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なぜ50代は「うつ病リスク」が高まるのか?精神科医・和田秀樹さんが提唱する「うつよけ」三大レッスンとは/『50代うつよけレッスン』を立ち読み

「人はいつからでも、何歳からでも。変われるんです」。そう語るのは2024年6月13日に50代うつよけレッスン』(朝日新書)を発売した、精神科医の和田秀樹さん。和田さんは50代を「老いの思春期」とし、この時期をどう過ごすかによって残りの人生が決まると言います。 特にこの時期の「うつ未満」の予防、「うつよけ」の準備が重要だとし、心の痛みがスウッと消える三大レッスンを本書で紹介しています。そこで特別に、本書の「はじめに」と「目次」を公開! 人生後半の日々を鬱々と過ごしたくない方へ、今からできることがあります。この本が、あなたの人生後半をより良くするための処方箋になりますように。

■はじめに

50代は変革期

「50代になったら、めっきり体力が衰えてきたよ」
「このところ、いろんなことが億劫になってしまって……」
 40代後半から50代にかけては、こんな嘆きの声があちこちから聞こえてきます。先日もこの年代の男性から「最近よく眠れない」「憂うつ感が続く」と相談を受けました。
 実は40代から50代にかけて、人の体は大きく変化していきます。
 40代からは前頭葉が萎縮し始める、セロトニンなどの脳内伝達物質が減少するなど、脳の老化現象も始まります。
 また、男性はテストステロン(男性ホルモン)が、女性はエストロゲン(女性ホルモン)が減少していき、どちらも中性化していきます。それにともなって疲労感や倦怠感、抑うつ症状、のぼせ、冷え、多汗、動悸などのいわゆる「更年期障害」が生じる人もいます。
 更年期障害は女性特有のものと思われがちですが、そんなことはありません。
 女性ホルモンが50歳前後から急激に減少するのに比べて、男性ホルモンは20代から生涯にわたってゆるやかに減少していくため、体力や気力の衰えを感じていても、更年期障害という自覚を持つ中高年男性は少ないかもしれません。ただ疲れているだけ、あるいはストレスや年齢のせいだと思い込み、忙しさにかまけてそのままにしている人も多いようです。
 でも、「寝ても疲れが取れない」「朝起きられない」「食欲がない」「仕事へのモチベーションがなくなり、出社するのが辛い」などという症状を頻繁に感じるようになったら、やはり注意が必要です。
 更年期障害や「うつ病」の可能性もありますから、そのまま放っておくと、うつ症状が悪化してしまうこともあります。
 体の変化だけでなく、環境も大きく変化していくのが50代です。
 会社勤めをしている人なら管理職に就いていたり部下を抱えていたりする人も多く、責任の重さからストレスが溜まりやすい年代です。
 そして、それが50代半ばから後半になってくると、60代の定年を前に多くの会社員が役職定年を迎えたり、収入が下がってきたりして、自分の出世の限界が見えてきます。これまで会社のために身を捧げて忙しく働いてきた人がこのような変化を迎えることで、仕事のモチベーションや生きる目的を見失い、気力や自信が失われてしまうこともあります。
 さらに親世代の介護や死別などがきっかけで、うつ症状を感じ始める人もいます。
 このように、体にも環境にも大きな変化を感じやすい50代というのは、人生100年時代のターニングポイント。自分の老いが見えてきて、成人から老人へ向かう時期です。
 人生後半への入り口であり、まさに「老いの思春期」とも言えますが、この時期をどう過ごすかによって、後半生を苦しい日々にするのか、それとも新しい自分を探して楽しく生きるのかが決まってくるのです。

「今を変える」意識改革

 私は高齢者専門の精神科医として、これまで30年以上、うつ病の人や認知症の人を診てきました。
 また、抗加齢医学の国際的権威であるクロード・ショーシャ博士に師事して10 年以上アンチエイジングを学び、80代、90代、あるいは100歳を超えても年齢を感じさせずにアクティブに生きている人たちを見てきました。
 そんな私が実感しているのは、年をとればとるほど「心身相関」が強く現れるということです。心の調子が悪くなれば体の調子も悪くなり、体の調子が悪くなれば心の調子も悪くなる、というように、精神的なストレスが免疫機能を低下させ、さまざまな身体疾患を招くことは知られていますが、高齢者になるほどその傾向が顕著になるのです。
 だからこそ、高齢世代の入り口である50代から心の調子を良くしておくこと、つまり「うつ未満」の予防、「うつよけ」の準備をしておくことが重要です。
 もちろん、うつ病になった場合は、きちんと心療内科や精神科で治療を受けることが大切です。序章でも詳しく述べますが、うつ病には生物学的要因も影響しますから、専門医に診てもらう必要があります。
 しかし、普段の過ごし方も重要です。私が長い間、うつ症状で苦しんでいる人と、いくつになっても活力や若々しさを保っている人を見てきて実感しているのは、世の中には「うつ病になりにくい考え方うつ病になりにくい生活習慣」「うつ病になりにくい行動があるということです。
 たとえば、仕事でちょっとでも失敗をしたときに「自分はダメな人間なんだ」と思い込みやすい人は、その思い込みによって、すぐに自信を失ってしまいます。そのため、その後も本来の実力を発揮することができず、また失敗する可能性が高くなります。それを繰り返しているうちに「やっぱり自分はダメな人間だ」とますます自分を追い込んでいくことになります。
 うつ病になる人というのは、そのように日頃からうつになりやすい思考パターンや物ごとの捉え方をしているわけです。
 持って生まれた性格というのは、もちろんすぐには変えられません。しかし、考え方や物ごとの捉え方は変えられます。
 また、過去も変えられませんが、変えられるのは今の自分の考え方であり、毎日の過ごし方であり、これからの行動なのです。
 これらは、人生を変えるための意識改革と言ってもいいかもしれません。

