月曜、真昼を飛ばして行く
友人をご飯に誘った。GWで学校もないため、ランチタイムにコスパ最強のからあげ定食を提供してくれる居酒屋の前で待ち合わせることにした。そのメールを送ったのが土曜の夜で、時間を決めたのが月曜の朝。僕は時間を打ち込んで二度寝の海に飛び込んでしまったきり、なかなか浮上できなかった。息を吸えたのが待ち合わせ時間の五分前で、三秒心の中で悟って、五秒謝り、メールで「十分ぐらい遅れる。ほんまに申し訳ない」と送った。顔を洗って、歯を磨いて、服を着て、それを三分でこなす。水を飲んで、ヘルメットを被って原付のエンジンをかけたら手首を回して目的地へ飛んだ。ゆっくり月曜の午後に浸りながら、自転車を漕いで行こうと思っていたのだがそれも叶わなかった。けれど、風が気持ちよくて、余裕はないけれど、それがいつもの月曜みたいで不思議な気持ちだった。
十五分ぐらいで居酒屋に着き、待ち合わせ時間より十分遅れからさらに五分遅れぐらいの時間だった。しかし、彼の姿がなく、メールで「どこにおる?」と送っても既読すらつかなかった。以前にも似たようなことがあった。僕が遅れる時間を読んで、彼も家を出る時間を遅らせているのだ。こんな時間にルーズな奴らはいない。元凶は僕なのだけれど。ともあれ、彼が僕の十分遅れぐらいで到着し「すみません、遅れました」「許しません」という定型の返しで場を誤魔化した後に、その居酒屋に入ろうとすると入り口に「GWのため定食はお休みさせていただきます」と書かれた看板が立てかけられていた。
僕たちはあてもなくぶらぶら辺りを歩いて、結局近くのイタリアンレストランに行くことになった。そこはハンバーグとスパゲッティの二台巨頭を掲げており、僕はイタリアンハンバーグを頼み、彼も同じのを頼んだ。
どうも上手く撮れていないが、記録用なので味を思い出せればそれでいい。美味しかった、今思い出しても。
その後、道中で会った幼馴染と僕と友人の三人でマクドナルドへ行きプリンパイとヨーグルト味のフロートを食べた。少し駄弁ってから、彼らが教習所に行くというので別れた。時間は十三時頃だった。風も穏やかで陽気な月曜日だったので、そのまま行くあてもなく原付を飛ばした。
田舎の旧道は車通りがほとんどなく、月曜ということもあって気兼ねなく運転できた。僕は横の細い道に逸れて、バイパスを横切りずっと一直線の道をただひたすらに原付で走った。そこで逃げ水を見つけたが、追いつけなかった。夏だなぁ、と思って手首を捻った。風を切っていく感覚と、擦れていく音が耳元で大きくなる。ウインカーをかけて左に曲がる。田んぼの真ん中にぽつんとある公園があって、そこの駐車場の端に停める。ゲートボールをするおじさんとおばさんの横で、お父さんらしき人と女の子が遊んでいた。今日一日中、僕の頭の中ではずっと穏やかという言葉があって、この公園にはそれで満ちていた。公園の周りには遊歩道があって、山へと繋がる散策路があった。
羊文学を聴いていた。ここ二、三日で彼らの音楽をまともに聴こうと思って最初のアルバムから聴き始めた。それが日曜の夕方で『トンネルを抜けたら』というアルバムを聴いた瞬間、音の気持ちよさに思わず、うわーっと叫んだ、畦道で。そのアルバムの一曲目は『雨』という曲で、途切れ途切れのアルペジオから始まるのだが、その絶妙な歪み具合やディレイが生み出す立体感というか、これが個性なんだ才能なんだと正面から突きつけられるような音色だった。そこから解放するようにコードを掻き鳴らす。Aメロでその緊張感を保ちながら間奏、Bメロ、サビへと繋ぐ。翌日の月曜日もアルバムを聴きながら公園を歩いた。『若者たちへ』というアルバムだ。とりあえずなにも考えずに聴いてみるべきだと思う、彼らの音楽は。ベンチに座りながら『天国』を聴いていた。最高だった。
アルバムを一枚聴き終えてから、少し離れたところにある浜辺まで原付を走らせた。バイクと車がそれぞれ一台停まっていて、浜辺では一組のカップルが流木で何かを描いていた。僕はそれを遠くで見ながら、アスファルトの道を歩いた。カップルから少し離れたところで浜辺に降りると、ヒルガオが咲いていた。調べるとハマヒルガオというらしい、友達みたいなもんだ。
靴に砂が入らないよう気にしながら、水際を歩いた。波が不規則に押し寄せて、これを一人で眺めることに大切な意味があるように感じていた。波から少し離れて乾いた砂を手で掬って風に乗せると、なんだかとても綺麗で写真を撮ろうと思ったが野暮だと思い直して辞めた。背景で海が光って明るい夜空みたいだった。忘れられないなら撮る必要もない。浜辺から上がり、海岸林で影になっているところで海の写真を撮った。これだけで十分だと思った。
原付を停めてあるところまで帰る途中で、おっさんみたいな猫がいた。カメラを向けても微動だにしなかったのが、シャッター音に気づいて顔を背けられてしまった。ごめんなさいと言いながら、もう一枚撮った。
浜辺から舗装されていない細道を通って、家もないような道を抜けて、またバイパスを横切る。入り組んだ住宅街へ入ってすぐ抜けた後、田んぼ道を走る。旧道を走って、右に逸れて少し行くと自宅に着く。僕はそこを通り過ぎて、この街で唯一のコンビニでガリガリ君を買って頬張る。その後も適当に街を走っていると、全体がオレンジ色に染まり始めて、真昼だったさっきまでの世界を飛ばして来たかのように思った。
これはGWに書いた日記だ。下書きを漁っていると見つけた。今見返すと夏の匂いがする。とても良いので、これを機に上げておく。