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「山に埋められたことがある…」チャンス大城がテレビで何度も明かした驚愕の実話の全容公開!

 お茶の間の記憶に残る男としてTV出演急増中の芸人・チャンス大城(本名:大城文章)さん。そんなチャンス大城さんが自らの半生を赤裸々に語り下した『僕の心臓は右にある』(2022年7月刊、朝日新聞出版)から、バラエティ番組で何度も明かしてきた、高校時代に山に埋められた驚愕エピソードを、本文から抜粋、編集して紹介します。(写真:朝日新聞出版 写真映像部・東川哲也)

大城文章著『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)
大城文章著『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)

 定時制高校時代のことで、どうしても語っておかなくてはならないことがあります。それは本当にえげつない事件でしたが、尼崎という町のリアルな一面を象徴する話でもあるのです。

 あれは、高校3年のことでした。

 事件の発端は、ブラジャーのホックの外し方を僕のおとんから一緒に教わったサイトウが、力仕事のバイトを一緒にしていたMという同級生を、僕とワダの前に連れてきたことにありました。

 M自身はそんなに怖いやつではありませんでしたが、Mのバックにいたグループがとてつもなく怖い人たちの集団だったのです。

 やがて僕は、サイトウとMと一緒に力仕事のバイトに行くようになったのですが、僕たちが稼いだ日当でMのバックにいる先輩たちが朝まで遊びまくるのです。どういうことかというと、僕らを連れて飲みに行ったり、カラオケに行ったりして、その代金を全部僕らに払わせるのです。

 昼間働いた日当は、最終的にすべて巻き上げられてしまいました。そして、朝六時にはまた力仕事に出かけなくてはならないという、あまりにも過酷な日々を僕らは送るハメになってしまったのでした。

 そのとんでもなく凶悪なグループの親玉は、やはりとんでもなく凶悪な人でした。一応高校生でしたけれど、ゾッとするような冷たい目付きをして、チリチリのパンチパーマをかけていました。その人は、公園でカップルにナイフを突きつけてお財布を奪う、いわゆる「カップル狩り」をやっていて、当時、すでに逮捕状が出ているという噂でした。

 僕は連日のようにその親玉から暴力を振るわれて、逮捕状の噂も聞いていたので、さすがにヤバイと思ってなるべく関わらないようにしていました。

 ところが、マズイことが起こってしまったのです。

 ある日、僕の家にMがやってきました。

「オオシロ、おまえ、俺らからなに逃げまくってんねん。原チャリ貸せや」

 Mはひとことそう言うと、僕の原チャリに乗って行ってしまいました。案の定、何日たっても原チャリは戻ってきません。

 サイトウに相談すると、彼はキッパリとこう言いました。

「俺たちが平和な日々を送れるようになるために、やつらは鑑別所に入った方がいいんや。だから盗難届け出しや」

 僕はサイトウの勧めに従って、警察に盗難届を出しました。するとMは、僕の原チャリに乗っているところをあっさり捕まりました。Mは「オオシロから借りた」と言い張ったそうですが、警察の人が「オオシロ君から盗難届が出てる」とMに言ってしまったらしいのです。

 僕は報復を恐れて、家の電話線を引き抜いて布団をかぶって寝ていました。ところがたまたまおかんが電話線をつないだ時に、親玉から電話が掛かってきたのです。おそらくずっとダイヤルを回し続けていたのでしょう。

「サイトウもワダもおるから、おまえも来い」

 受話器の向こうから、冷たい声が響いてきました。

 ワダはサイトウと一緒にいるところを、セットで拉致されてしまったらしいのです。僕だけ逃げるわけにはいきません。

チャンス大城さん(撮影/朝日新聞出版 写真映像部・東川哲也)

 僕は覚悟を決めて、親玉が住んでいる団地の一室に向かいました。部屋には親玉の他に仲間が3人いて、親玉の嫁さんもいました。嫁さんはものすごい美人で、妊娠中らしくお腹がぽっこりと膨らんでいました。

 グチャグチャに散らかった部屋の中、凶悪な5人組がサイトウとワダを取り囲んでいます。僕が部屋に入っていくと、親玉が言いました。

「Mを売ったんは、おまえらか」
「いいえ、違います」
「おまえらやろ」
「違います」

 僕は嘘をつき通しました。認めてしまったら、何をされるかわかりません。

 これはマズイ……。

「逮捕状出てんねん。おまえら……逃亡資金出せや」

 やはり逮捕状の噂は本当だったのです。

「おまえら、いくら持ってんねん」
「お金なんて、持ってません」

 その時、ものすごい美人の嫁さんがこう言ったのです。

「こいつら、絶対金持ってるわァ」

 僕は、この言葉を聞いてびっくりしてしまいました。うまく言えませんが、お腹に子供を宿している女性がこんなことを言うのか、と思ったのです。いや、妊娠しているからこそ必死だったのかもしれません。部屋の襖に大きな穴が開いていましたが、それは、もしかすると彼女が親玉にしばかれた痕跡かもしれません。

