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「どう考えても勝てないビジネスコンペ」で大逆転勝利を収めた恐るべき戦略とは?

 社員数わずか16名のベンチャー企業が、名だたる大企業とソフトウェアのビジネスコンペで争い、300戦無敗! そんな離れ業をやってのけた、「選ばれることの達人」が、そのものズバリ、『ビジネスコンペ300戦無敗 選ばれ続ける極意』(朝日新聞出版)というタイトルの本を上梓した。
 達人の名は井下田久幸。井下田氏は、もともと日本IBM社のエリート社員だったが、自ら志願して弱小ベンチャー企業に転職。現在は起業し、その会社のCEOを務めている。そんな井下田氏の友人であり、新刊本の企画者でもあるブックライターの西沢泰生氏が井下田氏に「選ばれ続ける極意」について聞くインタビューの第3回(最終回)をお届けする。

井下田久幸『ビジネスコンペ300戦無敗 選ばれ続ける極意』(朝日新聞出版)
井下田久幸『ビジネスコンペ300戦無敗 選ばれ続ける極意』(朝日新聞出版)

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■「今回は選ばれるのは無理だろう」からの大逆転

西沢:ベンチャー企業時代のビジネスプレゼン300戦無敗のなかで、「今回ばかりは、受注は難しいのではないか?」という窮地から逆転した事例があれば教えていただけますか。

井下田:そうですね。ベンチャー企業時代ではなくて3社目にいたときのことですが、かつて、自分がコンペで叩きまくっていたソフトウェアを自分が売ることになったことがありました。しかも、コンペの相手が、少し前まで自分が売りまくっていたソフトウェアというめぐり合わせのときは、これは参ったなと。

西沢:えーっ、言わば昨日の友は今日の敵ですか。嘘みたいな展開ですね。

井下田:しかも、そのシチュエーションで、自社製品を含めて9社とコンペをすることになったときは、さすがに、今回ばかりは難しいかなと思いました。

西沢:それはキツイですね。いったいどうやって選ばれたんですか?

井下田:まずやったことは、確率9分の1を2分の1にすることでした。

西沢:えっ? どういうことですか?

井下田:お客様に、こう伝えたんです。「今回の御社のご要望を考えると、正直、A社の製品が一番良いと思います。あとの会社の製品は私の目から見ても問題外です」。このA社の製品というのが、かつて私が売っていた製品です。こう伝えることで、選ばれる確率をA社の製品か当社の製品かの2分の1にすることに成功しました。

西沢:えぐい! でも、そのままだと、A社の製品が選ばれてしまいますよね。

井下田:そのとおり。そこで、私の会社の製品とA社の製品で、ある処理を行うデモを同時に実施しました。それは、めったに発生しない処理なのですけど、実は私、A社のその製品が、その処理を行うとバグが発生することを知っていたんです。なにしろ◯◯社にいた頃、そのパグを取り除くように何度か提案したんですが、それがレアケースの処理であることと、根本的に製品をつくり直す必要があることから黙殺されていたんです。

西沢:もともとその製品を売っていた自分の強みを生かしたんですね。それで、あえて、めったに発生しない処理で、今、自分が売っている製品と同時にデモを行ったと。

井下田:そうです。そして、「A社の製品は優れていますが、こんな致命的なバグがあります。ウチの製品はその点、安心ですが、どちらにしますか?」と。これで、そのコンペでも選んでいただくことができました。

西沢:いやはや、「選ばれる人には、選ばれるだけの理由がある」というのがよくわかります。井下田さんを敵に回したら怖いですね(笑)。

■なぜか選ばれないことに悩む人たちへのメッセージ(1) 最善を尽くすことだけ意識する

西沢:井下田さんの新刊『ビジネスコンペ300戦無敗 選ばれ続ける極意』には、「選ばれるための戦略」として、4つの戦略、「試食戦略」「帳尻合わせ戦略」「アドバイザー戦略」「根性論戦略」が登場しています(蛇足ですが、私の最新刊『一流は何を考えているのか』(Gakken)でも、井下田さんの「試食戦略」の成功事例について、クイズ形式で紹介しています)。拝読すると、「これはたしかに300戦無敗になるのも道理……」と納得しました。そこで、もし今、目の前に悩んでいる人が来て「私、いつも選ばれなくて自信を失っています。井下田さんのように選ばれる人になりたいんです」と言われたら、何をアドバイスされますか?

