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小論文試験で「まずやるべきこと」と「必要な癖」とは

「小論文を書くときにまずやるべきことを間違っている人は多いです」と話すのは、ウェブ小論文塾代表で1500人以上を指導してきた元NHKアナウンサーの超人気講師、今道琢也さん。今道さんが生徒役のもとゆき君に文章の書き方を教えるというコンセプトの著書『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』から一部を抜粋・再構成して、小論文試験での大切なポイントを解説します。

今道琢也『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』
今道琢也『文章が苦手でも「受かる小論文」の書き方を教えてください。』

■「聞かれていること」の整理から始める

今道:小論文の問題を手にしたとき、まずやるべきことは「問題を読むこと」です。要点を分かってもらうために、ごくごく簡単な出題と解答例を示します。

【問題】
グローバル化の進展を踏まえ、今後日本の教育はどう変わっていくべきか、述べなさい

今道:これは聞いていることがいくつありますか。

もとゆき:二つありますか……?

今道:これはやや難しいですが、直接書くように指示されていることは一つです。「今後日本の教育はどう変わっていくべきか」です。但し、それを書く上での条件として、「グローバル化の進展を踏まえ」という指示がある状態です。

もとゆき:「踏まえ」ってどういう意味でしたっけ。

今道:「踏」という漢字から分かるように、もともとは「踏んづける」という意味ですが、そこから意味が広がって、「このことをしっかり頭に入れて、その上に立って書きなさい」とか、そういった意味になりますね。

もとゆき:なるほど。「グローバル化が進展していることを頭にしっかり入れて、その上に立って、今後日本の教育はどう変わっていくべきか、述べなさい」と。

今道:そうです。出題が「今後日本の教育はどう変わっていくべきか述べなさい」だけであれば、例えば「少人数学級にして、ひとり一人の子どもに目が行き届くようにすべきだ」とか、「子どもたちの読解力が落ちているので、国語教育に力を入れるべきだ」とか、いろいろな解答が考えられます。しかし、「グローバル化の進展を踏まえ」という条件がつけられているわけですから、「グローバル化の進展」を意識した話でなければいけないです。

【問題】
グローバル化の進展を踏まえ、今後日本の教育はどう変わっていくべきか、述べなさい。
【解答例】
グローバル化の進展により、今後益々海外の人と一緒に仕事をしたり、身近なところで接したりすることが多くなる。このため、英語の教育にさらに力を入れていく必要がある。また言葉だけでなく、授業の中で日本と外国の文化を学び、それぞれの特徴や違いなどについて理解することにも力を入れるべきである。

今道:この解答の場合は「グローバル化が進展するから、英語や各国の文化を学ぶことに力を入れるべきだ」と、出題の条件をきちんと理解して書けています。

もとゆき:こういう出題は多いですか。

今道:よくありますね。「課題文の主張を踏まえて、あなたの意見を述べなさい」「人口減少社会であることを踏まえて、今後の街づくりはどうあるべきか述べなさい」「職場の活性化にどう取り組むか、係長としての役割を踏まえて述べなさい」など、頻繁に出題されます。

もとゆき:出題が複雑になってくると益々理解できなくなりそうです。

今道:だからこそ、どんなときも出題の意図をきちっと理解する癖をつけて下さい。

■複雑な問題も分析すれば理解できる

今道:もう少し複雑な問題を見てみましょう。

【問題】
子どもたちの社会性を育むことの意義を指摘した上で、教員としてその育成にどのように取り組んで行くか述べなさい。但し、小学校に即した内容にすること。

今道:教員採用試験に出そうな問題ですが、まずは、聞いていることがいくつあるか整理しましょう。

もとゆき:少し難しいですね……。聞いていることは「子どもたちの社会性を育むことの意義を指摘」「教員としてその育成にどのように取り組んで行くか」の二つですね。「小学校に即した内容にすること」も、聞いていることですか。

今道:「小学校に即した内容にすること」は、答案を書くときの条件ですね。

 答えるべきことを整理すると、

1「子どもたちの社会性を育むことの意義を指摘」
2「教員としてその育成にどのように取り組んで行くか」
 *解答の条件「小学校に即した内容にすること」

 こうなります。直接書くことは1、2ですが、解答する上での条件として「小学校に即した内容にする」があるということです。

もとゆき:「即した」とは?

今道:「きちっと一致させる」とか、そういう意味ですね。「踏まえる」と似ています。この場合「小学校」にきちっと合わせた内容にしなければいけないです。

もとゆき:答案のどこでそれを意識すれば良いのですか。

今道:解答では二番目に「教員としてその育成にどのように取り組んで行くか」を書きますよね。この時、中学校が対象になるような「社会性の育成」を書いても駄目で、小学校にふさわしい内容にしなければ駄目だということです。それともう一つ気をつけたいキーワードがあります。

もとゆき:「社会性」ですよね。

今道:お見事、その通りです。「社会性がある人・ない人」といった使い方をしますが、要は「他の人と関わってうまくやっていける」とか、そういった意味ですよね。小学校での社会性の育成であれば、余り難しい指導はできないですから、ごく基本的な挨拶の励行とか、そういうところから始めるべきでしょう。そこを押さえた上で、こんな答案にしたらどうでしょう。

【問題】
子どもたちの社会性を育むことの意義を指摘した上で、教員としてその育成にどのように取り組んで行くか述べなさい。但し、小学校に即した内容にすること。
【解答】
<子どもたちは成長するにつれ、クラスメイト、部活の先輩後輩、近所の人など様々な人と関係性を作っていくことになる。このため早い段階から、周りの人と関わり、協力し合いながら生きていく、社会性を育んでいくことが重要である。>小学生は基本的な社会性を育む時期である。そのために、まず、毎日挨拶をきちんと行うように指導したい。さらに、ペアまたはグループによる調べ物学習などに取り組ませる、あるいは係の仕事をグループで責任を持たせやり遂げさせる、といった指導を行い、人と協働して物事に取り組む力をつけさせたい。

今道:上記の答案では、―<>で囲んだ部分で、1「子どもたちの社会性を育むことの意義を指摘」に答え、そのあとの部分で、2「教員としてその育成にどのように取り組んで行くか」に答えています。さらに、取り組みが小学校向けのごく初歩的な内容で書かれています。

もとゆき:きっちり出題の指示を満たしていますね。

今道:問題が複雑になればなるほど、何が問われているのかしっかり分析して、それに沿って答えることが大事です。