 親玉がおごそかに言いました。

「これから毎日、俺たちにしばかれて、お金を渡しますと契約書に書け」

 冷静に考えるとアホみたいな内容ですが、僕たち3人は本当に手書きで契約書を書かされたのです。

 契約書
 私は毎日●●さんにしばかれて、いつでもお金を渡します。
                       大城文章

「おまえら、ハンコ持ってるか」

 そんなもの、いま持ってるわけがありません。すると親玉が嫁さんに向かって、

「おい、包丁持って来い」

 と言いました。嫁さんがかいがいしく台所から包丁を持ってきました。

「おまえら、ひとりずつ手ぇ切って血判押せや」

 最初に包丁を渡されたワダは、うっ、うっ、うっ、と変な声を出すだけで、まったく切ることができませんでした。極限状態だというのに、僕はワダの姿を見ていたら、なぜか急にへらへら笑いがこみ上げてきました。

 すると親玉が、

「こうやるんじゃー」

 と、お手本に自分の指を切ってみせました。

 ワダは手をつかまれて、無理やり人差し指に包丁を当てられました。ワダは悲鳴を上げました。

「痛てー」

 僕は、一発でシュッと切れました。

サイトウも無理やり切らされましたが、血判を押した瞬間に気絶してしまいました。僕は一瞬芝居じゃないかと思いましたが、サイトウはその後もずっとピクピク痙攣していました。

 親玉が僕とワダに向かって言いました。

「おまえら、別々に車に乗れ。こいつ(サイトウ)は後でゆっくりしばいたるわ」

 サイトウは、突撃に加われない傷病兵のようなものでした。

チャンス大城さん(撮影/朝日新聞出版 写真映像部・東川哲也)

 時刻はちょうど夜の10時頃です。僕は車に乗せられたとき、「これから本当に殺されるんだ、このまま死んでしまうんだ」と思いました。短い人生だったなと思ったら、もっと勉強して私立に行けばよかったなとか、危ないバイトなんかするんじゃなかったなとか、後悔が次々と頭に浮かんでくるのです。

 車で連れていかれたのは、六甲山にある心霊スポットとして名高い、すでに閉鎖された宿泊施設でした。車から降ろされると、宿泊施設の前で僕ひとりだけスコップを渡されました。

 親玉が言いました。

「穴掘れー」

 僕はひとりで穴を掘り続けました。メチャメチャ掘ったと思っても、ぜんぜん許してもらえません。

「まだやー、もっと深くやー」

 1時間以上、最後は穴の中に降りて掘り続けました。僕はもう汗だくです。ワダは僕が穴を掘っている間じゅう、ずっと泣き続けていました。

 ようやくOKが出たと思ったら、

「入れー」

 と言われました。

 僕は自分の掘った穴に首まで埋められて、首の周囲を工事用の凝固剤みたいなもので固められてしまいました。まったく身動きが取れません。

 こうしておいて顔面を蹴りまくるのだろうと思っていたら、親玉たちは、

「じゃあなー」

 と言って、ワダを連れて立ち去ろうとするのです。思わずワダが言いました。

「オオシロ、俺、どうなんのやろ」

 ワダを乗せて、2台のヤンキー車がさっき上ってきた道を下りていく音が聞こえました。

「えーっ、埋められんの、俺だけなん?」

 車が去ってしまうと、あたりは完璧な暗闇でした。まったく何も見えません。僕は恐ろしくて恐ろしくて、半泣き状態でした。

 やがて、山道を上がってくる車の音が聞こえました。車は僕が埋まっている施設のそばまで来て、止まりました。

「なんや、戻ってきたんかいな。ただの脅しやったんか」

 僕が淡い期待を抱いていると、車の中から懐中電灯を持った2人組が降りてきました。親玉たちではなく、どうやら肝試しにきたカップルのようでした。僕は声をふりしぼって懇願しました。

「あの、あの、すみません、すみません……」
「なんか、声するやん」

 女の子の声が言いました。

「やめろやおまえ、脅かすなや」

 男が言いました。

「あの、あの、すみません、すみません……」

 もう一度呼びかけると、ふたりはパタリと会話をやめました。

 男の方が懐中電灯であたりを照らし始めました。やがて、懐中電灯の光が僕の顔にピタリと当った瞬間。

「ギャーーーーーーーーーっ! 出たーーーーーーーーーーっ!!」

 この世のものとも思えない絶叫をあげながら、カップルはカール・ルイス並みの速さで車に駆け戻りました。間もなく、あわてて山を下りていく車の音が聞こえてきました。きっと彼らは、生首を見たと思ったのでしょう。