人は何歳からでも変われる

 今や人生100年の時代です。
 体内で老化が始まっているとはいえ、50代はまだまだ先が長いのです。この時期から老け込んでいるわけにはいきません。
 前頭葉は放っておくと、どんどん老化していきます。前頭葉の老化が進む前に60代からのプランを立てておかないと、いざ60代になってから「この先の人生どうしようか」などと考えても、若い頃のように、すぐに良いアイデアは出てきません。
 また、定年後は会社や仕事の付き合いがなくなり、人間関係が狭くなりがちです。日々の刺激もなく、孤独や不安を感じやすくなり、こうした環境が老化をますます進めてしまいます。
 ですから、40代、50代から先のことを考えて準備しておき、普段から前頭葉を老化させないことが重要です。
 年をとってから認知症になることを恐れている人は多いと思いますが、精神科医から言わせていただくと、それ以上に気をつけなければいけないのが、うつ病なのです。
 長い間、真面目に努力を積み上げてきた人が、やっとゆっくりできると思った晩年にうつ病になり、毎日鬱々と苦しみながら人生を終える。これでは生き地獄です。
 晩年の日々を楽しく過ごせるかどうかは、今から思考法や生活様式を変えて、うつ病をいかに防ぐかにかかっていると言っても過言ではありません。
 でも、こういう話をすると、決まって「そんなの自分には無理です」と言う人がいます。自分自身を変えることなんてできないと思い込んでいるのです。

 いえ、人は誰でも、何歳からでも変われます。
 
 私は医師の仕事をしながら、夢だった映画制作を47歳から始めました。当然、お金もかかりますし、気苦労もたくさんあります。今も63歳という年齢で人に頭を下げなければいけない局面も多々あります。それでいて、まだまだ自分の思い通りになっているとは言えません。
 それでもストレスはまったく感じていませんし、何よりも大きなやりがいと手応えを得て、毎日ワクワクしながら過ごしています。
 
 残りの人生を苦しみながら、毎日を耐え忍んで過ごすのか。
 それとも、今からやりたかったことに挑戦して、これから先の人生を自分らしく、楽しく過ごすのか。
 それを決めるのは、あなた自身です。
 もしも「最近、うつっぽいかも」「しんどいな」と感じているなら、逆にそれは変革期のサインでありチャンスであるとも言えます。これまでの思考法や生活様式では無理がきかなくなってきた、そろそろ違うやり方を考えたほうがいいよ、という体からのシグナルなのです。
 人生後半の日々を鬱々と過ごすものにしないよう、今からできることがあります。
 本書が、その処方箋になれば幸いです。

和田秀樹著『50代うつよけレッスン』(朝日新書)

■50代うつよけレッスン  目次

はじめに

50代は変革期
「今を変える」意識改革
人は何歳からでも変われる

序章 50代は「老いの思春期」

中高年になると、体や気持ちはどう変化する?
うつ病がもっとも多い世代は40代、50代
うつかもしれないと思ったら、まずは病院へ
自己診断が危険な理由
投薬治療だけでは良くならないことも
うつ病には、ハード面とソフト面のアプローチが必要
うつにならないためのレッスン
男性にも更年期障害がある

第1章 思い込みから脱け出す「思考レッスン」

「心が弱いからうつになる」は大きな誤解
うつになりやすい「ものの見方」
うつ症状を悪化させる負のループ
「臭いと思ってしまう私は人間失格」?
うつになりやすい「12の不適応思考」
白黒つける「敵認定」は孤立しやすい
あいまいさに耐えられる能力が必要
「かくあるべし思考」からの解放
決めつけと思い込みからの脱却
「この道しかない」か、「やってみなけりゃわからない」か
「かくあるべし思考」は結果を出さない
テレビは脳の老化を速める「老化促進マシーン」
「当たり前」を疑ってみる
情報は戦う術になる
生活保護バッシングは自爆行為

第2章 食と習慣でときめく「生活レッスン」

性ホルモンの減少がもたらす影響
男性ホルモンが多いほど社交的?
ホルモン補充療法の効能
50代からは積極的に肉食生活を
ホルモンを活性化させる食べ物は?
「コレステロールは悪者」への反論
引き算ではなく足し算の医療を
もっとも短命なのは、やせている人
食事制限で老化が進む?
サプリを足して体を整える
「感情散歩」を日常に取り入れる
朝の日光がホルモンバランスを整える
「ときめき」を感じなくなったら老化の始まり
「性的生活」を楽しもう

第3章 やってみなけりゃわからない「行動レッスン」

マインドリセットができるかどうか
「まずは、試してみよう」
「症状不問」の森田療法
「甘えていい」とコフートは言う
50歳を過ぎたら、友だちは数より質
共感を覚える仲間がいるかどうか
50代以降は人間関係も変わる
アドラーの「共同体感覚」
会社に使われずに、会社を使え
妻や夫が「かくあるべし思考」にとらわれていたら
答えがいくつもあることを知るために
アウトプットが重要な50代
新しい挑戦が脳を若くする

終章 自分ならではの幸せをつかむ意識革命

エイジング・パラドックスは世界共通
目の前の幸せを享受せよ
先のことを必要以上に心配するな
相手に勝手な期待を抱かない
ラクに、楽しく、幸せに
人の根源的な欲求は「あるがままに生きる」

おわりに