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浦島あさたろう
むかしむかし、ある海沿いの村に、心のやさしい浦島あさたろうという40歳の男がいました。
あさたろうは、あることがきっかけでお爺さんに勘当され、この村で一人で暮らしていました。
あさたろうが海辺を通りかかると、子どもたちが大きなカメを捕まえていました。
そばによって見てみると、子どもたちがみんなでカメをいじめています。
「これこれ、カメが可哀想じゃないですか。逃しませんか?」
「いやだよ。オラたちがやっと捕まえたんだもの。どうしようとオラたちの勝手だろ」
見るとカメは涙をハラハラとこぼしながら、あさたろうを見つめています。
あさたろうはお金を取り出そうとしましたが、全財産が60円しかありませんでした。
仕方ないので、くしゃくしゃになった麻雀すらいむのゲーム券を、子どもたちに差し出して言いました。
「それでは、この券をあげるから、おぢさんにカメを売っておくれ」
「うん・・・じゃあそれでいいよ」
どん引きした子どもたちからカメを受け取ると、
「大丈夫ですか?もう、捕まるんじゃないですよ」
と、カメをそっと、海の中へ逃がしてやりました。
さて、それから二、三日たったある日の事。あさたろうがフリーで負けて堤防でぼーっとしていると、
「・・・あさたろうさん、・・・あさたろうさん」
と、誰かが呼ぶ声がします。
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「やばい、まじで幻聴が聞こえてきたわ・・・(^ω^;)」
「わたしですよ」
すると海の上に、ひょっこりとカメが頭を出して言いました。
「このあいだは助けていただいて、ありがとうございました」
「はい?何のことですか?」
「覚えてらっしゃいませんか?」
「やばいわ・・・まったく覚えてない(^ω^;)」
「あさたろうさんのおかげで命が助かりました。ところであさたろうさんは、竜宮(りゅうぐう)へ行った事がありますか?」
「竜宮って中国ですか?」
「海の底です」
「海の底へなんか、行けるわけないでしょwww」
「わたしがお連れしましょう。さあ、背中へ乗ってください」
カメはあさたろうを背中に乗せて、海の中をずんずんともぐっていきました。
海の中にはまっ青な光が差し込み、コンブがユラユラとゆれ、赤やピンクのサンゴの林がどこまでも続いています。
「(はあ・・・フィーバー打ちてえな・・・)」
あさたろうが悪態をついていると、やがて立派なご殿へ着きました。
「着きましたよ。このご殿が竜宮です。さあ、こちらへ」
カメに案内されるまま進んでいくと、この竜宮の主人の美しい乙姫さまが、色とりどりの魚たちと一緒にあさたろうを出迎えてくれました。
「ようこそ、あさたろうさん。わたしは、この竜宮の主人の乙姫です。このあいだはカメを助けてくださって、ありがとうございます。お礼に、竜宮をご案内します。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね」
(美人だけど、案内なんかいいから金をよこせよな)と、あさたろうは思いました。
あさたろうが竜宮の広間へと案内され、用意された席に座ると、魚たちが次から次へと素晴らしいごちそうを運んできます。
ふんわりと気持ちのよい音楽が流れて、タイやヒラメやクラゲたちの、それは見事な踊りが続きます。
ここはまるで、天国のようです。しかし、魚介類が大の苦手なあさたろうにとっては退屈な余興でした。
どうやらすぐには帰れそうにないことを察したあさたろうは、手の震えも止まらないので、思い切って訊いてみることにしました。
「あの・・・つかぬことを伺いますが、ここでは麻雀はできないんですか?」
「もちろんありますよ。ここでは四麻も三麻も、東天紅もフィーバーもできますす」
「ほ、ほ、本当ですか?!や、やりたいです!!」
それから何日も寝ずに、あさたろうは麻雀を打ち続けました。
そして、
「もう一日、いてください。もう一日、いてください」
と、トリップにハマってしまった乙姫さまに言われるまま竜宮で過ごすうちに、一ヶ月の月日がたってしまいました。
一ヶ月間の麻雀で百五十万円以上負けてしまったあさたろうは、ある時、はっと思いました。
(このままでは清算できない・・・どうやってバックレようか・・・?)
そこであさたろうは、乙姫さまに言いました。
「乙姫さま、今までありがとうございます。ですが、ちょっとそろそろ僕のアパートを見てこようと思います」
「帰られるのですか? よろしければ、このままここで暮らしては」
「いえ、僕の帰りを待つ者もいますので」
あさたろうは見え見えの大嘘をついて振り切りました。すると乙姫さまは、さびしそうに言いました。
「・・・そうですか。それはおなごり惜しいです。では、おみやげに玉手箱を差し上げましょう」
「玉手箱?」
「はい。この中には、あさたろうさんが竜宮で過ごされた『時』が入っております。これを開けずに持っている限りあさたろうさんご自身は年を取りません。ずーっと今の若い姿のままでいられます。ですが一度開けてしまうと、今までの『時』が戻ってしまいお爺さんになってしまうので、決して開けてはなりませんよ」
(何言ってんのかわかんねぇ・・・(^ω^;)ていうか金じゃねぇのかよ)
「わかりました」
あさたろうは帰れることにホッとし、適当に返事をしてしまいました。
乙姫さまと別れたあさたろうは、またカメに送られて地上へ帰りました。
地上に戻ったあさたろうは、あたりを見回してびっくり。
「おや?わずか一ヶ月で、ずいぶんと様子が変わったな」
確かにここはあさたろうがいた堤防ですが、何だか様子が違います。
あさたろうの家はどこにも見あたりませんし、もともと人の顔を覚えられないことを差し引いても、出会う人も知らない人ばかりです。
「俺の家は、どうなったのだろう?麻雀すらいむはどこかへ移転したのだろうか?・・・あの、すみません。浦島あさたろうの家をご存知ありません?」
あさたろうが一人の老人に尋ねてみると、老人は少し首をかしげて言いました。
「あさたろう? ・・・ああ、確かあさたろうという人なら百年ほど前に海へ出たきりで、帰らないそうですよ」
「ああ!?」
老人の話しを聞いて、あさたろうはびっくり。
竜宮の一ヶ月は、この世の百年にあたるのでしょうか?
「すらいむの常連さんもメンバーさんも、みんな亡くなってしまったのか・・・」
がっくりと肩を落としたあさたろうは、ふと、持っていた玉手箱を見つめました。
「まてよ?そういえば乙姫は言っていたな。この玉手箱を開けると『時』が戻ってしまうと。・・・もしかしてこれを開けると、自分が暮らしていた時にタイムスリップするんじゃないか?」
通常ありえない解釈をしたあさたろうは、開けてはいけないと言われていた玉手箱を開けてしまいました。
モクモクモク・・・。
すると中から、まっ白のけむりが出てきました。
「おおっ!これはっ!!」
けむりの中に、白や7がたくさんある牌姿がうつりました。
そして楽しかった竜宮での一ヶ月が、次から次へとうつし出されます。
「ああ、僕は、竜宮へ戻ってきたんだ」
あさたろうは、喜びました。
でも玉手箱から出てきたけむりは次第に薄れていき、その場に残ったのは髪の毛もひげもまっ白の、ヨポヨポのお爺さんになったあさたろうだったのです。
おしまい
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