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トヨタやスターバックスに見る、現代に必要な「DA・DA・DAの無限サイクル」とは

 大きく変化する時代を乗りきるためには、正解主義から修正主義へ移行すべき。そう断言するのは、教育改革実践家の藤原和博さんだ。著書『60歳からの教科書――お金・家族・死のルール』(2021年、朝日新書)で提唱する、今の社会に必要な「DA・DA・DAの無限サイクル」について、一部抜粋してご紹介する。

藤原和博『60歳からの教科書――お金・家族・死のルール』(朝日新書)

■DA・DA・DAのリズム

 皆さんに、60歳からの人生に向けた「エール」を送りたいと思います。 それは「DA・DA・DAのリズム」です。

 ビジネスをされてきた方は、「PDCAサイクル」という言葉をご存じのことと思います。「PDCA」とは管理業務を正確にスムーズに進めるための概念で、

 Plan=計画
 Do=実行
 Check=評価
 Act=改善

 のことを意味します。PDCAの順番にプロジェクトを進めていき、最後まで進んだら、再びPlanに戻る。このサイクルを繰り返すことによって、事業やプロジェクトの精度を高めていく方法です。

 このマネジメントサイクルは、仕事を正確に遂行する上では普遍的に通用するやり方だと思います。しかし一方で、社会のスピードが劇的に速くなった現代では、PDCAの4段階を毎回踏んでいては、あっという間に変化に遅れてしまいます。

 実行したらすぐに改善し、改善案を実行したらまた即、改善する。「Do・Act Do・Act Do・Act」、つまり「DA・DA・DA」のリズムに変える必要があるのです。

 私はこれを、「DA・DA・DAの無限サイクル」と呼んでいます。

 何か物事を実行したら、勢いに乗って「DA・DA・DA」と3度修正を試みる。その結果、うまくいかなければ、そのプロジェクトからすぐに手を引けばいいのです。DA・DA・DAのリズムは、物事の見極めをする上でも非常に有効です。

 逆に3回修正を繰り返して可能性を感じたら、100回でも1000回でも修正を繰り返します。世界的な自動車メーカーのトヨタ自動車株式会社では、トラブルが起きたときに「なぜ」を5回考えることが企業文化として定着しています。これも「Do」と「Act」、すなわち実行と改善を5回繰り返す修正主義の一つの方法でしょう。

■まずは、実行すること

 修正主義を徹底することで、グローバルに大きく成長した企業の代表例がスターバックスコーヒーです。

 現在のスターバックスは、美味しいコーヒーやサンドイッチなどが手軽な値段で楽しめる店として、世界中の国々に定着しています。近年は電源とWi-Fiがあることから、パソコンやスマホを使って仕事ができる空間として、読書をしたり取引先とのミーティングにも使われるようになってきました。

 スターバックスと言えば、先進的でおしゃれでフレンドリーな店員とのコミュニケーションを思い浮かべる人も多いでしょう。ところが、1980年代のアメリカのスターバックスは、今とはだいぶ違うコンセプトの店だったことをご存じでしょうか。

 82年にスターバックスに入社し、のちに会長となったハワード・シュルツ氏は、イタリアに旅行したときに現地のエスプレッソとコーヒー文化に感銘を受けたことで、スターバックスのコンセプトを着想します。

 当初シュルツ氏が目指したのは、「完璧なイタリアンカフェ」。イタリアのカフェのように立ち飲みスタイルでエスプレッソを飲みながら、シガーをくゆらせるような店で、音楽もイタリアのオペラがかかっていました。

 長い年月の中で、スターバックスを訪れるお客様の様子を注意深く観察しながら、現在のようなスタイルに修正していったのです。スターバックスの今の姿は、修正に修正、そしてまた修正と、飽くなき修正を積み重ねた結果なのです。

 修正主義で大切なのは、「まずは、実行すること」です。

 実行して結果を得なければ、何を修正すればよいかが分かりません。答えがない不透明な時代だからこそ、「DA・DA・DA」の無限サイクルで突き進んでいく生き方が大事になります。

 たとえ失敗しても、すぐに改善すれば、大きなダメージを受けることはありません。とにかく一歩、踏み出すこと。

 日本の多くの組織は、これまで「正解主義」に覆われてきました。

 ミスをすれば経歴に傷がつき、出世の道が阻まれることがめずらしくなかった。そういった組織では、「正解主義」に基づいて事業を一発で当てようとするため、事業計画に2~3年かけることが普通でした。しかしそれだけ時間をかけても、事業はうまくいかないことがほとんどです。誰も責任をとらないまま次の成功に賭ける。そんなやり方がまかり通っていたのです。しかし、それはもう時代遅れでしょう。

 Googleやアップルのような世界を牽引する巨大IT企業も、修正主義でプロダクトを開発することが常識になっています。

 まず、やってみる。そして、どんどん修正していく。

 皆さんもそのやり方で、人生を切り拓いていってください。

 2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行は、世の中の価値観を大きく変えました。「今年も去年と同じような状況が続くだろう」といった予測が、まったく通用しない事態が起こることが分かったのです。

 現状のコロナウイルスが落ち着いた後も、たった数カ月で、世界がガラリと変わるような出来事がこれからも起こるでしょう。それも国際情勢や気候変動の問題が取り沙汰される昨今では、10年に一度、100年に一度の大変化ではなく、毎年のように起こる可能性があるのです。

 だからこそ、そんな時代に生きる私たちは、修正主義の「DA・DA・DAサイクル」を回していくことが大切です。年単位ではなく、週単位、日単位で、次々にプランを実行し、改善を重ねていくことで、大きく変化する時代を生き抜いていくことができる。

 DA・DA・DA。ダ・ダ・ダ。

 ぜひ、このリズムを身体の中に刻み込み、実行してみてください。それが習慣になったとき、きっと大きな変化があなたの人生に起きるはずです。