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国際的に批判されながらも北朝鮮が体制を維持できるのは「バッファゾーン」だから【8コマ地政学】

 異常な頻度でミサイル発射を繰り返している北朝鮮。核開発や日本人拉致事件など、その横暴なふるまいは、世襲による独裁政治も含め、国際的に批判されている。にもかかわらず、北朝鮮が国家としての体裁を維持し続けるのはなぜか。『ざっくりわかる 8コマ地政学』(2022年11月、朝日新聞出版)から、マンガを交えて解説したい。
(タイトル写真:alexkuehni / iStock / Getty Images Plus)

一色清著/マンガ:よしたに『ざっくりわかる 8コマ地政学』(朝日新聞出版)
一色清著/マンガ:よしたに『ざっくりわかる 8コマ地政学』(朝日新聞出版)

 地政学的な視点でこの国を見ると、強力な勢力同士が直接国境を接するのを防ぐ役目、つまり「バッファゾーン」の役割を果たしていることがわかる。強力な勢力とは、アメリカ、中国、韓国、ロシア、そして日本だ。

 朝鮮半島をバッファゾーンとする発想は、明治時代の日本にもあった。第3代内閣総理大臣の山県有朋が第1回帝国議会で示した防衛戦略がそれだ。山県は、日本の国土を守る「主導線」を維持するために朝鮮半島に「利益線」を引くという考え方で、軍事費の総額を主張。日本の大陸進出を正当化した。

【マンガ】ずっとバッファゾーン
(c)よしたに

 時代は下って冷戦期、北朝鮮は、社会主義陣営と資本主義陣営の対立の最前線だった。

 1950年、北朝鮮は中国・ソ連の支援を受け、統一を目指して韓国に侵攻。アメリカを中心とする国連軍が韓国に味方して激戦が繰り広げられた。朝鮮戦争だ。1953年の休戦で、朝鮮半島は北緯38度線で北と南に分断され、北部はソ連、南部はアメリカが占領。やがて、それぞれが独立し、南北朝鮮の分断は固定された。

 北緯38度線は、人工的にひかれた国境線で、山などの自然の要塞があるわけではない。よって、侵入は容易だ。北朝鮮と中国の国境にある鴨緑江や豆満江も簡単にわたることができるので、北朝鮮は、北からも南からも侵入されやすいという地理的条件下にある。

 冷戦が終結すると、中国やソ連は韓国と国交を樹立。後ろ盾を失った結果、北朝鮮は核開発を「カード」として大国の援助を引き出す「瀬戸際外交」を本格化させ、1990年代以降現在まで、核実験やミサイル発射を繰り返している。

北朝鮮の弾道ミサイルの射程範囲(防衛白書などを基に作成)。これで世界諸国に揺さぶりをかけている

 北朝鮮問題には、日米韓中露という周辺国の思惑が複雑に絡む。日米はおおむね強硬姿勢だが、韓国は、北朝鮮に融和的な革新系政権か、強硬な保守系政権かによって、対応が異なる。中国・ロシアは、思い通りにならない北朝鮮を警戒しつつも、体制が変わることを望んでいない。北朝鮮がアメリカの同盟国である韓国に統一されれば、中露はバッファゾーンを失ってしまうからだ。

 北朝鮮の体制が崩壊すれば、東アジアは一気に不安定化し、日米韓も影響を受ける。崩壊せずに「まとも」になることが、周辺国の希望だ。

(構成:文筆家・三城俊一/生活・文化編集部)