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“おバカ”タレントに東大生…クイズがスターを生み出しはじめた 「クイズの歴史」平成編

 世界最初のクイズを出したのはスフィンクス、日本初のクイズ番組をもたらしたのはGHQ(連合国軍総司令部)だった。記事「日本最初のクイズ番組はGHQがもたらした? 今こそ知りたい『クイズの歴史』昭和編」で紹介した「クイズの歴史」昭和編に続き、今回は平成編をお届け。今回も、『史上初! これ1冊でクイズのことがまるっとわかる クイズ用語辞典』(三木智隆、石野将樹、徳久倫康著/田中健一著・監修)から、クイズの歴史についての解説を一部抜粋・改編して紹介する。

三木智隆、石野将樹、徳久倫康著/田中健一著・監修『史上初! これ1冊でクイズのことがまるっとわかる クイズ用語辞典』(朝日新聞出版)
三木智隆、石野将樹、徳久倫康著/田中健一著・監修『史上初! これ1冊でクイズのことがまるっとわかる クイズ用語辞典』(朝日新聞出版)

 昭和が生んだ圧倒的スケールのクイズ番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」に続き、平成元年である1989年には「史上最強のクイズ王決定戦」、翌90年には「FNS1億2000万人のクイズ王決定戦!」がスタート。この2番組は90年代前半にクイズ王番組の双璧と言える存在となり、ハイレベルな問題に次々と正解していくクイズプレーヤーが大きな注目を集めました。

「ウルトラ」「史上最強」「FNS」が並び立ったのはほんの数年ですが、この3番組の頂に立つことが多くのクイズプレーヤーの憧れでした。全てを制覇すれば「三冠王」や「グランドスラム」といった称号が贈られた(または自称した)と思われますが、三冠どころか二冠の達成者さえ現れなかったことからも、群雄割拠の時代だったことがわかります。

 残念ながら、華やかな時代は長続きせず、1992年に「ウルトラ」、94年に「FNS」、95年に「史上最強」が次々に終了。一時的な大型クイズ番組ブームが去りました。一方で、80~90年代に人気を集めたのは、海外取材系の「なるほど!ザ・ワールド」や「日立 世界ふしぎ発見!」、パズル系の「マジカル頭脳パワー!!」、教科書系の「平成教育委員会」のように、雑学的なクイズとは一線を画し、どれも芸能人が解答者となる番組でした。

 しかし、クイズプレーヤーたちがひのき舞台に立てる場がなくなったわけではありません。1990年代には関東・関西それぞれで大学のサークルや個人が主催者となる「オープン大会」が次々にスタート。テレビから離れた場所で独自の進化を遂げていくことになり、「テレビ出演」や「一獲千金」を目標とせず、純粋にクイズを極めたいというプレーヤーも目立ち始めました。

 最多で800人以上の参加者を集めた日本最大級の学生クイズ大会「abc」から、数十人規模の小さな大会まで、オープン大会はより細分化して多彩に。現在は土日祝日にはどこかで必ず何らかのオープン大会が開かれていると言っても過言ではないでしょう。

 さて、話をクイズ番組に戻すと、2000年に視聴者参加型の「クイズ$ミリオネア」と「タイムショック21」がスタート。どちらも最高1000万円という高額賞金が売り物でもあり、テレビから離れた場所で力を蓄えてきた猛者たちの努力が報われる場にもなりました。ただ、視聴率が振るわなかったこともあり、これらの番組は「視聴者参加型」としては長続きせず、徐々に「芸能人出演型」へとかじを切っていくことになります。

 そんな中、2002年には「クイズ!ヘキサゴン」が放送開始。2005年に「クイズ!ヘキサゴンII」に移行した後は、いわゆる“おバカ”タレントが注目を集めるようになりました。

 また、2003年には5人1組で挑戦する「ネプリーグ」、2007年には「クイズプレゼンバラエティー Qさま!!」の「プレッシャーSTUDY」が始まり、両番組は現在も続いています。

 もはや一般視聴者参加型のクイズ番組は成立しないのか?とも思われましたが、2008年にエポックメイキングな出来事がありました。老舗番組「高校生クイズ」が突然「知力の甲子園」に路線を変更したのです。そこでは、無名ながら圧倒的な頭脳と知識量を誇る高校生たちが、数々の難問に苦もなく答えていく姿が話題となりました。

 この「知力の甲子園」は5年間で幕を閉じましたが、「THEクイズ神」のように広く門戸を開いた視聴者参加型のクイズ王番組も誕生。2011年には「頭脳王」がスタートし、2015年に始まった「Qさま!!」の「螺旋(らせん)階段」形式にも一般人のクイズ王が出場しました。

 そして、テレビ業界における東大生ブームに乗り、2016年に「東大王」がスタート。もともと素人だったクイズ王のタレント化や、新たなクイズ王の育成に成功し、わかりやすいブランドを身にまとったクイズ王集団は、メンバーを入れ替えながら活躍を続けています。

 ここまで、テレビに焦点を当てるかたちでクイズの歴史を追ってきましたが、最後に他のフィールドについても触れておきます。

 2000年代にはアーケードゲーム「クイズマジックアカデミー」と「Answer×Answer」がスタートし、ゲームセンターで他のプレーヤーとオンライン対戦することが可能に。2015年にリリースされたスマートフォン向けアプリ「みんなで早押しクイズ(みんはや)」も大人気です。2010年代に連載された漫画「ナナマル サンバツ」は単行本20巻まで続き、アニメ化や舞台化も実現。2014年に創刊された雑誌「QUIZ JAPAN」は、不定期刊行ながら徐々に厚みを増し、「vol.15」に到達しました。

 2016年にはウェブメディア「QuizKnock」がスタート。ウェブ上で公開されているクイズやYouTubeの硬軟織り交ぜた動画は、クイズの入り口を大きく広げて多くのファンを獲得しました。2023年にはYouTubeのチャンネル登録者数が200万人を突破し、クイズの世界にとどまらない人気コンテンツに成長しています。

 また、かつては入手経路が限られていたクイズの問題集や早押し機が、誰でも簡単に購入できるようになったことも、クイズの裾野を広げることに寄与したと言えるでしょう。そして、まだ局地的ではありますが、クイズが楽しめるスペースやバーも誕生しており、クイズをやりたいときに気軽に足を運べる場が、今後さらに増えていくと思われます。

 今や誰もが簡単にクイズに触れることができ、解答者だけでなく企画者・出題者としても楽しめる時代になりました。クイズの進化はとどまることを知らず、さらなる発展が期待されますが、未来に目を向けると最も注目されるのがAIとの関わり方でしょうか。

 AIはいかなる問題群においてもクイズ王を凌駕(りょうが)できるのか。プロのクイズ作家と同じ品質の問題をそろえることができるのか。クイズの世界におけるシンギュラリティはいつか訪れるのか。興味は尽きることがありません。

(文:クイズ作家・校正者 田中健一/構成:生活・文化編集部)