「自分に合った仕事」を引き寄せるコツを、1万人の脳を見た脳内科医が解説!
新生活の緊張が途切れ、やる気が出なかったり、思考が後ろ向きになったりする「6月病」が増えているとされる昨今。ここでは、「自分に合った仕事」を引き寄せるコツを紹介したい。
加藤さんによれば、「自分に合った仕事」には二つの要素がある。ひとつは、その人の脳の強みから見て「向いている」こと。自分の脳の得意分野を知ることが仕事選びの手助けになる。「人とのコミュニケーションが得意だな」と思う人は、伝達系脳番地が強いので、相手との意思疎通が重要な接客業や営業職で力を発揮するだろう。また、「自分は欲求に応じて、素早く体を動かせる」という人は運動系脳番地が強いので、農業やプロスポーツ選手が向いている、と加藤さん。
例えば、教師や銀行員に向いているとされる「記憶系脳番地」の機能を健やかに保つためには、しっかり睡眠をとることが最も大切だ。加藤さんは言う。
「実は記憶系に限らず、脳には毎日最低限7時間程度の睡眠が必要といわれています。しっかり寝ること、これが何よりのトレーニングです」
もうひとつの要素は「やりたい」仕事であること。自分に合った仕事を選ぶ際、向き不向きはいったん脇において「やりたい」を判断基準にし、「やりたいこと」の中に身を置くことを加藤さんは勧める。脳は適応力が高いので、「やりたいこと」と「向いている」が徐々に一致していくという。
やりたいことがわからないという場合は、どうすればいいのか。「今、自分が置かれている場所、与えられている仕事で何かしらの“ナンバーワン”を目指してください」
売り上げ1位、好感度1位、後輩に慕われる1位など、何でもいい。やれることを全部やって、今いるところでベストを出し切る。やるだけやって飽和すると、またおのずと別の場所、やりたいことが見えてくるはずだ。
今の職場がいわゆる「ブラック企業」で、そのブラックな状況を避けることに主眼を置く場合、「自分の短所・弱点が表面に出ない仕事」を選ぶことが大切だ。かつて加藤さんが担当した患者で、動きが遅いにもかかわらずスピードが重視される仕事に就いて、苦しくなってしまった、という人がいた。もっとも弱いところがもっとも目立つ形で出てしまう職業を選んでいたわけだ。
なぜそういう選択ミスが起きるのか。自分の得意・不得意を客観的に把握していないからだ。自己認識が弱い人は往々にして自己肯定感が低い傾向にあり、「自分にはたいしたことができないから、とりあえず就職しやすい会社に入ろう」と誤った選択をしてしまう。これから就職・転職する人はぜひ、周囲の人に「私の長所・短所はなんだと思う?」と聞いてみてほしい。そして、人から聞いた自分のよいところは必ずメモしておく。第三者の視点を取り入れることで、客観的な自己分析ができるようになる。自分自身に関する情報を「好きなこと・嫌いなこと」「自分が影響される言葉」など、文字にして可視化するのが、加藤さんが勧める「自己認識」の方法だ。
自分にとって劣悪な職場を「引き寄せない」ためにも、自分の弱みを客観的に把握し、仕事選びの基準にしてほしい。
そして、脳が「引き寄せ」を始めるためにもうひとつ大切なことが、「決意」だ。会社を辞めたいのなら「辞める」、結婚したいなら「結婚する」と明確に決めることが大前提になる。加藤さんは言う。
「脳の働きの強さは決意の強さに比例するものだからです。逆にいうと、なんとなくこうなればいいなぁ程度の決意では脳が思うように働くことができず、引き寄せの精度が低くなります」
決意を固めたつもりでも、実は本心ではなかった……ということもある。なぜそうしたいのか? 何が目的でそうなりたいのか? という理由をはっきりさせれば、その「理由」が脳の新たな判断基準となり、今までとは異なる選択肢を引き寄せてくるという。理由付けが明確でないために物事の判断がつかず、選択が甘くなる……こんなことを繰り返していると、せっかくの引き寄せを取りこぼすことになってしまう。
ただ、「絶対にこうでなくてはならない」と執着するのも問題だ。「私にはこれしかない!」と思ってしまうと、脳はほかの選択肢を探すのをやめてしまう。選択肢が少ないと人は不安になり、緊張してますます脳が働かなくなる。つまり、脳が「フリーズ」状態になってしまうのだ。「AがいいけどBも悪くない」くらいに、自分の願望に幅を持たせておくほうが、引き寄せがスムーズにいく場合もある。
繰り返しになるが、本心から明確に決意した物事は引き寄せやすい。しかし、執着しすぎるのは問題。そこの見極めが大切だ。
ここでいよいよ、仕事でいい縁を引き寄せるコツの話。まず、自分にとっての「よい人」像を明確にする。性格は悪くても金払いがいい人? お金はないけど話が合う人? 仕事の中身や目的によって、「よい人」は違ってくる。次に理解しておきたいのは、誰にでも多面性があるということ。「あの人はすごく意地悪だけど動物には優しい」といった具合に、その人のよいところが出るか悪いところが出るかは、時と場合による。つまり、「よい人を引き寄せる」のは、あなた自身が“相手のよいところを出させてあげる”ということに等しい。
もちろん、こんな能力は一朝一夕で身につくものではない。日頃からそういう意識で人と接する。いきなり初対面の相手に応用するのは無理なので、すでに出会っている人たちの中で、相手のいいところを見る訓練をする。その見方が自分にとって当たり前になると、ほとんどの出会いがよい出会いに変わっていくと加藤さんは言う。
「人間の脳は互いに共鳴し合うので、引き寄せたい相手に繰り返し丁寧に接していると、相手の脳が親近感を感じて、向こうから近づいてくるようになるんです」
ただし、好印象を与えたいがための作り笑いなど「ウソ」や「芝居」はほどほどに。脳は見せかけの親切さや優しさにとても敏感なのだ。
(構成:生活・文化編集部 端香里/タイトル写真:植田真紗美)