チャンス大城が圧倒された、明石家さんまの鋭い反射神経と人間的な優しさ
お酒をやめ、勝手にコンビニのトイレ掃除や、道の吸い殻拾いを始めてからしばらくたったとき、スピードワゴンの小沢君から電話がかかってきました。
「いま、六本木でカラオケやってるんだけど来ない?」
「えっ、行ってもええの?」
小沢君に教えてもらった住所に向かうと、そこはカラオケ店といっても、尼崎で友達と通っていたような店とはまったく違う、超高級店でした。
フロントに行くと黒服のお兄さんが、個室まで案内をしてくれました。個室のドアを開けると、中には10人ほどの男女がいてすでに盛り上がっています。
「あっ、××さんもおる。◯◯さんもおる。売れてる人ばっかりやー」
部屋の一番奥の隅っこの席に、帽子を目深に被った人が壁に背をもたせかけて座っていました。
「誰やろ?」
目を凝らして見ると、
「あーーーーーーーっ、あーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
僕は思わず、その人を指さしながら絶叫してしまいました。
「自分、初対面の人間のこと指さして、なんやねん」
声の主は、紛れもなく明石家さんま師匠でした。
「チャンス大城と申します。よろしくお願いします」
「仁義なき戦いって、なんやねん」
その日、僕はたまたま仁義なき戦いのTシャツを着ていたのでした。ありがたや、さんま師匠は爆笑してくれました。
初参加の僕に、その日のメンバーが自己紹介をしてくれることになりました。
タレントの卵だという若い女性が、最初に挨拶をしてくれました。
「アサミと申します」
「チャンス大城です。珍しいお名前ですね。マンガの『あさりちゃん』と同じ名前なんや」
「アサリじゃないよ、アサミちゃんだよ。何言ってんだよ」
メンバーのひとりに、すかさずツッコミを入れられてしまいました。個室の中に微妙な空気が流れました。するとすかさず、さんま師匠がこう言ったのです。
「ほな、隣はシジミちゃんでな」
このひと言で、変な空気を一瞬で消してしまったのです。
僕は師匠の反射神経の鋭さと人間的な優しさに、ただただ圧倒されてしまいました。
「誰か、牛丼食べへんか」
「食べます」
「ほな、俺とチャンスと二人前や」
黒服のお兄さんが、牛丼をふたつ持ってきました。
「俺、お新香食われへんから、おまえ食うとけ」
「おかんに、さんま師匠からお新香もらったって自慢しときます」
さんま師匠は、ちょっとだけ笑ってくれました。