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中国は尖閣諸島をどうしたい?地政学の視点で見れば「一目瞭然」の理由【8コマ地政学】

 2010年代以降、尖閣諸島に近い日本領海への中国公船の侵入が激増した。2022年11月も、のべ4隻が領海に侵入している。中国はなぜ、この小さな島々に野心をみせるのか。その理由を、『ざっくりわかる 8コマ地政学』(2022年11月、朝日新聞出版)から、マンガを交えて解説したい。

監修:一色清/マンガ:よしたに『ざっくりわかる 8コマ地政学』(朝日新聞出版)
監修:一色清/マンガ:よしたに『ざっくりわかる 8コマ地政学』(朝日新聞出版)

 国境の多くが海に面している海洋国家を「シーパワー」国家と呼ぶ。いわゆる海軍力だけではなく、海上輸送の能力や海外基地の確保なども含めた「海上を支配するための総合力」の高い国のことで、アメリカやイギリス、日本が分類される。この、シーパワーに並ぶ概念が「ランドパワー」国家。ユーラシア大陸の内部に位置する大陸国家のことで、こちらも陸軍力のみならず、陸上輸送の能力や資源の量などを含む幅広い概念とされている。

 中国は長大な海岸線を持つが、複数の国とも国境を接しており、歴史的には「ランドパワー」国家。例外的に、モンゴル族の建てた元が日本やジャワに侵攻しているが、いずれも失敗している。

 その中国が、シーパワー国家化の野望を見せ始めたのは、鄧小平が指導者だった1980年代。鄧小平に抜擢された海軍軍人の劉華清は、ソ連に学んで海軍の近代化を進め、中国の海洋戦略として「第一列島線」「第二列島線」という構想を唱えた。

中国の列島線の基本的な発想は、第一列島線内部では米軍に自由に行動させない、第二列島線内部への米軍の接近は阻止する、というものだ

 第一列島線とは、日本の南西諸島から台湾~フィリピン~ボルネオ島を結ぶ線で、この線の内側の東シナ海や南シナ海は「中国の海」とみなされる。第二列島線は伊豆諸島~グアム~サイパン~パプアニューギニアを結ぶ線で、アメリカの台湾支援を阻止する防御ラインとされている。冷戦の終結でソ連の脅威がなくなったことも、中国が海洋に目を向けるきっかけとなった。驚異的な経済成長を遂げてからは、アメリカへの遠慮もなくなっていく。

 尖閣諸島は、明治時代の1895年に日本政府が自国領に編入し、現在まで実効支配を続けている。しかし、1960年代末、東シナ海に豊富な地下資源が埋蔵されていることがわかると、中国と台湾が領有権を主張し始める。

【マンガ】五つの島と三つの岩礁はシーパワー国家への第一歩
(c)よしたに

 尖閣諸島は第一列島線の内側にあり、台湾や沖縄本島との距離も絶妙。尖閣諸島を領有すれば、東シナ海を完全に「中国の海」にする野望に近づくことになる。尖閣諸島は中国にとって、海洋上に勝手に線を引きたくなるほど魅力的な場所にあるのだ。

 逆に、アメリカや日本から見ると、南西諸島~台湾のラインは中国の海洋進出を阻む「ふた」であるといえる。尖閣諸島近辺でせめぎ合いが起きるのは、地政学的には「必然」なのだ。

(構成:文筆家・三城俊一/生活・文化編集部)