いよいよ本格するトークンエコノミー 主役となるNFTがもたらす「革命」とは?
■NFTが一過性のブームで終わらない理由
ブロックチェーン技術を使ったNFTは、最も成長が期待されている「デジタルビジネス」のど真ん中にあると言っていいでしょう。いまこの瞬間も世界中のベンチャー、ユニコーン企業に巨額の投資が集まっていて、大企業も日本ではラインやメルカリ、ヤフー、海外ではGAFAなどが本格的な事業化に向けて活発に動き出しています。
一方で、ビットコインなどの暗号資産(こちらは代替性トークン)の売買が当初そうであったように、NFTのアートやトレーディングカードなどを扱うマーケットプレイス(取引所)では、「よくわからないけれども値上がりしているから買っている」という、熱に浮かされたような状態が続いています。
グローバルで見ると、100万ドルを超えるNFTの取引が1カ月で30件ほどあるとも言われています。たとえば2021年9月にも、サザビーズのオンラインオークションで「Bored Ape Yacht Club(BAYC、退屈した猿のヨットクラブ)」というNFTキャラクターの101点のコレクションが2440万ドル(約26億8000万円)で落札され、世界的なニュースになりました。
こうしたNFTをめぐる状況について、世界有数のテクノロジー・リサーチ会社Gartnerのレポート「Hype Cycle for Emerging Technologies, 2021」(21年8月公開)は、何らかの技術が普及していく過程を5つのフェーズ((1)黎明期(2)過度な期待のピーク期(3)幻滅期(4)啓蒙活動期(5)生産性の安定期)で表すハイプサイクルにおいて、NFTはAIなどと並んで第2フェーズ「過度な期待のピーク期」の頂点に達しており、今後2~5年、ビジネスや社会に強い影響を及すと分析しています。
ただ、じつは20年版の同レポートにはNFTは載っていません。わずかここ1年の間にデジタルビジネスのど真ん中に躍り出たのです。そんな急成長の反動なのか、高額なコレクション取引ばかりが注目されるせいなのか、NFTを一過性のブームと冷ややかに見ているビジネスパーソンも少なくないようです。
NFTは今後どうなっていくのか。あえて結論から言わせてください。暗号資産はなくなってもNFTはなくなりません。なぜなら、NFTは「世界」を変える可能性の塊だから、です。
海外のユニコーン企業も含め、現時点で考えられるNFTビジネスのオールスターキャスト28人が集い、基礎知識から各種のユースケース、法令上の課題、未来像まで書き下ろした『NFTの教科書』を一読していただければ、そのリアルを明確にイメージできるようになると思います。
■NFTとメタバースが生み出す「革命」とは
もはやインターネットなしではどんなビジネスも成り立たなくなっているように、NFTはIT業界にとどまらず、あらゆる業界に影響を及ぼすテクノロジーと言えます。
NFTは暗号資産と同様、極めてオープンで民主的なブロックチェーンネットワークによって発行され管理されます。大きな違いは、その名の通り「世界にひとつだけのデジタル資産」であること。暗号資産には取引承認の履歴しか記載されませんが、NFTには発行者や所有者、権利関係なども改ざん及びコピーできないかたちで記載されます。この独特のプログラムがデジタルデータを唯一無二のモノに変えるのです。
つまりNFTは、あらゆるデジタルデータに現実のモノと同様の「価値」を持たせることができるツールというわけです。その登場によって、これまでネット上では不可能だった「1点モノ」あるいは文字通りの「限定商品」を流通させることができるようになりました。実際、アートやトレーディングカードのほか、ゲームや音楽、ファッションなど既存のコンテンツビジネスで広く活用され始めています。
たとえば、世界中でNFTゲームが人気を集めていて、フィリピンではゲームをして生活費を稼ぐプレイヤー、プレイヤーに高額なアイテムをレンタルして稼ぐ投資家、その取引所といったビジネスモデルまで出てきています。
NFTの真価は、メタバース(仮想空間)を劇的に発展させるツールである、という点にこそあります。ゲーム空間も含め、いまメタバースは「コミュニケーション空間」としての広がりを見せ始めています。
