バリ島のジャングルの中にある「世界で一番エコな学校」には、子どもたちのアイデアで作られた廃タイヤの家具やボンネットのホワイトボードがある
今回、インドネシア・バリまで足を運んだのは、グリーンスクールが2012年に「地球上で最もグリーンな学校」賞を受賞し、エコ教育に特化した学校だと知ったからです。日本でも情報は得られますが、自分の目で確かめたいと思いました。壁がないと言われる校舎で、多国籍の子どもたちの授業をどのように行っているのか。教師陣は子どもたちの自立心や自主性を、どのように育てているのかなど、たくさんの好奇心と疑問を抱えて現地に赴きました。
山を切り開いて作った敷地は橋や川、牧場、畑、カフェテリア、ジム、バイオマス発電施設など、生活に必要なすべてが凝縮されているような場所で、きっと迷子になる子もいるだろうと思うほど。風や光が差し込む竹製の校舎は学校のシンボルで、まさに学校の心臓部。子どもの好奇心や五感を養い、クリエイティブに成長するために重要な役割を果たす象徴的な建物になっています。
取材は放課後のみとのことだったので、授業の様子を見ることはできませんでしたが、動植物への水やりや餌やり、研究に没頭する子どもたちの姿を見ることができました。
廃タイヤを持ち寄って家具を作ったり、車のボンネットを再利用してホワイトボードにしたり、学校内には子どもたちのアイデアで作られたものがあふれていました。これらは子どもたちが「捨てられてしまうもので何かできないか」と自主的に廃材を集めて作ったもの。この学校では一人でも自由に挑戦できる仕組みが確立していて、指導者は過度なサポートを行わないようです。
世界各国から子どもが集まってきますが、「子どもの自立」や「自主性を育てたい」という学校の強い意志を感じました。グリーンスクールの授業には教科書がありません。例えば海洋プラスチック問題を学ぶ授業では、海に行きゴミを拾う。そこで子どもたちが考えたこと、問題解決の方法を実際に行動させるのです。この「行動」「実行」が一番の肝で、とにかく理解するだけで終わりにしないのが素晴らしい。
給食やカフェテリアで使う皿は、使用後に堆肥にできるバナナの葉を使っていますが、これも使い捨て容器の廃棄問題から生まれたアイデアだそうです。「問題になっている」「自然環境のことを考えなければ」と言っているだけでは、なんの解決にもならないことをよくわかっているのでしょう。
社会の仕組みがわかるような取り組みも、面白かったですね。例えば、子どもたちが種をまいて育てた野菜をカフェテリアで提供したり、愛情をこめて育てた家畜を売りに出すことで経済が回っていることを理解させたり。子どもたちが取り組んだプロジェクトの成果物を商品としてバザーで販売し、会社を作る、販路を開拓するなど、この世の中の仕組みやお金の流れが、机上の勉強ではなく、自分たちの行動とつながって理解できるシステムです。
サル・ゴードン校長もお話しされていましたが、「若い人材の育成」は喫緊の課題であり、そのためには世界の学校のシステム、教育環境を見直さなくてはいけません。教育に携わる人たちは「国からの通達が」「学校は変えられない」とよく言いますが、この学校を見ていると「学校は変えられる」と勇気が湧いてきます。
ここの卒業生が人道支援団体などで活躍することも大切ですが、子どもたち一人一人が学んだこと、学校のこと、自然のこと、環境のことを親や友人に話し、その考え方を周囲と共有すれば、それが裾野から広がっていくはずです。
今すぐ何かの形にならなくても、子どもたちの心の中にしみ込んだものが、きっと将来の行動を決めるときの基準や指針になる。それがこの学校で学んだ意義になるのだと思います。「一人だけじゃ変わらないけど、一人からしか変わらない」という卒業生の露木しいなさんの言葉が、学校を見たときにすーっと胸にしみるような気がしました。
(構成:生活・文化編集部 上原千穂)