【8コマ地政学でわかる!】中国の南シナ海における二枚看板「キャベツ戦略」「サラミ戦略」とは?
1953年、中国が発行した地図には、南シナ海がすっぽり入る9本の線が書かれている。中国が主張する権益の範囲を示す、いわゆる「九段線」だ。中国が南シナ海へ進出するようになったのは、南シナ海に海底油田がある可能性が明らかになってから。1988年に中国とベトナムの海軍が衝突して以降、強引な進出が始まった。
冷戦中は、フィリピンに置かれていた米軍が抑止力となっていた。その後、フィリピンの親米政権が倒れ、1992年に米軍が撤退。そのスキに、中国はフィリピンが支配していた南沙諸島の環礁の一つ、ミスチーフ礁を占領してしまう。2016年、オランダの国際仲裁裁判所は「九段線に国際法上の根拠なし」との裁定を下し、フィリピンの主張を認めたが、中国はその裁定に従っていない。
中国の南シナ海における戦略は、「キャベツ戦略」「サラミ戦略」の二枚看板だとされている。前者は、「民間漁船の保護」という名目で何重にも軍艦で取り囲み、手出しできなくする戦略。後者は、薄切りしたサラミを少しずつ奪うように、相手が油断している間に少しずつ既成事実を積み重ねていく戦略のことだ。
東南アジア諸国は、南沙諸島支配の既成事実化を進める中国に危機感を強めるが、中国との経済的な結びつきが強いこともあって、足並みを揃えることができずにいる。
中国がこの海域にこだわるのは、海底資源のためだけではない。
南シナ海には、インド洋からマラッカ海峡を経て、南シナ海を通る重要なシーレーンがある。マラッカ海峡は、マレー半島とスマトラ島との間に位置し、全長約1000キロメートル、幅は最も狭いところで65キロメートル。水深は浅い部分が多い。太平洋より南シナ海を通ってインド洋に達する、古くから東西交通の要衝で、特に、中東で産出した石油を東アジアに運ぶ航路という重大な意味を持つ。実際、日本に輸入される原油の8割以上が、マラッカ海峡を通って輸送されている。
世界最大の人口を抱え、工業化を果たした中国にとって、南シナ海のシーレーンは生命線。南シナ海を自国の内海とすることで、利益を確保したいと考えているのだ。
もちろん、日本にとってもこの航路は重要。中国が南シナ海を実効支配するようになれば、エネルギー供給などの面で重大な影響が及ぶことは確実だ。
(構成:文筆家・三城俊一/生活・文化編集部)