直撃を受けたら地球は消滅!米軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは
アメリカ、イギリス、旧ソ連は、1963年に「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。
ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。
1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。
ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている。
謎のガンマ線が宇宙から降り注いでいることがヴェラによって判明すると、各国は本格的に天文観測衛星を打ち上げはじめた。1970年にNASAが打ち上げた世界初のX線観測衛星「SAS-A ウフル」もその一機だ。ガンマ線バーストやブラックホールなど、高エネルギーな電磁波が放出される天文現象では、ガンマ線のほかにX線などが放出される。それを検知する天文観測衛星である。
ウフルは、「はくちょう座」にある超巨星を重点的に観測した。この星は、ペアとなるもうひとつの恒星との共通の重心を周る「連星(双子星)」である。太陽の30倍もの質量を持つこの超巨星が、他の何者かによって、操られるかのように奇妙な軌道を描くからには、その相手の天体はさらに大きな質量を持っていると予想された。しかし、その星が見つからない。つまり、この超巨星とペアを組む相手は、見えないブラックホールである可能性が高い。
ウフルは、見えない相手(主星)がいると予想される領域を重点的に観測した。その結果、強いX線の放射を発見した。これが史上はじめて特定されたブラックホールの有力候補である。後日この天体は「はくちょう座X-1」と命名された。
1960年代、ヴェラによってガンマ線バーストが偶然発見され、1970年代にはウフルがブラックホールの候補を特定した。人類にとって未知であったそれらの天体を発見してから半世紀が過ぎた2019年には、ブラックホールの間接的撮影にも成功し、2021年からはブラックホールのマップ作製も開始されている。
宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない。
(ライター 鈴木喜生/生活・文化編集部)