代表的なのはFacebookでしょう。会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグ氏はメタバースを「次世代のSNS」と最重要視しています。21年9月にCTO(最高技術責任者)がAR/VR(仮想現実/拡張現実)担当副社長のアンドリュー・ボズワース氏が就任したり、10月に既存のメタバースプラットフォーム「Facebook Horizon」の名称を「Horizon Worlds」に改称したりしたことからも、その本気度がうかがえます。
ここ数年内にメタバースのコミュニケーション空間が確実に普及するでしょうが、そこで使われるアバターや土地、建物、道具、ファッションなどを「資産」として所有・管理・運用できる核心的ツールこそNFTなのです。つまりNFT化することによって、現実世界と同じように価値交換、たとえばアバターの服を売買するといった「トークンエコノミー」が可能になるわけです。
これは、メタバースが現実世界と同じような生活の場、経済活動の場になり得ることを意味します。コロナ禍で、オフィスを閉鎖してリモートワークにシフトしたり店舗を閉鎖してeコマースに特化したりという動きが出てきました。でも結局は、現実世界の中でしかそうした経済活動は完結しません。メタバースでは、NFTを使うことでメタバースの中だけで、製造・流通・決済とすべて完結することができます。
つまりNFTによって、メタバースはいわば「もう一つの現実世界」になっていくのです。これが実現したら、やはり「革命」と呼ぶべき大転換になるでしょう。それがいま、まさに起こりつつあります。初めに「世界を変える可能性の塊」と断言したのは、こうした意味でした。どうですか、ワクワクしませんか?
■暗号資産はなくなってもNFTはなくならない
中国人民銀行(中央銀行)が21年9月、外国企業によるサービス提供も含め、暗号資産の関連事業の全面的禁止を発表しました。とりわけ中央集権性が強い国家ですから、中央集権的な「信用」を必要としない分散型テクノロジーの暗号資産とは、一見相性が悪いように見えるかもしれません。ただ今回の禁止は、暗号資産を上手く使ったキャピタルフライト(資本逃避)やマネーロンダリング(資金洗浄)、賭博を防ぐための措置と言われています。
一方で、中国はブロックチェーンを大いに活用していて、国策としてIDの管理や税金の徴収などを進めています。中央集権の国がオープンで民主的な技術を使うというのは皮肉な話ですが、ブロックチェーンの特長であるトレーサビリティ(追跡可能性)と改ざん不可能性という二つの機能を積極的に利用しているわけです。
どんなテクノロジーでも、どの特長を活用するかは目的しだいで変わります。NFTでも権利関係では改ざんできないという機能が重視されるし、暗号資産の海外送金では価値そのものを低コストで簡単に移転できるという機能が重視されます。
また中国は22年、法定通貨として「デジタル人民元」を発行すると言われています。今回の暗号資産禁止は、それに備えた措置との指摘もあります。日本や他の先進国でもデジタル法定通貨を検討している状況です。
各国の中央銀行がデジタルの法定通貨を発行するにあたって、これだけ普及している民間の暗号資産を中国のようにいきなり禁止するとは思えません。ただ、両者が将来的に共存できるかどうかはまだまだ不透明です。たとえば海外送金のコスト面での優劣がなくなったら、自然と暗号資産の流通量が減っていき、特に通貨としての役割はなくなってしまう可能性はゼロではありません。
さて、そのときにNFTもなくなるのか。当然ながら答えはノーです。NFTはあくまでも無体物のモノですから、その価値に見合う交換ツールは暗号資産だろうが、デジタル法定通貨だろうが、現時点では金融商品と関係ありません。冒頭で述べたように、暗号資産はなくなってもNFTはなくならないのです。
現状では、同じような「投資対象」と思われている暗号資産とNFTですが、その可能性の違いは歴然です。これから本格化するトークンエコノミーの主役は、やはりNFTと言えるでしょう。
※初出:ニュースサイト「AERA dot.」2021年10月掲載