「待ってくれー、違うんやー、待ってくれーーーーーーーっ……」

 あのカップルは、山を下りてから友だちに「六甲山で生首を見た」と触れて回ったに違いありません。でも、違うんです。あれは僕なんです。

 それからずいぶんたって、空がだんだん明るくなっていき、やがて太陽が昇ってきました。

 僕は恐怖の連続でアドレナリンが出尽くしてしまったのか、体はヘトヘトでした。脱水症状で喉もカラカラでしたが、頭は焦りで高速回転していました。このまま黙っていたら、本当に死んでしまいます。

「助けてくれーっ」

 力いっぱい叫びました。

「助けてくれーっ」

 これでもかというぐらい、叫びました。

 すると、

「タスケテクレーー」

と木霊が返ってきました。

 でも、返ってくる「タスケテクレーー」という声が、どうも僕の声とは違うのです。

「!!」
「ワダーーーーーーーーーーーっ」
「オッ、オオシローーーーーーーーーーーーっ」

 ワダはどうやら、向かいの山に埋められているようでした。ワダに質問してみました。

「どないやー」
「埋められとるー」
「いま助けに行くー」
「無理やろー」
「そやなー」
「いろいろ、後で考えよー。しばらく仮眠するわー」
「ワダー、寝るなー、死ぬぞー」

 この交信を最後に、ワダの声は途絶えてしまいました。

絵:チャンス大城

 ワダとの交信が途絶えてから一時間ほどたったとき、僕が埋まっている施設に向かって1台の軽トラが走ってきました。作業着を着たおっちゃんが乗っています。施設の管理人に違いありません。軽トラを降りたおっちゃんが、僕の方に近づいてきました。

「お兄ちゃん、何してんのや!」
「いろいろあって、埋められたんです。助けてください」

 他に表現のしようがありません。僕は心の中で叫びました。

(助かった! これで助かった!)

 無人島に漂着した人が救助船を発見した瞬間は、きっとこんな感じだと思います。

 おっちゃんは軽トラからバールを持ってくると、首の周りの凝固剤を剥がして、スコップで僕を掘り出してくれました。

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます……」

 僕はこの時以上に、人に感謝したことはありません。

 おっちゃんは服についた土まで払ってくれて、こう言いました。

「車乗れー、駅まで送ったるわ」

 僕は軽トラの助手席に乗せてもらいました。少し山道を下ったところで、僕はおずおずと切り出しました。

「あのう、ひとつよろしいでしょうか……。もうひとり埋まってるんですけど」
「ええっ、まだ埋まってるやつおるん?」
「はい。助けたってください」

 おっちゃんは、ちょっとびっくりしながらこう言いました。

「なんで同じ場所に埋まってへんねん」

 どう返事をしていいのかわかりません。

「たぶん、目の前の山やと思います」

 軽トラはもう一度、山道を上り始めました。僕は窓を開けて叫び続けました。

「ワダー、起きろー、おまえ、まだ女の子とデートしたことないやろーー! ドウテイやろーー!」

 しばらく叫び続けていると、山頂付近の雑木林の中からふり絞るような声が聞こえてきました。

「オオシローーーーーっ!」

 ワダは山林の中に、僕と同じスタイルで埋められていました。軽トラのおっちゃんと僕とふたりがかりでワダを掘り出して、おっちゃんに近くの駅まで送ってもらいました。

それにしても、世の中には親切な人がいるものです、軽トラのおっちゃんは、

「君ら腹減ってるやろ、飯おごったるわ。体力つけなあかんで」

 と言うのです。

 僕もワダも腹が減って疲れ切っていたので、おっちゃんに甘えてご馳走になることにしました。

 さて、例の凶悪な親玉はどうなったかというと、結局、逮捕されて半年間鑑別所に入っていたそうです。鑑別所を出たら僕の家に「挨拶」に来るんじゃないかとビビッていたのですが、ある日、本当に挨拶にやってきました。

「もう、臭い飯食いたないからなー、いままでのこと、1万円で全部チャラにしたるわ」

 親玉が来たとき、僕は1万円なんて大金は持っていませんでした。おかんは居間で『笑っていいとも!』を見ながら、ゲラゲラ笑っています。

「おかん、お母さまー、あのー、1万円貸してもらえませんでしょうか?」

 普通だったら絶対に、「なんであんたにそんな大金貸さないかんの」と言われてお終いです。

でも、神様って本当にいるんですね。

「あははは、ええよー、あははは」

 おかんは、笑いながら1万札を渡してくれたのです。

 親玉にその1万円を渡すと、

「ほな、またな」

 と言って引き揚げていきました。

「自由や、これでやっと自由を手に入れたんや……」

 僕は、親玉が立ち去った後、ひとりで家の外に飛び出して大声で泣きました。