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2024年に朝日新聞出版から発売された文芸書を一挙に紹介します!

 あけましておめでとうございます! 今年も朝日新聞出版・文芸書をどうぞよろしくお願いします。
 今年最初の記事は、昨年の2024年1月から12月までに朝日新聞出版から発売された文芸書を、一挙にご紹介! 文学賞受賞作から、ベストセラーまで盛りだくさん。ぜひお手に取ってみてください。

『いつかまた、ここで暮らせたら』大崎百紀著(2024年1月19日発売)

 90歳で認知症の父と、84歳で寝たきりの母を介護することになった著者。両親の愛着たっぷりの我が家で在宅介護することを目標に、介護福祉士の資格まで取得したものの……。福祉サービスをはじめ、お役立ち情報満載の介護奮闘記。

『黙って喋って』ヒコロヒー著(2024年1月31日発売)

 感情がほとばしって言い過ぎた言葉、平気をよそおって言えなかった言葉。「もう黙って」「もっと喋って」と思わずにはいられない、もどかしくて愛おしい掌編18本。記憶の片隅にあった感情がじわっとあふれ出す短編恋愛小説集。

『川のある街』江國香織著(2024年2月7日発売)

 両親の離婚によって母親の実家近くに暮らしはじめた望子。そのマンションの部屋からは郊外を流れる大きな川が見える。父親との面会、新しくできた友達。望子の目に映る景色と彼女の成長を活写した「川のある街」。河口近くの市街地を根城とするカラスたち、結婚相手の家族に会うため北陸の地方都市にやってきた麻美、出産を控える三人の妊婦…。閑散とした街に住まうひとびとの地縁と鳥たちの生態を同じ地平で描く「川のある街 2」。四十年以上も前に運河の張りめぐらされたヨーロッパの街に移住した芙美子。認知症が進行するなか鮮やかに思い出されるのは、今は亡き愛する希子との生活だ。水の都を舞台に、薄れ、霞み、消えゆく記憶のありようをとらえた「川のある街 3」。“場所”と“時間”と“生”を描いた三編を収録。

『私は元気がありません』長井短著(2024年2月7日発売)

 ピン留めできない今に抗いもがいた先に直面する生への恐怖、価値観を「アップデート」できない女子高生が「暴力的」な恋に落ちた数時間、学生時代の親友とのどうしようもなくしょうもない交流。全三篇。長井短にしか描けない言葉が躍る、恋と友情、怒りと怠惰の小説集。

『虎と兎』吉川永青著(2024年3月7日発売)

 幕末。会津白虎隊でただひとり生き残った少年・三村虎太郎は維新後、新政府のもとで生きることを拒み、新天地アメリカへの移民へ参加した。異国での過酷な暮らしが続く中、ある日、虎太郎は行き倒れているシャイアン族の少女を助ける。一族を虐殺されひとり生き残った少女はカスター将軍の“ある秘密”を握っているため追われているという。似た運命を背負ったふたりは、時に反発し、時に支えあいながら、暴虐非道の第7騎兵隊へと立ち向かうこととなるが―。歴史の敗者に光を当て続けてきた著者が、米史の闇・インディアン戦争に挑む!

『クリームイエローの海と春キャベツのある家』せやま南天著(2024年4月5日発売)

 創作大賞2023(note主催)朝日新聞出版賞受賞! 家事代行歴3ヶ月・津麦の新しい勤務先は5人の子どもを育てるシングルファーザーの織野家。一歩家の中に入ると、そこには息苦しいほどの“洗濯物の海”が広がっていた――。仕事や家事、そして育児……何かを頑張りすぎているあなたへ贈る物語。読めば、心がふわりと明るくなる。期待のデビュー作です!

『私だけの水槽』松井玲奈(2024年4月19日発売)

 自由に泳ぎ回れるその中で、誰にも関与されず一人の時間を心ゆくまで楽しむ。好きな時に、好きなことを。ストローでジュースを上手く吸い込めなくても、歌が苦手でも、自分に敬意を払って、日々を過ごす。苦手なことも好きなことも、ありのままを書き綴るエッセイ集!

『ひとつの祖国』貫井徳郎著(2024年5月7日発売)

 人々が幸せに生きている国など、この世のどこかにあるのだろうか。第二次大戦後、日本は大日本国(西日本)と日本人民共和国(東日本)に分断された。ベルリンの壁が崩壊する頃、日本もひとつの国に統一された。だが四半世紀を過ぎても格差は埋まらず、再度、東日本の独立を目指すテロ組織が暗躍しており……。最高のエンターテインメントにして、重厚な社会派巨編。

『刃紋』神山裕右著(2024年5月7日発売)

 名古屋で探偵業を営む草萊の元に舞い込んだ行方不明者の捜索依頼。関東大震災の混乱の中、数少ない手掛かりを頼りに調査を進めるが、関係者は次々と不審な死を遂げていき……。乱歩賞の著者による13年振りの新作ミステリー。

『あなたの代わりに読みました 政治から文学まで、意識高めの150冊』斎藤美奈子著(2024年5月20日発売)

