できる人たちがこっそり見に行く京都の桜の名所とは
例年、桜の時期の京都はすごい人出となる。今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で花見は難しそうだが、憧れの京都の桜をゆっくり眺める贅沢をしたいと思っている人は多いだろう。そこで、生粋の京都人であり、歯科医師、かつ作家の柏井壽氏の著書『できる人の「京都」術』(2017年刊、朝日新書)から、できる人たちがこっそり見に行く桜の名所を紹介する。
「できる人」たちが、京都の桜を愉しむさいには、「場所」と「時間」をずらします。まずは、「場所」をずらしてご紹介しましょう。
名所を避けてのおすすめは洛中の小さな寺。たとえば智恵光院の上立売を西に入ったところにある「雨宝院(うほういん)」。<西陣聖天宮>という別名を持つ小さな寺の境内に、珍しい品種の桜が咲き乱れる様は圧巻です。
あるいは「本法寺(ほんぽうじ)」。表と裏、両千家が並ぶ小川通にあって、由緒正しき寺。<十(つなし)の庭>など見どころも多い寺だが、京都人には、広い境内に点在する桜でもよく知られています。
本阿弥光悦、長谷川等伯などの文人ゆかりの寺では、境内のあちこちに桜の花がかれんな姿を見せ、とりわけ多宝塔を背景にする桜は、一幅の絵のような美しさを際立たせます。
次は「時間」をずらします。
以前に、花鳥画を得意とする日本画の大家、上村 淳之氏に桜の愉しみ方を尋ねたことがあります。「場所はともかく、ライトアップの桜は絶対に避けるべきだ」という言葉が上村氏の口から真っ先に出てきました。
「夜間にライトアップをせん、水辺の桜がよろしい。ただし朝一番やないとあかん。夜はゆっくり休んで、さぁこれから咲くで、と言うとる桜を見つけなさい」
この言葉を肝に銘じて、「朝一番」の「水辺」の桜をおすすめします。
たとえば鴨川堤。京都の街なかを北から南に流れる鴨川は、賀茂川と高野川が合流して後の流れを言うのが京都人の習わしです。その合流地点から北の高野川と賀茂川は、ひときわ艶やかな花を見せてくれます。夜が明けるのを待ちわびて、おとずれてみてはいかがでしょうか。
あるいは<哲学の道>。こちらは琵琶湖疎水ですから、南から北へ、土地の傾斜に逆らって流れています。上村氏と同じ、日本画の大家として知られる橋本関雪は、「銀閣寺」近くの「白沙村荘」に住み、かいわいをよく散策し、画題を求めたといいます。大正の中ごろ、名を成した関雪は、京都に恩返しをしたいという気持ちから300本の桜を寄贈し、哲学の道沿いに植樹しました。<関雪桜>と名付けられた花は代替わりした今も、水辺に美しい花を咲かせています。こちらもやはり「朝一番」がおすすめです。
さらには、「哲学の道」の桜は、散った後も美しい。傾斜に逆らって、南から北へ流れる水は、散った花びらを集め、行き止まりに花筏を浮かべます。その場所は、銀閣寺交番のすぐ裏手。できる人は、「名残の桜」も愉しむのです。
「時間」だけでなく、「時期」をずらすのも、また、「できる人」なのではないでしょうか。