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小論文試験で大切な「具体的に書く」とはどういうことか?

「小論文を書く上で大切な『具体的に書く』ができない人が多いです」と話すのは、ウェブ小論文塾代表で1500人以上を指導してきた元NHKアナウンサーの超人気講師、今道琢也さん。今道さんが生徒役のもとゆき君に文章の書き方を教えるというコンセプトの著書『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』から一部を抜粋・再構成して、「具体的に書く」とはどういうことなのか解説します。

今道琢也『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』
今道琢也『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』

■相手の頭に状況がはっきり浮かぶように

今道:小論文は、読む人がすぐに理解できて、納得できるように書くことが大事です。それを最大の目的にして文章を考えます。そのために大切なことは「具体的である」です。このことが出来ている人は少ないです。それに、一度指摘しても簡単には直らないです。

もとゆき:結構ハードルが高いんだ。

今道:その上、具体的に書けているかどうかは、答案の印象をかなり左右するんです。まず、例をあげてみましょう。教員採用試験で出そうな問題です。

【問題】
インターネットが普及する中、子どもたちが様々なトラブルに巻き込まれるリスクも高まっています。この問題に中学校の教員としてどう対処していくか述べなさい。
【解答例】
 中学生の多くがスマートフォンを持つ時代となり、インターネットを学習や生活に活用することは当たり前のことになっている。一方で、犯罪に巻き込まれたりSNSでのいじめに繋がったりと、様々なトラブルも報告されている。教員として、生徒がインターネットを適切に使えるように取り組むことは重要である。そこで私は次のようなことを実践したい。
 まず、生徒にインターネットについて深く考えさせたい。インターネットの利用は便利な面だけではないことを教え、自分の身は自分で守らなければいけないことを指導していく。その上で、インターネットとのより良い付き合い方について考えさせる。また、保護者に対しても、家庭でも子どもたちのインターネット利用について気を配ってもらい、親子で適切なインターネット利用について考えてもらうようにお願いする。学校と家庭との連携によって、子どもたちが安全にインターネットを利用できるようにしたい。
 次に取り組むこととして……

もとゆき:僕が書くとしても、こういう答案になると思います。これじゃ駄目ですか?

今道:この答案の問題点は第二段落ですね。第二段落の取り組みが、全体に漠然としています。間違ったことは書いていないけれど、これでは弱いです。

もとゆき:そうなんですか?

今道:例えば、「インターネットの利用は便利な面だけでないことを教え」「自分の身は自分で守らなければいけないことを指導していく」って書いてますけど、そのために何をどうすればいいんです?「家庭でも子どもたちのインターネット利用について気を配ってもらい」にしても、「そのために何をどうすれば良いのか」が何もないです。私は全然イメージできないです。

もとゆき:うーん、厳しいけど、そうかも……。

今道:例えばですが、次のように書き替えたらどうなります?

【修正例】
 中学生の多くがスマートフォンを持つ時代となり、インターネットを学習や生活に活用することは当たり前のこととなっている。一方で、犯罪に巻き込まれたりSNSでのいじめに繋がったりと、様々なトラブルも報告されている。教員として、生徒がインターネットを適切に使えるように取り組むことは重要である。そこで私は次のようなことを実践したい。
 まず、インターネットの利用に潜む危険性とその対応策を生徒と保護者に伝えたい。ホームルームの時間を使って、インターネットの掲示板にアクセスして性犯罪に巻き込まれた事例や、不用意に自分の画像を送って拡散してしまった事例があることを伝えていく。インターネット利用のリスクを教え、安易に個人情報を送らないこと、インターネットで知り合った人と直接会うことはくれぐれも控えることを指導する。また、保護者に対しても学級通信やPTAの場などで、このようなインターネット利用の危険性を伝え、子どものスマートフォンにフィルタリングの機能をつけることや、親の目の届く範囲でインターネットの利用をさせるようにお願いをする。
 次に取り組むこととして……

もとゆき:あー……、すごくわかりやすいです。状況がはっきり目に浮かびます。

今道:そうでしょう? 初めの答案にあった、
「インターネットの利用は便利な面だけはでないことを教え、自分の身は自分で守らなければいけないことを指導していく。その上で、インターネットとのより良い付き合い方について考えさせる」
「家庭でも子どもたちのインターネット利用について気を配ってもらい」

こういう、漠然とした話が、はっきり伝わるようになったはずです。

もとゆき:確かに、そうです。

今道:最初の答案では、まだ具体化が不十分なんですよ。第三者が読むと、何をするのかイメージできない状態です。これでは「納得」「理解」が得られないんです。「具体化する」というのは、相手の頭に状況がはっきり浮かぶようにすることなんです。

もとゆき:なるほど、そこまで考えていなかったです。

今道:特に教員試験、公務員試験、昇進試験では、「どういうことに取り組むべきか」という出題が多いです。例えば「自治体として地域の活性化にどう取り組むか」「管理職として職場の課題の解決にどう取り組んでいくか」とか、そういった出題です。それに対して、「取り組みの具体化」が不十分な答案がとても多いです。

もとゆき:「そのためにどうするか」まで書き込まなきゃいけないんですね。

今道:そうです。そこを具体化できないということは、イコール「自分も分かっていない」ということなんですよ。

もとゆき:というと?

今道:例えば「自分の身は自分で守らなければいけないことを指導していく」という点について、「そのために何をどうするか」が具体的に書けないとしたら、「どう指導したら良いのか自分も分かっていない」ということです。

 でも、これから教員として実践することになるわけですから、それが分かっていないと駄目ですよね。

もとゆき:それはそうです。

今道:教員採用試験以外でも、そういう答案がとても多いんです。例えば、昇進試験でよくある答案として「私は係長として職場での情報共有を積極的に図っていきたい」「職場のコミュニケーションの活性化が私の責務だ」とか威勢の良いことが書いてあるだけで、「そのためにどうすれば良いのか」は何も書いてないことがあります。でも、これから職場のリーダーとなるべき人がそれでは駄目ですよね。さらに一歩掘り下げないといけないんですよ。