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文章が苦手だからこそ書き始めたエッセイが一晩で数百万人に拡散 潮井エムコとは何者なのか?
家庭科の授業での学生結婚と子育て経験や、スパイであった祖母のコードネームが自身の名付けの由来であったという衝撃的事実など、ユーモアたっぷりのエッセイが度々注目を集めてきた潮井エムコさん初の著書『置かれた場所であばれたい』(朝日新聞出版)。本の中で「不調和な刺激で満ちていた」と表現した10代までの思い出や、著者のこれまでを綴った数々のエッセイへの思いを、潮井さんに担当編集が聞いた。
![潮井エムコ『置かれた場所であばれたい』(朝日新聞出版)](https://assets.st-note.com/img/1720251964034-Lp6iBZY1Z5.jpg?width=1200)
――22万超の「いいね」を集めた「学生結婚と子育て」(※初出時「女子高生の私が学生結婚した話」)は、潮井さんがエッセイをnoteに書き始めた2021年2月に発表された作品です。瞬く間に拡散され、メディアから取材依頼が舞い込むほどでしたが、元々文章を書くのは得意だったのでしょうか?
潮井エムコ(以下、潮井):いえいえ全く……。私は文章を読むのが苦手、書くのはもっと苦手な人間で、そんな自分を変えたいと思って練習のつもりでnoteにエッセイを書き始めたんです。
美術系のコースの高校に通っていたこともあり、絵で表現するのは苦じゃない。なのでエッセイを書きながら「イラストで補足できたらもっとわかりやすく説明できるのに……」と思ったこともありましたが、それでは意味がないとグッと堪えてなんとか文章を綴っていました。
――ご自身の本の中で、潮井さんが特に気に入っているエピソードがあれば教えてください。
潮井:終始しょうもないことしかいってない話と、最初から最後まで真面目なことを言っている話と、収録作品の中に結構温度差があるので、かなり悩みます……。笑える話だと、「義父とメダカ」でしょうか。
私が、義理の父がかわいがっているメダカの水槽に尻を突っ込んだという話です。オットと結婚してすぐの頃、寡黙な義父と仲良くなるべくメダカの話題ばかり出していたら、メダカ好きだと思われてしまって。庭の水槽を見ながら熱心に話を聞いていたら、うっかりやってしまいました。
これは、自分の中で絶対に書いてやる!って思っていたんです。すごく恥ずかしかったので、「エッセイのネタとして消化して元を取るぞ」って気持ちでやりすごしたことを覚えています。
真面目系のエッセイでは、今回書き下ろした「庭木のピアノ」という、短大生の時のピアノの授業の話が気に入っています。
幼稚園教諭と保育士の資格を取るためにはピアノの単位を必ず取らなければならないんですが、私はピアノ未経験からのスタートだったんです。そんな私のピアノの授業を担当してくださっていた先生とのエピソードを書きました。
学内でも「厳しい」と有名な先生で、確かに練習しないとめちゃくちゃ怖い。でも、頑張ればそれをちゃんと認めてくれる先生で、そのおかげで辛い練習も頑張れた。とてもありがたい存在でした。独特で的確な表現で私の演奏を評価してくれるのが楽しみでもありました(笑)
例えば、「あなたの体を流れているのは、日本じゃなくてラテンのリズム」とか「短調の曲をこんな死にそうに弾く人ははじめて」とか……。貶されているようなんだけど、これが確かに私の演奏にぴったりな表現なのがまたおかしくて。いつかエッセイにしたいと思っていたので、今回書き下ろしとして入れられてよかったです。
――厳しいけれど愛のある先生だというのが、エッセイから伝わってきました。
潮井:はい。タイトルだけ聞くと「なんじゃそれ」と思われるかもしれませんが、初めてバズった時に書いた家庭科の先生を始めとした、良い先生シリーズの仲間入りになるような話になっています。
あとは、すでに発表しているエピソードでも書き足した部分ですかね。書籍化作業の中で、編集や校正の方からいただいたご指摘で表現を変えたり、バッサリ切って丸々書き直したところがあるのですが、そうしたエッセイは印象に残っています。
noteで発表したエッセイと書籍に載っているものと、書いてあるトピックスとしては一緒なんですが、温度感や濃さ、密度的な意味では書籍の方がかなり濃厚になっていると思います。
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潮井さんの文章が注目されるきっかけとなった家庭科の風変わりな授業の話や義父のメダカの水槽に尻を突っ込んだハプニングまで、潮井さんは日常のちょっとした出来事をみずみずしく切り取りエッセイにしたためる。楽しいことばかりが起こるわけではない日々に、ささやかな面白さを見出し続けるこの視線は、現代を生きる多くの人にヒントを与えそうだ。
(取材・文=大谷奈央)
※後編につづく
潮井エムコ
1993年4月1日生まれ。2021年より、noteにてエッセイの執筆を開始。「つらいときほど尻を振れ」をモットーに、日々エッセイをしたためている。