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「お金やモノがないと不幸?」スマホも病院もない孤島で写真家・長倉洋海が見つけた“幸せの答え”とは?
これまで68カ国を訪れ、世界中の紛争地やアマゾンなどの辺境の地を中心に取材を続けてきたフォトジャーナリストの長倉洋海さんは、レンズを覗きながら「幸せってなんだろう?」と考えることが多かったという。そんな長倉さんが各地の子どもたちのいきいきとした姿を集めた写真集『元気? 世界の子どもたちへ』(朝日新聞出版)の発売に合わせて、インタビューを抜粋して紹介する。
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幸せってなんだろう?
お金や便利なモノがなかったら不幸なのだろうか? よくそんなことを考えます。
2011年、学生時代以来38年ぶりにミクロネシア・ポンペイ州のカピンガマランギ島を訪れました。ミクロネシア最南端にあり、ポンペイ島からヨットで5日間もかかるのです。以前は月1回の定期船があったのですが、今は3カ月に一度だけ。ぼくはヨットをチャーターして向かうことにしました。世界のどこでもインターネットが使えるような “便利”な時代のはずなのに、そんな便利さとはかけ離れた世界があるんだと思い知りました。島の人は38年前と同じように、お金や効率を一番に考えるのではなく、自分のリズムを大切に生活していました。
徒歩15分で一周できる小さな島なので、島内を一通り写真を撮って歩いても時間がたっぷりあります。ぼくも海で珍しい貝を拾ったり、漁網をリサイクルしたハンモックで昼寝をしたり。日本ではなかなかできないゆったりした時間を過ごすことができました。
島にはコンビニエンスストアやファストフード店もないし、車もスマートフォンもありません。島外との通信手段は無線機一つだけです。ドクターヘリも来ないので、緊急の病気の治療はできません。どうして病院や便利なものがある本島で暮らさないのかと聞いてみると、「ここが好きなの」と答えるのです。島に住む人たちは便利な生活よりも島ののんびりした暮らしを選んだのです。「ここではお金が必要ないし、のんびり生きられるから」と話す人もいました。
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シベリアのトナカイ遊牧民ネネツの人ひとたちは、一本の木も生えないツンドラ地帯でトナカイのえさを求もとめてソリで移動し、テントで暮らすとてもシンプルな生活をしています。それでも人々は「ここに生まれて幸せ」と話してくれました。
ミクロネシアの人も、シベリアのネネツも、アフガニスタンの人も私が訪れた国の人はみんな自分の生まれた場所とそこでの生活が大好きなのだと実感しました。
コソボで出会ったザビット一家は、戦火を逃れて数カ月間も山の中に身を隠す暮らしを強いられましたが、母サニエは「モノはなくても家族がいれば生きていける」と話していました。
子どもたちの笑顔を支えているのは家族や自然のほかに、古来の伝統だったり同じ地域の仲間だったりさまざまでしたが、そうした人々を支えるものをぼくは写真の中に写し込みたいと思っています。
いろんな場所の異なる環境のもとで、笑顔で生きている子どもたちの写真を見てどう感じますか。
「大変そう」? それとも「楽しそう」? 答えは両方じゃないかな。つらくて楽しくて、悲しくてうれしい。両極端の2つ、どちらもあるのが人生だとぼくは思うのです。
つらいことに直面しても、それを乗り越える方法を親も先生も教えることはできません。国とか社会だって「これだ」という生き方を与えてくれることはないでしょう。自分が進む道は自分で苦労しながら探していく。だからこそ、ほかの人たちと違うあなただけの人生になるんじゃないかなとぼくは思います。
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旅で、行ったこともない場所に行き、知らない人と話す。いろいろな発見をし、たくさんのことを学ぶ。そんな経験を重ねるうちに日本の良いところ、悪いところも見えるようになりました。いろいろあっても、ぼくはやっぱり日本が好きです。ぼくはここで生まれ、これからもここで暮らしたいと思っています。若かったころよりもずっと日本を大切に思えるようになりました。
ぼくは好きな写真で生きていくと決めてから、苦しくても写真の道は絶対にあきらめないぞと思ってやってきました。あなたも自分が好きなこと、進みたい道を見つけたいと思っているなら、ちょっと冒険をして、知らない世界に一歩踏み込んでみたらどうだろうか。
世界でいろいろな友だちをつくりたいと思っているなら、自分の殻に閉じこもらず、自分の心をまず開いて、出会った相手に「やあ、元気?」と声をかけてみたらどうだろう。
パソコンやスマートフォンを使い、インターネットで知ったり見たりできることもたくさんあると思うけれど、実際に人と会って、思ってもいなかったようなことを経験して驚いたり、泣いたり、笑ったり、飛び跳ねるほど大喜びすること。それがあなたをもっと大きく、魅力的に、そして楽しい人間にしてくれるんじゃないかな。
新しい「あなた」に出会うために、世界に飛び出してみよう。世界はとても広く美しいのだから。それがぼくからのメッセージです。
(取材・構成/生活・文化編集部 金城珠代)