第19話 ファントムペイン 前編
勤勉で真面目なタイプであるあっさじーんさんは、人が休んでいる夜間の時間帯に仕事をしている。
大まかに彼の生活スタイルを書くと
日中: 睡眠 or 麻雀。
夜間: 仕事中に天鳳を打つ。
明け方~昼: 睡眠不足でIQが500下がる。キレやすい。
睡眠不足で頭の回転が鈍くなるのは誰でもあることだが、彼の場合は、例えるとジェラートにセメントを混ぜたような回転率になってしまう。
そういった生活リズムだったり食生活の乱れのせいか、2019年になってからは慢性的な体調不良を訴えはじめた。
胃のあたりに違和感があり、食事をしてもすぐに満腹になるらしい。
キャッシュレス時代である現代でリアル・キャッシュレスな彼にとっては好都合な症状だろう。しかしいくらあさじんさんとはいえ、胃潰瘍なら大変だ。
この不快感を取り除かないと夜間の勤務で(天鳳に)集中できないようで、すぐにでも病院で検査したい、しかし金欠で検査を受けられない、そしてさらに悪化する、という一人デフレスパイラルを起こしていた。
三鷹の雀荘『遊図』の店主 澤田氏は彼を心配し、「店での仕事に支障をきたすと困るから、病院代は出すから行ってきなよ」と手を差し伸べたが、あさあさのじんはなぜか渋っていた。
そんな折、
これは澤田氏に対する愚痴である。
昼ごろになると、彼が大暴走してトゥイッターにあることないこと書いてしまうので、まず落ち着いてLINEで相談しろ、と澤田氏は常々言っている。
あさじんさんは集中力が高すぎるゆえ、普通の人が普通にできる簡単な仕事をミスすることがたまにある。
そこで、澤田氏は細かいことでも褒める方針を取っていた。
客 「コーラちょうだい」
澤田 「あさじんくんコーラってなんなのか知ってる?」
あさ 「はい」
澤田 「よくわかったねぇ。偉いねぇ」
こういったメンバー同士のコミュニケーションは遊図では日常茶飯事だが、あっさじーんさんはこういったことに耐えられず、どんどんフラストレーションを溜めていった。
一般的に考えれば、専門的なスキルも厳しく、頭の回転も厳しく、記憶力も厳しく、対人スキルも厳しい4Kの男性を雇ってくれるところはほとんどない。
しかし、澤田氏は雇うだけでなく住居も無料で与えてあげた。
いろいろと助けてくれた恩人に対してこういう愚痴を書くと印象があまりにも悪いので、普通の思考ができればこういったことは控えるのが普通である。
しかし、いかんせん彼には愚痴を言う相手もほとんどいない上、夜勤明けは普段以上に脳が鈍っているので仕方がない。
トゥイッターで誰にも反応されないことがわかると、今度は専属介護士である私に前述のスクショを貼り相談してきた。
あさ 「これくらいは書いてもいいですよね?」
この相談もこれで4度目だ。ゲームのNPCに話しかけられてる気分になる。
私 「何度もこの相談を受けている気がしますが、解決しないならもう店を辞めるしかないんじゃないでしょうか?」
あさ 「うーん」
彼はこの「うーん」をよく好んで使う。
もはや言葉ではないが、口語ならともかく、メールやLINEで使っている人間はほぼ見かけない。意味は特にない。
私 「澤田さんは煽ってるつもりはないだろうけど、それに怒ってしまうなら仕方ないです。しかし、それを補ってあまりある恩恵を受けているわけだから、ツイッターで愚痴を書くとあさじんさんは自分の首を締めていることになりますよ」
あさ 「その恩恵ってなんですか?」
あさ 「僕と澤田さんは従業員と雇い主ですよ。もう彼の賃貸には住んでないし、卓代もちゃんと返した」
あさ 「雇ってもらってることに恩を感じろというならお門違いですよ」
万引きしたけど商品を返したんだからいいだろ、みたいな言い分である。
暴走状態の彼は思考とLINEがリンクして連投をしてくる。
こういうときはできるだけ簡単な言葉で、簡潔に伝えるのが鉄則だ。
長文になると最初に書いたことを忘れてしまうからだ。
私 「煽られるストレスを-1ptとすると、①無料で一年近く住居を借りていた+50pt、②横領を許してもらった +30pt、 ③これから病院代を払ってもらう +20ptくらいはあるでしょう。」
あさ 「でも、煽られたストレスでガンになったとすれば、マイナス1万くらいいきそうだが」
私 「え?胃潰瘍じゃなくて今度はガンなの?」
あさ 「最近胃の様子がおかしいんですよね」
「お前が三鷹のガンだよ」と言いたくなった。
あさ 「とにかく、煽られるのは我慢できないです」
彼はこう続けた。
『牛肉のとんかつ屋』と不思議な言葉を使っているのは日中でIQがガタ落ちしているからに違いない。
頭の検査と胃の検査、どちらを先にするのか見ものである。