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【マンション麻雀】 ガンちゃん

とある夏の日。
気温は35℃を超えるのほどの猛暑であったが、ここはマンションの一室。複数の冷房とサーキュレーターにより空調は完璧に管理されている。

ホット・コールドドリンクも完備されており、快適な空間が常に整えられている。
こういう場ではどこもそうだが、アルコール・ソフトドリンク・軽食・デザート、アイス、(喫煙の場ではタバコ)のような類はかなり充実していることが多い。しかもすべて無料である。

このハウスは比較的高齢の利用者が多く、彼らには「空気を入れ替えなきゃ」という思いが遺伝子レベルで染み付いているらしいこともあり、たまに窓を開けるタイミングがある。
この日、私は初老B・初老C・オナマス黒沢と打っており、その隣では平均年齢75歳の卓が立っていた。

主 「それじゃ、ちょっとの間、窓あけて空気を入れ替えるね」

ハウスの主は齢70に近いが、考え方はかなり革新的で、私の開発したマイティフィーバー東天紅にも数時間で順応してくるような賢者である。
場主には窓を開ける意思などないが、他の老人の意見を聞き入れるのも主の仕事だ。
主が窓を開けるとアブラゼミの鳴き声が室内に入ってきた。と同時に、オナマス黒沢もこれに呼応した。

アブラゼミ 「ジージージージーー」
黒沢 「自慰自慰自慰自慰自慰」
私 「オナマスゼミ、イントネーションおかしくない?」
黒沢 「自慰自慰自慰自慰、・・・ヂィ!」
主 「黒沢くん、発声はちゃんとチーって言ってね」
黒沢 「あ、すません」

初老C 「そういえばさ、シン・ゴジラ観た?きのう愛人と観に行ったんだけどさ、これが結構深くて良い映画なんだよ」
私 「そうなんですかー。まだ観たことないんです。」
初老C 「ド迫力でさ、中身もちゃんとあるんだ。かなりオススメだよ。きみも観てきてよ。語り合いたいよ~」
私 「Cさんがそこまで褒めると興味湧いてきました。今日の帰りにでも観てきますよ」
初老C 「ほんとに?!うれしいなぁ~。きみ明日も来るよね?明日話そうよ~」
私 「ぜひぜひ( ´ ▽ ` )」

実はこのとき、私はシン・ゴジラを既に観ていたので、映画談義をすることもできた。しかし、観ていないことにして「オススメしてもらったからすぐに観に行きました」のほうが印象期待値が高い。「あなたとお話をしたいんです感」を上乗せできるからだ。翌日に会うことがわかっているならより選択しやすい。
麻雀で生活するには、絵合わせと同時にギャルゲーもやらなければならないのである。

黒沢 「ヂィ!」
主 「黒沢くん」
黒沢 「あ、すません」

映画に興味がない黒沢は全く会話に参加せずに3副露目を仕掛け、初老Bのリーチに対して筋の9pを安牌のように置いた。

初老B 「筋の9pはロンッ!ゴンニィ(5200)の1枚!」
黒沢 「ジジジ・・・」

オナマスゼミが2→4フィニッシュを決めて臨終し、短い地上生活に幕を下した。
と同時に、ちょうどリビングの扉が開かれた。

「こんちはー」

主 「やあガンちゃん」

ガンちゃんの登場だ。
あだ名の由来はガン牌が特技なわけではなく、顔面騎乗位が好きなわけでもなく、射撃の腕が良いわけでもない。名前が「元(はじめ)」だからである。
ガンちゃんは齢60麦わら帽子に半袖短パンの浅黒で、仕事は何をしているかわからない。

ここで初老Cが「じゃ、シン・ゴジラ観てきてねー」と業者のように宣伝しながら卓を抜け、ガンちゃんはお手持ちをプレートにエクスチェンジするとすぐに席に着いた。

ガンちゃんはいつも100点ほどのお手持ちを持参しているが、下振れを引いて90点以上負けるとしばらく来なくなる悪癖がある。
前回参戦したときは、主がダイソンの掃除機のようにチップをかき集めたため、ガンちゃんは80万気持ちポインツ以上を表明していた。
彼は今回が2ヶ月ぶりの参加であったが、控えめに言ってもメンバーの中ではバンクが少ないほうだろう。

ガンちゃんは容姿そのまんまの陽気な性格で、この日も軽い感じで胃にガンが見つかったことを語りはじめた。


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