井下田:そうですね、行動や心がけは、本にたくさん書いたので、自信を喪失している方に向けて、あえて3つだけお伝えします。

西沢:ぜひ、教えてください。

井下田:1つ目は、「選ばれている人は、選ばれている自覚があまりないことを知ってほしい」です。自分がなかなか選ばれない人は、選ばれる人を見て、うらやましく感じると思います。たとえば、オーディションなら、「どうしてアイツばかりがいつも選ばれるんだ」って思うでしょう。でも、実は選ばれている本人は、「自分は選ばれる人だ」という自覚がなくて、ただただ、目の前のオーディションに最善を尽くしているだけ。その結果、たまたま選ばれたという感覚なんです。

西沢:そういうものなんですね。

井下田:私は、「人事を尽くして天命を待つ」という言葉を座右の銘の1つにしています。ですから、変に「選ばれたい」と意識するより、とにかく「自分にできることを出し切る」という気持ちで選択される場に臨んでほしい。そうすれば、選ばれなくても、やるだけやったって納得できて後悔しませんし、選ばれた人をうらやましく思うこともなくなります。そして、気がついたときには、自分が選ばれるようになります。

■なぜか選ばれないことに悩む人たちへのメッセージ(2) 自分のほうが選ぶ意識を持つ

井下田:2つ目は、「『選ばれる』のではなく、自分のほうが『選ぶ』という気持ちになってほしい」ということです。たとえば、会社の採用面接に行くときも、「自分がこの会社を選びに来た」という感覚で臨んでほしいんです。スポーツなら、「この監督、自分をレギュラーにしないなんて目がないな」とか、オーディションなら「自分を選ばないなんて、この監督、あとから後悔するのに」とか。それこそ、商品のプレゼンなら、「この商品を選べば、絶対に便利なのに」と、そういう気持ちを持つ。「選ぶ側に対してへりくだる必要はない」と知ってほしい。そうすると、選ばれなくても落ち込まなくなりますし、態度に自信がにじみ出るようになります」

西沢:そう考えて臨むと、選ぶ側にもその自信が伝わりそうですね。

井下田:そのとおりです。

■なぜか選ばれないことに悩む人たちへのメッセージ(3) 準備が自信になる

井下田:最後は、「自信がなければ、徹底的に準備する」です。私はこれまでに2000回を超える講演やセミナーをやってきましたが、今でも本番前は震えるくらいに緊張します。

西沢:井下田さんのプレゼンする姿を知る者としては、信じがたい話です。

井下田:もともとアドリブが得意ではないので、本番前は人の何倍も準備しない安心できないんです。友人の披露宴の司会をやるときも、事前に新郎新婦から「スピーチする人たちが何をしゃべりそうか」を聞いて、こんなことをしゃべったらこう返そう、こんな話題が出たらこう次につなげようなど、さまざまな場合を想定してコメントを全部決めてから臨んでいます。

西沢:ひえー、私にはとても無理です。

井下田:それだけの準備をしているから、何が起こってもうまく対応できる。周りの人はそんな私の姿を見て、「井下田さんはアドリブの対応力がすごい」と誤解してくださるわけです。これを「選ばれる場」に置き換えれば、「どう転んでも選んでもらえる戦略を立てる」ということになります。

西沢:「どう転んでも選んでもらえる戦略を立てる」って、すごい言葉ですね。その戦略を立てるうえで、今回の井下田さんの本がおおいに役に立つと思いました。

井下田:はい。私も「どうして自分は選ばれないんだろう?」と悩んでいる方たちに役立ててほしいという思いで書きました。この本が、たくさんの皆さんの助けになることを願っています。

西沢:本日はロングインタビュー、ありがとうございました。

(終了)

井下田久幸さん

【井下田久幸(いげた・ひさゆき)プロフィール】
ドルフィア株式会社代表取締役。1961年生まれ。青山学院大学理工学部卒業後、日本IBMに入社。38歳のときに社員数16人のITベンチャーに志願し転職。ほどなく倒産の危機に直面し、マーケティング部長の傍ら営業支援SEとして現場に入る。以来、足かけ4年にわたりマイクロソフトなど名だたる競合を相手に、コンペ300戦無敗という結果を残す。その後、東証一部上場企業JBCCにて執行役員、さらに先進技術研究所を設立し、初代所長となる。55歳で独立し、現職に。著書に『理系の仕事術』(かんき出版)。

【聞き手:西沢泰生(にしざわ・やすお)プロフィール】
ブックライター・書籍プロデューサー。主な著書『一流は何を考えているのか』(学研)、『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』(三笠書房)、『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)他。