章です。改めてもう一度読むと、自分のやり方を探り当てるためにも「読んで、読んで、読みまくり、書いて、書いて、書きまくる」ことは、きっと重要なことであり、この主張は本書で一貫していたと気がつきます。

 ということでぜひみなさんも、読んで、読んで、読みまくり、書いて、書いて、書きまくり、応募して、応募して、応募しまくってみてはいかがでしょうか。弊社も選考に参加する創作大賞2023へのたくさんのご応募をお待ちしています!

最後に

 本書では『シャイニング』や『IT』で有名なスティーヴン・キングの話が多く出てきます。「ライバルじゃないのかい?」と突っ込みたくなるほどです。キングはライバルだけれどもリスペクトしている、そんなクーンツの思いを感じました。

 ピリ辛のユーモアがあり、小説の書き方ハウツー本としてだけでなく、読み物としても面白い。それでいて小説家を目指す方の背中をそっと押してくれる、そんな一冊です。

 ぜひお手に取ってみてください!

 最後まで読んでいただきありがとうございます。
 少しでも、作家を目指す方の助けになれば幸いです。

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