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キレたくないのにキレてしまう…それなら「ゲシュタルト療法」を試してみませんか?

 何かの拍子に突然、人前でキレてしまって、あとから自己嫌悪……、そんな経験、ありませんか? それはあなたがこれまでに傷ついたこと、悲しかったこと、腹が立ったことをたくさん我慢してきたからかもしれません。
『キレたくないのにキレてしまうあなたへ』(岡田法悦/著、田房永子/マンガ・イラスト)では、ゲシュタルト療法という心理療法を使って、人が突然キレてしまうメカニズムを解説し、キレない自分になるために一人でもできるセラピーの方法を紹介しています。

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 本書でマンガ・イラストを担当した田房永子さんも、過去に突然キレてしまうことに悩んでいた一人です。田房さんがキレる自分をやめられるようになったいきさつと、やめられるきっかけとなったゲシュタルト療法とはどんな心理療法なのかを、同書より紹介します。

■自分を縛る呪いを解くゲシュタルト療法

 ゲシュタルト療法はカウンセリングの一種ですが、「カウンセリング」という言葉はあまり使いません。代わりに「ワーク」という言葉を使います。また、カウンセラーのこともファシリテーターとかセラピストと呼びます(この本ではファシリテーターと言います)。相談に来る人は、クライエントといいます。

 一般的にカウンセリングというと、カウンセラーがクライエントの話に耳を傾けて聴き、気もちを受けとめることで悩みや不安が解消したり問題が解決したりするものという印象かもしれません。一方、ゲシュタルト療法は言葉で聞こえてくる話を聴くだけでなく、からだ全体のおしゃべりを聴くのが特徴です。

 人は言葉だけでなく、顔の表情、声の色や抑揚、からだの動きの全部から、一瞬一瞬、感情や感覚を表現しています。話をしている人は、意識してそうしているわけではありません。クライエントが話している様子を見ながら、ファシリテーターは「今、ギュッとこぶしを握った」とか、「『悲しい』と言いながらニコッとしている」のようにからだの表現を見ています。つまり、からだの声を聴いているのです。

 そうすることで、クライエント自身も意識していない心の動きに気づくことができるからです。なので、ゲシュタルト療法は“気づきの心理療法”といわれていて、いわゆるカウンセリングと比べるとスピーディーに進展します。

 なお、「ゲシュタルト」とはドイツ語で「形の全体像」を意味します。この本におけるゲシュタルトとは、心の中に固着したひとかたまりの呪いを表しているということになります。

“心の中に固着したひとかたまりの呪い”の中で代表的なのが「リトルお母さん」「リトルお父さん」の声です。

 子どもは成長の過程で周囲の大人たちから伝わってくることを自分の中に取り込みます。お母さんから伝わってきたいろいろなメッセージはひとかたまりになって、まるで小さなお母さんが自分の心の中に住みついたような感じになります。そして、その小さなお母さん像が自分に向かってお母さんと同じようなことを言い始めます。この本では、このように心の中に住みつかせた像を「リトルお母さん」「リトルお父さん」と呼んでいます。

 親からもらったメッセージは、子どものころには役にたっていたけれど大人になってから自分を不自由にしたりきゅうくつにしたりするひとかたまりがあります。それはまるで呪いのように自分をコントロールし続けます。呪いのようなつぶやきが聞こえてくると、自動的に自分の中からそれを嫌がる声が生まれます。そして、二つの声の板挟みになって不自由になったり窮屈になったりするのです。

 その呪いを解く一つの方法が「自己内対話」です。

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 たとえば、リトルお母さんが「使ったものはちゃんと片付けなさい」と言うと、その瞬間に、「めんどくさい……」というつぶやきが心のどこかから聞こえるとします。そうしたら、そのふたつの声どうしに対話をしてもらうのです。

 その時に役立つのは、「ちゃんと片付けなさい」と言っている本物のお母さんをイメージに浮かべることです。ファシリテーターがこの自己内対話の実験を提案する時は、たいがい「そう言っているお母さんをイメージしてみてくださいね。どんな表情が見えますか?」のような質問をするでしょう。すると、「鬼のような顔をしています」という答えが返ってくるかもしれません。

 ファシリテーター(F)とクライエント(C)のやりとりは、たとえば次のように続きます。

F「どんな声で『ちゃんと片付けなさい』と言っていますか?」
C「ドスのきいた低い声です」
F「今、イメージに浮かんでいるお母さん、何歳くらいのお母さんに見えていますか?」
C「あ、そういえば私が子どものころのお母さんです」
F「子どものころというと、あなたが何歳くらいでしょう」
C「たぶん、小学生……。低学年くらいかな」
F「それじゃ、そのころの自分になったつもりで、お母さんに気もちを伝えてみましょう」
C「うるさいなぁ。あとで片付けるから大丈夫だよ!」
F「それじゃ、今度はお母さんになってみてくださいね。お母さんはそれを聞くとなんて言いたくなりますか?」
C「あとで片付けたことなんかないじゃない。結局、私がいつも片付けてあげてるのよ!」

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 自己内対話は、リトルお母さん/リトルお父さんの呪いを解くのにとても有効ですし、「痩せたいのに、つい食べてしまう」といった葛藤がある時にもすごく役立ちます。この葛藤の場合、「そんなに食べたら、また太るよ」と言う声と、「だって、食べないとストレス解消できないよ」と言う声が同時にあれば、二人の自分がいるイメージを浮かべて対話してもらいます。

 いま、私の相談室ではすべてのカウンセリングをオンラインでやっていますが、以前は相談室に来ていただいていました。そのころは「エンプティチェア(空の椅子)」を使う方法で自己内対話の実験をしてもらっていました。

 これは、二つの椅子を置いて、その両方を行ったり来たりしながら自分どうしの対話をしたり、ここにいない人が目の前の椅子に座っていると想像して、イメージに浮かんでいるその人と話をしたりするものです(エンプティチェアについては、田房永子さんの『キレる私をやめたい』(竹書房)に、見事な表現力で描かれています)。