 10年間、あなたの代わりに読んできました。話題書150冊の「肝の1文」を並べてみたら、いまの日本に至るまで、10年間の進歩、退歩、あし踏みが見えてくる。「週刊朝日」連載の「今週の名言奇言」を再編集・再構成した一冊。

『明日、晴れますように 続七夜物語』川上弘美著(2024年6月7日発売)

 著者の長編ファンタジー『七夜物語』から12年、次世代を生きる子どもたちの物語。いまほど世の中の仕組みが複雑ではなかった1970年代。『七夜物語』という不思議な本の世界を冒険した子どもたちがいた。鳴海さよと仄田鷹彦。七つの夜をめぐる冒険は、二人にとって大切な経験となるが、さよも仄田くんも「夜の世界」の出来事を決して思い出すことはなかった。あれからおよそ30年――。さよの息子「絵」と仄田くんの娘「りら」は、両親と同じ小学校でクラスメートになっていた。二人もまた『七夜物語』の世界へと導かれるのか? 2010年の現代を舞台に、10歳から11歳へと成長する二人の変化の兆しと、子どもたちを取りまく世界を鮮やかに捉えながら、ささやかな人の営みと、そのきらめきを届ける物語は、2011年の「あの日」へと向かっていく。

『四つの白昼夢』篠田節子著(2024年7月5日発売)

 退職男たちの宴会と置き去られた遺骨、経営破綻したレストラン店主がはまった「沼」、義母の遺影に写った手の主は? 理想の我が家の天井に何が? コロナ禍がはじまり、終息に向かった。これは目眩? 日常の隣にある別世界。分別盛りの人々の抱えた困惑と不安をユーモアと活力あふれる文章で描く四つの風景。

『その朝は、あっさりと』谷川直子著(2024年8月7日発売)

 九十六歳の父を看取るまでの二十日間、家族と介護士、看護師はどうかかわるか。誰もが迎える最期には何が必要? 一茶の句が持つ庶民のリズムと老いを見つめた温かさに包まれる「老衰介護看取り小説」。注目作。

『共犯のほとり真保裕一著(2024年9月6日発売)

 33年前――。群馬県鈴ノ宮町では巨大ダム建設をめぐって、賛成派・反対派が町を二分する壮絶な町長選挙が行われた。僅差で推進派の現町長が再選されるが、人々の心に禍根を残すことになる。時は流れて現在――。代議士事務所で立てこもり事件が発生、犯人の若者2人は逮捕されるが、完全黙秘を貫く。犯人たちが沈黙を続ける本当の理由とは……? 容疑者の弁護を担当する高山亮介が調べを進めていくと、身元の判明した一人・松尾健の出身地が鈴ノ宮町であることにたどり着く……。ラストで明かされる犯人の驚愕のメッセージに読者は慟哭する! 巨大ダムに象徴される日本の病巣を抉り出す白熱のサスペンス巨編!

『納税、のち、ヘラクレスメス のべつ考える日々』品田遊著(2024年9月20日発売)

 ダ・ヴィンチ・恐山こと作家・品田遊による大反響エッセイ集、第2弾! 2000日を超える日記には「こちとらこう生きるしかないんだ」という、人間にしか出せない迫力がある。古賀及子さんとの対談も特別収録。

『パンダ・パシフィカ』高山羽根子著(2024年10月7日発売)

 春先になると花粉症で鼻が利かなくなるモトコは、副業で働くアルバイト先の同僚・村崎さんから自宅で飼う小動物たちの世話を頼まれる。その後、村崎さんから届くメールは謎解きのようだったが、しだいにパンダと人類をめぐる狩猟、飼育、繁殖の歴史がひも解かれ、ある目的で海外を転々としていることが見えてくるのだった。モトコが村崎さんからの指示を仰ぎながら、あずかった動物たちの世話をつづけるなか、上野動物園では日本が所有する最後のパンダ・リンリンが亡くなり、中国ではオリンピックを前に、大地震と加工食品への毒物混入事件が起きる――。命をあずかることと奪うこと。この圧倒的な非対称は、私たちの意識と生活に何を残すのか? テロルと戦争の時代に「命」をあずかること=ケアの本質に迫りながら、見えない悪意がもたらす暴力に抗うための、小さく、ささやかな営為を企てる問題作。芥川賞受賞から更なる飛躍を遂げた、現代小説の美しき結晶!

『死神』田中慎弥著(2024年11月7日発売)

 うだつの上がらない「作家」である私の人生の折々に登場してくる、死神。中学二年生で初めて出会ったあいつのことだけは、これまで作品には書けなかったのだが……。芥川賞作家が描く「死」と「家族」。ユーモラスにして、痛烈な新境地。

『擬人化する人間 脱人間主義的文学プログラム』藤井義允著(2024年11月21日発売)

 長らく感じていた「現代社会のディストピア化」と「自身の存在の希薄さ」を手がかりに、朝井リョウ、村田沙耶香、平野啓一郎、古川日出男、羽田圭介、又吉直樹、加藤シゲアキ、米津玄師の作品を「擬人化」「脱人間」をキーワードにして読み解く。1990年代生まれの著者による初の単著。