元開成中学・高校校長に聞いた「中学受験で親が気をつけたい3つのポイント」
中学受験をする子どもが増えています。一言に受験といっても私立、国立、中高一貫、男子校、大学附属など、さまざまな選択肢があります。東大合格者数40年連続日本一の開成中学・高校の元校長で、現在は北鎌倉女子学園の学園長を務める柳沢幸雄さんは、著書『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』(2018年、朝日新聞出版)の中で、学校選びで一番大事なのは親子で十分に話し合い、最終的に子どもが決めることだと述べています。中学受験で親が気を付けたいポイントについて伺いました。
(1)志望校を決めるのは子ども本人
学校選びの目安に「偏差値」があります。しかし、はじめから「この成績ならこのレベルの学校」と決めつけるのではなく、幅広い視野でたくさんの情報を収集することが大事です。
「この学校に通わせたい」「自分の出身校に」と、親が志望校を決めるケースがありますが、学校に通うのは子どもです。しっかり話し合い、最終的には子ども自身が志望校を決めるのが重要。そこを明確にしないと、入学後にうまくいかないとき「お母さんたちが勝手に決めた」「本当は違う学校が良かった」のように、親のせいにされてしまいます。
そして、学校と子どもとの相性も受験では重要な要素です。それを見極めるには、志望校の文化祭や運動会、学校の説明会など、あらゆる機会を見つけて子ども自身が学校に足を運び、その雰囲気を生で感じ取ることです。
そうすれば次第に好みがハッキリして、合う、合わないも分かってきますし、「行きたい」と思う学校に対する憧れも湧いてきます。
そしてこの憧れが「ぜったいこの学校に行くんだ!」というモチベーションを引き出し、受験を乗り切る原動力になるのです。当たり前ですが、受験をするのも学校に通うのも子どもなのですから、親は、サポート役に徹すればいいのです。
また、受験の際に、母子が一体になって頑張り、父親が蚊帳の外という家庭をたまにみかけます。実際、仕事が忙しければ塾の送り迎えや学校見学などに参加するのは難しいかもしれません。
しかし、父親には父親らしいサポートの仕方があるはずです。たとえば、塾の成績に一喜一憂している子どもとお母さんに、もう少し長い目で見て今後の勉強の仕方をアドバイスすることもできるでしょうね。父親も受験に積極的にかかわって、子どもの頑張りをきちんと見つめながら応援してほしいのです。
(2)第1志望に行ける子は1割と知る
中学受験で第1志望に合格する受験生の割合は、保護者のみなさんが思っているよりずっと少なくて、全体の約1割程度です。
つまり、あとの9割は第2志望、第3志望、あるいは地元の学校に通うのです。はじめから、期待するなというわけではありませんが、第1志望に合格しなかったときの心構えも必要なのです。
不合格はショックなできごとですが、大切なのは気持ちを切り替えて、実際に通う学校に早く馴染んで自分らしいポジションを見つけること、心地いい居場所をつくることです。いつまでも「第一志望に落ちた」と、ネガティブな気持ちを引きずっているのは、まさに時間の無駄。最も問題なのは親の落胆が子どもに伝わることで、特に一緒に過ごす時間の長いお母さんの失望感は子どもに大きなダメージを与えます。
だからこそ、「第一志望に合格するのは一割」という現実をわきまえて、たとえ第1志望に合格できなくても、それまでの頑張りを認めてほめる姿勢が親には求められるのです。
(3)合格時の順位と卒業時の順位には相関性がない
「ぎりぎりで合格するなら、ワンランク落として上位を狙ったほうがいい」「補欠入学だと、苦労するかもしれない」。そんな風に考える親御さんがいますが、実は合格時の順位と、卒業時の順位にはあまり相関性がありません。
ただ、「1年生の学年末の成績は出口を予想するのに非常に重要な情報」であるのは、多くの学校の先生方が言うことです。
つまり、トップで合格した子がずっとトップとは限らないし、繰り上げ合格になった子でも、ぐんぐん成績を伸ばすケースも珍しくないということです。それは、入学してから、新しい環境になじんで自分の居場所を見つけ、学校生活で勉強や部活動などを積極的に楽しめるかどうかに大きく左右されるのです。
ですから、中学受験の合否の結果について一喜一憂する必要はなく、むしろ、そのあとの対応が重要ということです。
中学での新生活に限らず、新しい環境に順応する力は、社会人になっても求められるものです。親は子どもを前向きにサポートすることで、この力を養ってあげることができるのです。
(取材・構成/松島恵利子)
柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
1947年生まれ。東京大学名誉教授。北鎌倉女子学園学園長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年、システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授、開成中学校・高等学校校長を経て2020年4月より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。自身も男の子を育て、小学生から大学院生まで教えた経験を持つ。
主な著書に『東大とハーバード 世界を変える「20代」の育て方』(大和書房)、『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』(祥伝社)、『母親が知らないとヤバイ「男の子」の育て方』(秀和システム、PHP文庫)などがある。